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――天下に七つの魔剣あり。
燃え盛る火炎の剣――ファイアナイト。
押し流す奔流の剣――アクアナイト。
吹き散らす疾風の剣――ウィンドナイト。
打ち砕く岩石の剣――アースナイト。
鳴り響く雷鳴の剣――サンダーナイト。
悪意を弾く守護の剣――ホーリーナイト。
そして、全てを滅ぼす破滅の剣――ダークナイト。
ダークナイトは、七剣の中でダントツに不人気だ。
誰が、わざわざ破滅を望むだろう?
無謀を勇気と感じるのは馬鹿だけだ。
ただでさえ、魔剣には危険がつきまとう。
好き好んで危険な魔剣を選ぶ理由がない。
無謀を美学と履き違えた愚か者。
ダークナイトはそう蔑まれる。
だが同時に、恐れられてもいる。
己が身を賭して、力を引き出すその狂気に。
危険を顧みず、強敵に喰らいつくその闘志に。
そして、時に味方にも向けられるその殺意に。
七剣のうち、最強にして最狂。
最強にして最恐。
最も鋭く、最も危険な狂った魔剣。
それこそがダークナイト。
強さのみを求める者たちの握る修羅の剣だ。
ダークナイトは、他者の畏怖など気にしない。
強さへの自負を、黒い兜の奥に隠し。
他人からの嫌悪を、力なき者の嫉妬と蔑み。
力に溺れ、力に驕り、力を高めるために剣を振る。
俺も、そんなダークナイトの一人である。
己の心身を代価に磨き上げた黒き魔剣。
悪の魔剣は俺の分身であり、
同時に俺は、悪の魔剣の分身だ。
俺と魔剣は、伴侶ではない。
俺と魔剣は、半身ですらない。
俺と魔剣は、一身にして一心。
俺と魔剣は、一にして二ならざるもの。
俺は魔剣という「物」であり、
魔剣は俺という「者」である。
互いが互いに寄生する、
もはや分かつことのできない、
一個の完成された歪なイキモノ。
全ての魔剣士が焦がれてやまない至高の頂点。
全ての魔剣士が恐れてやまない最悪の堕落。
魔剣士はおのれを滅却して生きた魔剣と化し、
魔剣はおのれを握る者を通して魔剣士と成る。
それが、俺というダークナイト。
百年に一度。
千年に一度。
いや、史上類を見ない神のごときダークナイト。
それが、俺に対する世評だった。
その世評は誇張ではない。
それどころか、俺の達した境地よりはまだ低い。
驕りではない。
自惚れでもない。
端的な事実として、俺はそうした境地にいる。
だが、その境地を今、俺は捨て去ろうとしていた。
守るために。ダークナイトをやめるのだ。