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アンダース&アンダーズ  作者: 卵抜きご飯
序章 廃材都市オート
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第三話 記憶喪失の少女・三

 記憶喪失の少女ミカがハルの所へやってきて、暫く経った。元はダミーの住居施設だった一階部分は二人の手によって改造され、今まで地下の工房で寝泊まりしていたハル、新たにこの家の住人となったミカ両名の寝室となった。少し離れた位置に設置された二つのベッドは、元々この家にあったものをハルが手直ししたもので、決して寝心地が良いと言えるものではないが、オートにあるものの中では良品に分類されるだろう。


 この家に、事実上の居候として住み込むことになったミカの役割は、大きな分類で言えばただ一つ。『家事』だ。その大半は料理になるのだが、それ以外にも荒れた工房の整理や掃除も含まれる。

 但し、あまり頻繁に外出するのも危険だという点から、買い出しは主にハルが行う。ミカの外出は、少しずつ慣らしてから、その頻度を高めていくつもりであった。



 そんな二人は、現在、ハルが新たに発見してきた遺物の調査のために地下の工房に篭っていた。


「これ……何ですかね?」

「分からないから調べてるんだろ」


 それは小さな黒いボールが二つ入った白いケース。比較的損傷が少なく、一見すると例の音を記録するボールにも似ているが、それよりも少しばかり大きい。実際にハルが手に取ってみると、重さは音声記録ボールの倍近くはあるように感じた。


「これも何かを記録する為のものか……?」


 調べるために二つのボールを外に出し、ケースの中をくまなく調べ出したハル。すると、クッション性になった底部分が外れ、その下から何かの紙がひらりと落ちた。頑丈なケースに守られていたためか、劣化はそこまで酷くない。


 ハルが手に取ったそれを、ミカも横から首を出して覗き込む。が、彼女に文字は読めない。そんな彼女にも理解できるよう、彼はそれを言葉にした。


「『注意、爆発物』……爆発物?」


 まず、その最上段にデカデカと記されたその一文を言葉にして、彼らは目を見合わせた。パチクリと瞼を動かし、そしてゆっくりと視線を机の上にある二つのボールに向けると、慎重な手つきでケースの中に仕舞い、閉じた。



「……あっぶなかったぁ……!」



 突然、ハルが叫ぶ。それに続いて、ミカも大きく息を吐き出した。


「ほ、本当ですよ……! 間違って爆発してたら、私たち死んでましたよ……!?」

「初めて見るんだから仕方ないだろ……」


 それが爆発物であると知らなかったとは言え、あまり、爆発物を取り扱っているという意識はなかった。下手をすれば、ミカの言うとおり、爆発して家ごと吹き飛んでいたかもしれない。

 ハルもまた大きく深呼吸すると、唾を飲み込んだ。一歩間違えば死んでいたかもしれないという認識が、自然と、彼らの動作を遅くさせていた。


「え、えっと……『超範囲型殲滅用爆弾、ハメツXの使用方法について』……えらく物騒な名前だな……」

「は、『破滅』って……本当、爆発しなくて良かったですね……」


 思わず、苦笑い。それが誤作動する前に回収できたことを幸運と捉えるべきだったのかもしれない。


 だが、実際に調べてみると、残念ながらその爆弾はそれ単体では作動しないようだった。どうやら、あまりの破壊力の高さに、専用の起爆装置が必要になるとのこと。勿論、強い衝撃を与えて誤作動する可能性はあるが、取り敢えずこの場に置いておく限りは安全だということだ。


「いや、でも怖いな……寝てる間に爆発とか……」

「恐ろしいこと言わないでくださいよ……いや、無いです……よね?」


 その可能性が無いと言い切れないのが、また恐ろしいところだ。


 一通り説明書きを読み終えたハルは、一旦ケースの上にそれを置いた。


 続き、もう一つ回収することができた遺物に手を付けた。そちらもまた頑丈そうなケースに仕舞われており、先の件もあって、ハルはかなり慎重にそれを開けた。尚、ミカは部屋の隅まで逃げた。


「お……っと、これは……?」


 ケースの中にあったのは、やはり同じクッション性の保護材と、えらく機械的なデザインで、全く同じ四角い箱が二つ。手のひらと同じ程度の大きさだ。ボタンや伸びる棒などが見受けられる。


「……見た感じ、爆弾ではないようだけど」

「その、爆弾に関してだけ引き運が強いみたいな言い方するのやめてください……」

「いや、事実、爆弾率高いしなぁ……」


 それを慎重に外に出し、説明書きを探すハル。こちらのケースは先ほどの爆弾のケースよりも脆いのか、所々破損しており、遺物本体にも損傷が見られる。完全に使用不能というわけではなさそうだが、要修復といったところだ。

 こちらの説明書きは、蓋側のクッション材の裏に隠されていた。恐らくは衝撃でケースが破損した時に受けた傷だろうが、所々に穴が空いており、完全な解読は不可能。それでも、それが何であるのかは判明した。


「む、せん、き……『無線機』か!」

「……何ですか、それ?」


 爆弾という名称には慣れたミカだったが、流石にその『無線機』というものの正体は分からなかったのか、首を傾げてそう問いかけた。驚いたように、或いは歓喜したようにその四角い箱を持ち上げては、抱き締めたり。いつになくテンションが高いハルは、テンションが高いまま、ミカに説明を始めた。


「この二つの遺物を使って、遠くにいる相手と通信する機械だ。今まで見つけた遺物の中でもトップクラスに有用だぞ、これ!」


 かく言うハルも、実物を見たのは初めてだった。古代人の文献でそれらしき記述を見つけ、存在を知っている程度だったが、まさかその実物を拝める日が来るとは思わなかったのだ。

 そんなテンション高めのハルに、ミカは少々引き気味だったが、冷静に考えれば確かにその有用性は高い。役に立たない掃除用の遺物などより、ずっと。


「でも……壊れてますよね?」

「直す。こいつだけは絶対にな。足りないパーツは他の遺物から持ってきて補おう。完全体とまではいかなくても、せめて通信可能な状態までは修復する」

「は、ハルさんがいつになく真剣……」


 そうと決まれば。ハルは早速工具箱を準備し、無線機を分解し始めた。外側の修復は後回しで、まずは内部機構からだ。


「あの……何か、手伝えることとか、ありますか?」

「あー……食べ物。芋を幾つか」

「はいはい……すぐに持ってきますね」


 指を回しながら指示するハルを見て、まるでおもちゃを与えられた子供のようだと、ミカはそう感じた。否。まさにその通りなのかもしれない。精神的に見て、興味深い遺物を与えられたハルは子供そのものだ。


 急ぎ足で、ミカは一階へ向かった。どのみち、一度こうなったハルは何をしようと止まらない。なれば、彼の望み通り、今は食べ物を用意することに専念することにしたのだ。






……しかしながら、物事はそう簡単には運ばれないものである。


「ああ、キツイ!」


 ぐわぁっと仰け反りながら、天に向かってそう叫ぶ彼と、それに驚いて肩を震わせるミカ。何事かと思って見れば、机の上には元の形状に戻った無線機が二つ、鎮座していた。


「直ったんですか?」

「いや……どうも構造が分からない部分があるんだ。今直せてるのが、元の機能の約四……いや、三割ってところか」


 ハルは無線機のうち一つをミカに手渡すと、少し離れるように指示した。そして、自身が持つ無線機をミカに向けると、側面にある赤いスイッチを押した。


 その直後、ミカに手渡されたもう一つの無線機から、何やら形容しがたい音が発される。ビィー……いや、ヴィー……とにかく、何かノイズのような音だ。


「えっと……音は、鳴ってますけど……」

「そう。音は鳴る。音『は』な」


 ハルがこの短期間で修復できたのは、無線機の通信機構。の、一部だ。どちらからも音声を届けることはできず、一方の通信スイッチを握れば、もう一方からこのノイズ音が発される。ただそれだけだ。故に、元の機能の『三割』と評価した。


 工具と無線機を机に置き、頭を激しく掻くハルは、何だか唸っていた。どうやら、相当な難関に行き着いたらしい。


「元の構造が分かれば直せるんだけど、そこだけピンポイントに、二つとも壊れてる。そこさえ直せれば通信も可能になるはずなんだ。理論上は」

「難しいんですか?」

「ああ。今まで見たことがない」


 そう言って立ち上がると、部屋の中に散らばる遺物を指差しながら言った。


「そこらにある遺物は、基本的に単品で成立してるものだ。でも、こいつは違う。二つの無線機を連携させないといけない。その構造がいまいち分からない」

「私にはもっと分かりませんけど……」


 取り敢えず、難しい話なのだということは理解できたミカであった。


「まあ、それでも無いよりはマシだ。多分、距離がそれなりに離れていても音は鳴る。何かの合図くらいには使えるだろ。持ってて損はない」

「いつか直せるようになるんでしょうか?」

「直す。これは俺と遺物との戦いだ」


 ふふふ、と妖しい笑みを浮かべるハル。不気味だ。ミカはそう感じた。


「ああ、それと」


 付け加えるように言ったハルは、再び無線機を手に取ると、その底部分にある何かの接続端子のようなものを指差した。


「基本的に、古代人の遺物は『機械』ってものに分類される。これらは使用するのに殆どと言っていいほど『エネルギー』を使うんだ」

「機械? エネルギー……?」

「そう。使えば当然の如く減っていくし、減ったら足さなくちゃならない」


 そう言って取り出したのは長い筒状の何かだ。中央には青いラインが入っており、発光している。


「これは『ムーンボトル』。中に特殊な石が入っていて、衝撃を与えると熱を発生し、それをエネルギーに変換してくれる」

「ムーンボトル……それも、遺物ですか?」


 それを手渡され、縦に横にと傾けながら眺めるミカ。青い光の奥には確かに小さな石のようなものが入っていて、よく見れば、ボトルの中は液体で満たされているようだった。


「ああ。『ムーン』ってのは古代人たちの言葉で『月』を意味するらしい。壁上世界の伝説に出てくる、空に浮かぶ丸い物体のことだ」


 曰く、その石が熱を発生する際に生まれる青い光が、月というものの光に酷似していることから、その名が付けられている。石の名前も、そのことから、『月の石』という。


 また、今現在発光していることから分かるように、ごく微弱な衝撃でもエネルギーを生み出すことができる。このサイズであれば少しずつのエネルギーしか生み出せないが、衝撃が弱くても済む分、身に付けていれば動いているだけでエネルギーの供給が可能だ。


 ムーンボトル自体の構造は単純だ。月の石の発した熱を中にある液体を通じて分解し、エネルギーに変換したのち、先端にある接続部分から伸びたケーブルを通して、対象の遺物へと送り込む。溜まりすぎたエネルギーはボトルが破裂しないよう、自動的に外へと排出される。


「でも、こんなもの、よく発見できましたね……」

「何を隠そう、俺が初めて見つけた遺物だ。現代の貴重さから言えば、オーパーツだな」


 数が多く、貴重さで言えば下の下から中の中辺りにまで分類されるものを『レリック』。それより貴重なものを『オーパーツ』と呼ぶが、このムーンボトルは確実にオーパーツだろう。数が発見されればその限りではないが、現状、ハルもこの一本しか保有していない。真っ先にこれを見つけられたのは、まさに僥倖といったところだろうか。


 当然、レイガンや此度修復した無線機にも、このムーンボトルからエネルギーを供給できる仕組みを備え付けている。エネルギーが空になったとしても、充填できるようにだ。


 ハルはミカからムーンボトルを受け取ると、机の上に置いた。衝撃が加わらないとなると、少ししてから、ムーンボトルの発光が収まっていく。この間は、エネルギーを生み出していない。


「これが無ければ、レイガンも無線機も、いずれは使えなくなる。ある意味、俺たちの生命線だ」

「それって、勿論、今の技術では……」

「ボトルを量産することは可能だろう。でも、月の石だけは無理だ。そも、これは恐らく天然のものだ。人工的に作り出すための施設もない」


 故に、石を壊すなどということだけは、絶対に避けなくてはならない。


 それらの説明をこなしたハルは、端に置いていた芋を一つ取り、齧った。少し冷めて硬くなってしまったが、要は食べられれば問題はない。


「まあ、どう頑張ってもムーンボトルで対応できない遺物もある。これが現れるよりも遥かに前のものとか。あそこの丸い掃除道具も」

「ああ、電源がないとか言ってた……」

「そう。あれは中身も全部変えないとダメだな。そこまでの意味を見出せなくてやめた」


 ただの掃除道具に、そこまで苦労したくなかっただけである。


「よっし……ちょっと外の空気でも吸いにいくか。……そんなに変わらないけど」


 ハルは立ち上がって、階上へと向かった。取り残されたミカは、辺り一面に転がる遺物を眺め回していた。


 思えば、じっくりと観察したことはなかった。ミカは思い出した。ここに来てからというもの、色々と慌ただしかったりで、こうやって工房の中を見学することもなかった。


 ハルがこれまでに修復してきたという遺物は、まさに多種多様。先の話にも出た丸い掃除道具に、レイガン、ムーンボトル、無線機。それから、椅子の付いた奇妙な形をした大きな遺物や、ゴチャゴチャとボタンの多い遺物、スイッチを押せば光るライト型の遺物など、ハルが興味本位で遺物を修復してきたというのにも頷ける有様だ。統一性も何も、あったものではない。


「ハルさんは……本当に凄いな……」

「呼んだか?」

「わひゃっ!?」


 ボソリと呟いたはずのそれに反応したのは、空気を吸うと言って外に出たはずのハルだった。


「は、ハルさんっ……驚かさないでください……」

「いや、どうせなら無線機に充填しながらでもと思ってな。何か用でもあったか?」

「あ、ありません! 呼んでません!」

「そ、そうか……? ならいいけど」


 プイとそっぽを向いたミカの感情が分からず、ハルはただただ首をかしげることしかできなかった。

次回更新は8月14日午前10時です。

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