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第4話…つちのことスマートフォン

 それは巨大な蛇だった。

 それは巨大なぬいぐるみだった。

 数百メートルもある巨大な蛇のぬいぐるみ。

 よく見ると蛇の頭には何かが乗っている。

 乗っているのは小さな小さなぬいぐるみ。

 黒い直立した亀の怪獣をデフォルメしたようなぬいぐるみ。

 次元の狭間を進むぬいぐるみ達。

 「ぽこぽこ、もう一度だ」

 亀のぬいぐるみ、かやのんは蛇ぽこぽこに命ずる。

 ぽこぽこは再び全方位を探知する。

 目的の反応はない。

 「ぽこぽこ、通信は?」

 ぽこぽこは通信を試みる、相手は同族のたまたま。

 だが反応はない。

 「貴女は何処に…?」

 男は探していた、行方不明になった恋人を探していた。

 恋人の名前は、ましろん。

 ぬいぐるみの国のお姫様。

 

 紅葉は悩んでいた。

 あの巨大なぬいぐるみ、たまたまは、どうやったら治せるだろうか?と。

 紅葉のお小遣いくらいでは、到底お金が足りない。

 お爺ちゃん、お婆ちゃんに頼んでも無理だろう。

 そもそも、ましろんもたまたまも紅葉にしか認識出来ないのだから他人に助けを求めても、ましろんの存在を信じてなんてくれないだろう。

 夕食の食卓を囲むのは三人。

 紅葉と祖父母。

 とくに見るでもなく点けられたテレビの前には、ましろんが鎮座しテレビ画面に一々反応して声を上げている。

 テレビ番組は未確認生物の特集番組。

 田舎の城下町の裏山で撮られたスマートフォンの動画が流れている。

 タレントが動画を解説する『つちのこ』とか言う未確認生物が映っているらしいが画面は暗いし画質は悪いしで証拠とは言えそうに無かった。

 紅葉は見るとはなしにテレビを見ていて、テレビ画面に『つちのこ』の想像図が映るのを見た。

 それは極端に短い蛇の姿。

 「あっ?!」

 紅葉は声を上げる。

 「どうした紅葉?」

 食事を終えて食後のお茶を飲んでいるお爺ちゃんが聞く。

 「蛇…つちのこ…スマートフォン…」

 紅葉の顔が輝く、希望が見えた。

 これなら上手くいけば、たまたまを治せる。

 「お爺ちゃん、沢山の布と綿が欲しいの、いらない布と綿って無いかな?」

 祖父母は顔を見合わせる。

 「捨てるようなのでよかったら納屋に古い布団とかカーテンとかあるわよ」

 お婆ちゃんが、そう言ってくれた。

 「それ、私がもらっていいかな?」

 「捨てるもんだし、紅葉が使いたいなら好きにしなさい、ついでに納屋にある物なら好きに使っていいぞ」

 「ありがとう、お爺ちゃん!」

 紅葉は考える、明日の朝一番で納屋を見てみよう。

 布団やカーテン、そんな大きな物があれば、もしかしたら…。

 

 翌朝、紅葉とましろんは納屋を調べる事にした。

 ましろんは園芸に使う小さなスコップを持って「ま…ましろんの力を見せつけてやるのですぅ、鼠なんかに負けないのですぅ」と、ちょっと震えている。

 鼠に襲われた納屋は怖いのだろう。

 紅葉は納屋の建て付けの悪い扉をガタガタと開く。

 「こうして見ると…汚いなぁ…」

 何しろ捨てる物ばかり入れている古い納屋だ。

 中は埃まみれで蜘蛛の巣もはっている。

 それでも紅葉は納屋に入ってお目当ての物を探す。

 古いボロボロの布団が二組に座布団にカーテン、他にもタオルに雑巾、古着なんかもある。

 「おおう…宝の山ですぅ…」

 前に入った時には中を調べる余裕なんか無かったのだろう。

 ましろんは驚きの声を上げた。

 家にあったリアカーに布団を乗せて小学校に運ぶ事にした。

 小学生の紅葉と小さなぬいぐるみのましろんには、家から小学校への道のりをリアカーで進むのは大変だったが紅葉は一生懸命リアカーを引く、ましろんも小さいなりに非力なりに手伝う。

 そして何往復もして小学校まで布団やカーテンを運んだ。

 鍵が壊れていた体育館に全て運びこみ、二人は倒れ込む。

 「疲れた~」

 「へとへとですぅ~」

 紅葉はともかく、ましろんも疲労するらしい。

 紅葉は持ってきた水筒の麦茶を飲み、ましろんはキャットフードを齧る。

 一休みしたら、たまたまを治す作業をスタートだ。

 休みながら紅葉は地面に絵を書く。

 短い蛇つちのこの図。

 紅葉が考えたのは、ましろんの尻尾の時の事。

 ましろんの尻尾は短く切れても普通に動いていたし、別の布と綿で治したら問題なく動いている。

 では、たまたまはどうだろうか?

 たまたまの身体は、短くなっても動けるのではないだろうか?

 ましろんから胴体を無くして頭と尻尾だけを繋げたなら、それはトカゲ怪獣のぬいぐるみでは無くなる。

 でも、たまたまは蛇だ。

 どこまでが胴体で、どこまでが尻尾なのか?

 あのテレビの『つちのこ』みたいに短い胴体でも蛇のぬいぐるみになるのではないか?

 そう紅葉は考えたのだ。

 「ましろん、たまたまをこんなふうに治してみようよ」

 「つちのこですぅ?」

 もう一つの考えはスマートフォン。

 スマートフォンには様々な機能がある、電話、メール、カメラ、その他。

 たまたまにも次元を越える力や通信や居場所を仲間に伝える機能など様々な力があったそうだ。

 そのうちの一つだけでいい。

 例えば通信機能が回復したら、ぬいぐるみの国に助けを求められる。

 居場所をぬいぐるみの国が探知したなら誰か迎えに来てくれるだろう。

 だから、たまたまを『つちのこ』みたいに治してみよう。

 「もしかしたらだけど、たまたまの力のどれか一つでも回復するかもしれないよ」

 ましろんは考える。

 そんな事が可能なのだろうか?

 ましろんの頭の中では、たまたまは巨大な蛇。

 たまたまを別の姿にする発想は無かったけれど、やってみて損があるわけではない。

 「やってみるのですぅ!」

 ましろんと紅葉は、たまたまを治す。

 本来の数百メートルのたまたまを治せる程ではないけれど、ましろんが今まで集めたボロ布とは比較にならないくらいの沢山の布がある。

 「さあ、頑張ろう!ましろん!」

 「頑張るのですぅ!」

 持ってきた携帯ラジオをかけながら二人は作業をする。

 カーテンや古着を適当な大きさに切って、たまたまに縫い付いていく。

 何しろ頭だけで自動車並みの大きさのぬいぐるみだ。

 つちのこくらいの胴体を作るのだけでも簡単じゃない。

 二人は夕暮れまで、たまたまを治し続けた。

 

 たまたまを治し始めて三日目。

 「出来たのですぅ…」

 なんとか形になった。

 カーテンとか古着とかで外装を作り、穴をふさぎ、中には布団や座布団から取った綿を詰めて、足りない綿の分は余った布を詰める。

 頭から直接短い尻尾が出てるみたいな造形だけど、一応つちのこに見えない事もない蛇のぬいぐるみが出来た。

 ラジオを切って、ましろんは、たまたまに話しかける。

 「たまたま~ましろんですぅ」

 たまたまは答えてくれるだろうか?

 上手くいくだろうか?

 緊張して見つめる紅葉…

 『ザッザー』っと雑音がした。

 「ああ、もう!ゴメンましろんラジオが切れて無かったみたい」

 全く緊張が変なふうに途切れてしまった。

 『ザーッま…ザー…こ…ザッザー』

 紅葉はラジオを手にする。

 「あれ?」

 ラジオの電源は入っていない。

 ラジオを耳に当てる、ラジオから音はしていない。

 『ザッザー…しろ…ザッ…ザーザー…こに…ザー…い…ザッザー…の…』

 じゃあ、この音は?

 雑音は大きくなる。

 ましろんは止まっている。

 たまたまに話しかけるのを止めて止まっている。

 雑音が、やがて意味のある言葉になった。

 『ましろん、どこにいるの?』

 声は、たまたまからしていた。

 ましろんは叫ぶ!

 「かやのーん!ましろんは!ましろんは、ここですぅ!ましろんは、ここにいるんですぅ!」

 『ましろん?』

 「そうですぅ!ましろんですぅ!ましろんですぅ!」

 通じた?!通信が通じた!

 紅葉が驚愕に喜びに目を見開き、ましろんが叫ぶ。

 『座標探知』

 通信の向こうで、ましろんの居場所を探しているみたいだ。

 『ましろん、迎えに行くよ』

 「待ってますぅ!ずっとずっとずっと待ってますぅ!!!」

 プツッっと通信は切れた。

 「もう…もう大丈夫ですぅ!かやのんが迎えに来てくれるんですぅ!ましろんは!ましろんは国に帰れるんですぅ!」

 ましろんは紅葉に飛びついた!

 「ありがとうですぅ!本当に!本当にありがとうですぅ!全部!全部紅葉のおかげですぅ!ありがとうですぅ!ありがとうですぅ!」

 きっと、もう大丈夫。

 かやのんが迎えに来てくれる。

 少女とぬいぐるみは抱きあって、それを喜んだ。

 

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