10 ホーリーナイトはじめます④問い
『――ほほう。面白い輩がおるではないか』
突然、安息所にしゃがれた声が響き渡った。
「なっ……!」
安息所の入り口で、サリーが声を上げた。
俺も、同じくらい驚きながら叫ぶ。
「誰だ!?
……ってのも間抜けだな。
魔剣に決まってる」
俺は、安息所を見渡してみる。
その中に、ひときわ強く光る剣があった。
すり鉢の底にある、腰くらいの岩。
その岩のてっぺんに、魔剣が深々と刺さってる。
外に露出してるのは、柄と刃の根元だけだ。
柄は、拳三つ分ほどの長さがある。
どちらかと言えば、片手で扱う剣だろう。
立派な十字の棒鍔が付いている。
金属の柄には、薄紫の光沢があった。
金でも銀でもない不思議な光沢だ。
柄自体は、ツヤの抑えられた白銀色をしてる。
(華美でもないし、粗野でもない)
シンプルながらも、洗練された優美さがある。
(機能美、っていうんかね?
実用性を突き詰めた結果としての美があるな)
鍔の下の刀身は、両刃のようだ。
だが、ほとんどが岩に隠れてしまってる。
十字鍔の下に、拳二つ分の刃が見えるだけだ。
柄は無傷なのに、刀身は錆びて刃毀れしてる。
魔剣は滅多に刃毀れしないものなのだが……。
「おまえ、なのか?」
俺は、その魔剣に向かって声をかけた。
『ほう、驚かぬか。
われ以外にも知性ある剣を見たことがあるか?』
「いや、初めてだ」
『なら、なぜすぐにわかった?』
「魔剣の意思はわかるさ。
言葉で語りかけられたのは初めてだけどな」
『ふむ。おまえは相当な使い手のようだ。
だが、惜しいな。
おまえには聖なる剣は向いていない』
「それは知ってるよ」
『ならばなぜ、ホーリーナイトにならんとする?』
「守りたいものができたからだ」
俺はちらりとルディアを見る。
『守りたい? まことか?』
「ああ」
『おまえは、闇の剣を握っていたのであろう。
なぜ宗旨を変えた?
守るなど、嘘だ』
「嘘じゃない。どうしてそう思う?」
『力に憑かれた者が、そんなことを思うものか』
「俺は目の当たりにしたんだよ。
守る力を。
何かを護ろうと決意した者の力をな」
『かっかっか!
おおかたそんなところであろうな。
早くも馬脚を現しおった』
「なぜ笑う?」
『笑わいでか。
結局おまえは、力を求めておるのだよ。
おまえは、闇の剣では飽き足らなくなった。
おまえは、更なる力を欲していた。
その希求に応じるように、その者が現れた。
おまえは、「守る」力が欲しいのではない。
おまえは、守る「力が」欲しいのだ。
目的と手段が転倒しておるのだよ』
「…………」
剣のセリフに、俺は言葉を失った。
「そんな……ことは」
『おまえが欲するのはあくまでも力だ。
「守る」ことはそのための道具にすぎん。
守るべきものを道具にしてまで力が欲しいか?
それほどまでに力を欲して、何がしたい?
守る守ると言いながら、
今度は何を滅ぼすつもりだ、ダークナイト』
「くっ……」
俺は――衝撃を受けていた。
剣の言うことが、完全に正しいとは思わない。
だが、俺の一面を突いてはいる。
(そうか? 本当に?)
俺は、ルディアの母親との戦いを思い出す。
ルディアの「母親」の名は――
聖竜、ハルディヤと言った。