サイレン
一章:すれ違う者・愛しかった者
不快なサイレン音が響いていた。窓から見える町並みが急速に近づいていくのを感じた。空は晴天だというのに、地獄の真っ只中にいた。飛行機が墜落しようとしていたのだ。ガシャンと、天井からマスクが降りた。オレと母さんは訳も分からないでいた。胸がざわついて、死がいつだって隣にいたことを実感した。
『Extinguish cigarettes. Extinguish cigarettes.Fasten seat belts. Fasten seat belts.Emergency descent. Emergency descent.マスクを強く引いて、マスクを強く引いて、口と鼻を覆って、口と鼻を覆って、煙草を消して、煙草を消して、ベルトを強く締めて、ベルトを強く締めて、』
機械的なアナウンスが不協和音のなか響く。皆、すぐに従った。死というものを突きつけられたのに、座っていた人たちは何も言わなかった。CAがマスクをつけてくださいと、マニュアル通りに動いていた。
『ただいま緊急降下中。ただいま緊急降下中。Pull the mask towards you, put mask over your nose and mouth. Pull the mask towards you, put mask over your nose and mouth――――』
機体が酷く揺れていた。…………これは、記憶。終わってしまった物語。全ての始まりでもあった。オレはこの出来事に感謝などしない。けど、恨む権利だってない。おかげで大切な人がオレにもできた。だが、だからこそ、だからこそオレは……消えてしまいたかったんだ。
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