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40 炸裂!岩パンチ!

翌日――。


メルたちはミルグラードの前にある『オーガの七口』を近くの丘から見下ろす。丘を掘削して造られたトンネルが七つ連なり、ミルグラードへと続いている。


もしミルグラードを攻め落とそうと大軍を引き連れても、このトンネルの前では、精々二人ずつしか通れない。隊列が伸びたところで上の守備砦から石やら矢やらが飛んでくる。もし七口を抜けても都市の前には大軍を展開するほどの広さはない。ミルグラードを不落の都市たらしめている要因だ。


各トンネルの上には砦と守備隊が置かれ、異変が起きるとすぐさまミルグラードへと報が飛ぶ。


「正面突破はムリそうだね」

「俺がみなでも踏破できそうな山道を探してくる……」


ジャックはそう言って、影のように移動し、木々の間に消える。


「ジャックは本当頼りになるなぁ」

「うん。アイツのおかげでオイラもあっという間にAランクハンターになれたからな」

「でもなんでここまでするんだろう?」


メルの疑問にナッツが答える。


「ジャックは家族って言葉に弱いからな。家族のことで困ってる姫さんをほうっておけないんだろう」

「ジャックにも故郷に大切な家族がいるのかな」

「さぁ、そこまではオイラも知らねぇけど」


ナッツは首をひねる。


「しかし道が分かっても市内に入るのは厳しいんじゃねぇかな」


メルたち少数ならオーガの七口は通過できるだろうが、そのあと市内に入りこむのには難しい。出入りは門で厳しくチェックされている。お尋ね者の王女を連れたイースタン王国の騎士など入れるわけがない。


「アマリアが王宮を脱出する時に使った抜け道は使えないの?」

「おそらく、すでに封鎖されているでしょう」

「そりゃそうよね。うーん」


その時、メルの耳もとに通信が入ってきた。応答する。


「あ、ロベールさん?何か新しい情報ですか」

「ええ、少しまずいことになりました」


いつにない焦りが感じられる。聞き返そうと思ったら後ろで声がした。振り向くとロベールがすでに後ろにいた。


「レンシア卿。王族の処刑が明日の正午に決行されるとの情報をつかみました」

「な……!?」


メルは驚き、目を丸くする。


「そんなことをしたら国王派だけでなく、中道の者たちまで敵に回すことになるのに?さらにイースタン王国とも完全に決裂することになる……!」


もし開戦となったら大国であるイースタン王国にロッドランは蹂躙され、多くの命が犠牲になるだろう。


「反対勢力をいぶりだす罠かもしれません。ひょっとしたらレンシア卿、あなたたちの存在に気づいたのかも」

「なるほど。場所は?」

「ここから西にあるボーンヴィルという村だそうです。昔から処刑場として有名な場所です」


家族が処刑されると聞き、顔面蒼白となっているアマリアをデーニッツが支える。罠かもしれないが、どの道行くよりほかなかった。



一行は近くの村で一夜を過ごす。朝早くに村を発ち、ボーンヴィル近郊に向かう。


二時間ほど行くと林道の斜面の下にその護送集団の行列を発見した。


騎士五名、兵士二十五名、獣人族兵士二十。


計五十名の兵士が行進する列のちょうど真ん中に目的の荷車があった。簡単な作りの木の檻に閉じ込められている女性と子供二人が見えた。しかしフードを被せられていて面体はうかがいしれない。


「ああ、母上、ヨゼフ、カール、……」


アマリアは生き別れとなっていた家族を目にし、声を詰まらせる。メルは斜面から身を乗り出すアマリアを制する。


「アマリア、落ち着いて。まだ、ご家族と決まったわけではありません」


メルは他の者に顔を向け、作戦を説明する。


「ボクがゴーレムで列の前方と後方から兵士を襲う。リズベルとジャック、クーデリアで真ん中の護送車を急襲、救出対象を保護。残りはここでアマリアを護衛」


ティシエ、ナッツ、デーニッツをアマリアの護衛に残し、その他は斜面を駆け下りる。


メルは斜面の半ばから作戦領域全体を見下ろしながら、ゴーレムナイトを数十体を操作し兵士たちに襲いかからせる。


静かだった林道が途端に怒声と警戒の声が飛び交う戦場となった。ゴーレムナイトたちは兵士たちを次々と斬り伏せる。


列の前方と後方に気をとられ、中央の守備が手薄になったところをリズベルたちが急襲する。


「わっ!?なんだキサマら!!」


護送対象へと一気に接近を許した兵士たちはあわてて槍を構えるも、リズベルの剣で一刀両断され、無力化させられる。さらにジャックの短剣が兵士の急所を貫き、クーデリアの聖槍斧が兵士の体を叩き飛ばす。


リズベルたちは中央の敵はあらかた倒し、護送車に駆けつけようとする。


ずどどどっ!!!


そこに岩の弾丸が猛烈な速度で飛来し、地面に突き刺さる。


「おっと、そうは問屋がトントンチキだぜ~」


リズベルたちの前に岩のような大男が立ちはだかった。ような、というか実際に岩をその身に鎧のようにまとっている。土魔術『ストーンスキン』によるものだ。


「ようやく会えたなぁ、反乱者どもめ」


男の手にはメルのゴーレムナイトが握られている。


ぐしゃあっ!!!


男は拳に力を込め、ゴーレムを握りつぶす。


「くくっ、『ファントムナイト』といっても所詮はミニオン。使い走りの魔物が『業魔七騎』である俺様に敵うはずもねぇ」


「業魔?魔国の者か!」


リズベルの詰問にも男はどこ吹く風で、耳をほじろうとするが、手が巨大な岩に覆われているためできないことを思い出し、やめる。


「魔国だと?ふん、俺様が仕えるはただお一方、……おっと、死にゆくお前らに言わなくてもいいか。だが俺様の名だけは教えておいてやろう」


「俺様は『業魔七騎』が一騎、『金剛不倒』のグローム!」


リズベルとクーデリアはグロームと名乗った男の口上を待たず、それぞれ斬撃を見舞う。


「おい!人の話は最後まで聞けってオカンに教わらなかったか!?」


「くっ、剣が届かない……!」


岩は削れるものの、本体にはまるで届かない。すぐに周囲の土を吸収し、岩の鎧は再構成される。知性は低そうだが実力は確かなようだ。


「ふふん。『ストーンスキン』を極めた俺様にはすべての攻撃、通じることあたわず!」


クーデリアは遠間に間合いを取る。頭上でぶんぶんと振り回したあと、勢いよく振り下ろし、聖槍斧の力を解放する。


「食らいなさいっ!!」


その声とともに中空に発生した雷球が弾け、稲妻となりグロームを打ち貫く。


『ライトニングボルト』。聖槍斧アラドヴァルに秘められた雷属性の第一段階の魔術だ。


しゅううううっと音がして煙が立ち上がったが、岩がアースの役割を果たしたのかまるで効果がなかった。グロームは豪放に笑った。


「極みレベルにまで達した『ストーンスキン』は物理防御だけでなく魔法防御も兼ね備えるぅ!」


「そしてぇ!『ストーンスキン』は攻防一体ィ!むぅん!」


グロームが胸を張るマッスルポーズを取ると体中の岩が弾丸となって射出される。


「くっ!」


素早いジャックはすべてよけたが、リズベルとクーデリアは全方位攻撃を避け切れず、岩が体を掠める。


技のスキを衝き、ジャックはグロームの背中に取りついて、短剣で無防備な顔面を狙う。しかし背中から突き出してきた岩柱のために退避を余儀なくされる。


「ちっ……」


「世に万の魔術あれど『ストーンスキン』さえあれば他に何もいらぬわぁ!というかこれしか使えぬわぁ!」


メルは三人が苦戦しているのを見ていたが、ほかの兵士を戦闘不能にするためにゴーレムに意識を集中させているため対応できない。こちらの戦力を報告させないためにも一兵たりとも逃すわけにはいかない。


「お前らは囚人を連れてミルグラードへ戻れ!」

「はっ、はい!」

「くっ……」


気絶していた兵士がその怒鳴り声に跳ね起き、馬に鞭を当て護送車を移動させようとする。


「くっ、待てっ!」

「ふふ、慌てるな。お前らは俺様がゆっくり料理してやる」


リズベルが追いすがろうとするもグロームが立ちはだかる。


その時、護送車の檻から子どもが飛び降りた。グロームは呆気にとられる。


「なっ、小僧。どうやって檻から抜け出した」

「やれやれ……」


子どもは低くつぶやいた後、フードを取る。


姿を現したのは人間の子どもではなく緑色の肌を持つゴブリンだった。


「ゴブスさん!?」


リズベルとクーデリアは目を疑う。一行がミルグラードで出会い、メルたちにホテルを手配してくれたり、魔術師協会に口添えしてくれたゴブスだった。


「あぁ!?なんだ?お前、貧民街のガキを連れてきたはずだが、どこですり替わった?」

「それはお答えできませんね」


グロームの岩の巨体が放つ威圧にもゴブスは微動だにしない。グロームはピキッと血管をうごめかせると吐き捨てるように言った。


「まぁいい。潰れとけ」


グロームは土の巨腕の両掌を組み、振り上げた。そこにゴブスは言い返す。


「潰れるのはあなたですよ」


「あぁ!?何を言ってやが……!?」


グロームの腕が振り下ろされることはなかった。どころかその顔が蒼白になる。


「あ、あ!?な、なぜだ!体が動かねぇ!岩が、俺様の岩が!」


「一つの魔術を極める。素晴らしいことだと思いますよ。でも極めた、と勘違いするのはいただけませんね」


「うわああああ!!」


絶叫とともに頭上に振り上げられたままになっていた岩の巨腕が崩落し、グロームの頭部を直撃し、グロームは倒れ伏す。


それを遠目に見ていたメルはゴブスの魔術を分析する。


『マジックバリア』。魔術を無効化する結界を自身を中心に半球状に展開するコモンマジックだ。


コモンマジックとは精霊をともわない、術者自身の魔力によってのみ構成される魔術。そのため術者から離れると著しく威力は減衰する。ゆえにマジックバリアも防御用の魔術として扱われる。


それを業魔クラスの相手にかぶせるように展開し効果を発揮するには、強大な魔力はもちろん、凄まじい精神集中が要求される。


もし名をつけるなら『攻性(フォートメント)マジックバリア』。事実上、魔術師相手には無敵になる。


「ゴブスさん、あなたは一体……?」


リズベルは問いかけるも、ゴブスは檻に囚われた子どもとその母親を助けていて、答えようとしない。

メルは斜面から飛び降り、ゴブスに近づいて礼をとる。


「あなたもお人が悪い、ゴブスさん。いえ、七賢者の一人、『沈静』のゴブスラルドさま」


「七賢者!?」


リズベルたちは驚愕に目を見開く。見た目にはただの老ゴブリンにしか見えない目の前の人物が伝説の七賢者だというのだから無理もない。


「こんにちは、メルお嬢さん。悪く思わないでください。七賢者には特定の勢力に与しないという掟がありましてね。私は王家を信奉するものでも、議会派に与するものでもありません」


「ただ、この王族処刑偽装に何の罪もない子どもが連れ去れらるのを目撃しましてね」


檻から助け出された二人は一目で王族でないと分かる顔つきだった。おそらく貧民街からさらわれてきたのだろう。


「そうだったんですか。ゴブスさん、お手間をおかけしました」

「だから手助けできるのもここまでです。私はこの方たちを安全な場所まで送ります」

「はい、お気をつけて。ありがとうございました」


ゴブスは立ち去るかに見えたが、ふと立ち止まり思い出したかのように言う。


「おっと、言い忘れていたことがありました」


「賢者が特定の勢力に加担しないという点ですが、もし罪なき者をこれ以上巻き込むのなら話は別ですがね」


「ねぇ、小鳥さん?」


ゴブスの言葉に、上空を浮遊していた鳥が逃げ去るように空の向こうへと飛んでいった。


「あの鳥は?敵の偵察か……」


メルは歯噛みする。こちらの戦力をある程度把握されたに違いない。ゴブスはさらに続ける。


「ああ、そうだ。これは独り言なんですが、その昔ミルグラードに王宮が建てられた時、ゴブリン族も動員されましてね。王族の為の抜け道の一つが完成はしなかったものの、『碧の洞窟』につながっているとか」


「ありがとうございます。ゴブスさん」


メルの礼には答えずゴブスは貧民街の者たちを連れて去っていった。



一行は夜を待ち、ミルグラード近郊の『碧の洞窟』に入る。地下水が湖となっている洞窟だ。

この『碧の洞窟』は本来、観光スポットでもあるが、一連の事件の影響で終日、閉鎖されていた。立ち入り禁止の縄を越え、一行は洞窟に侵入する。ジャックだけは別行動でいない。


「月夜で襲撃には向かないけど、これ以上、時間を置くとこちらが不利になる一方だ。こちらの戦力もある程度把握されただろうから、対策を立てられる前に決行するしかない」


メルの言葉に一同はうなずく。


進んでいくとすぐに岩壁にぶち当たったが、メルの土魔術で岩を掘削しながら進む。


一時間ほど掘り進むと人工の通路に出た。建設当時、秘密の抜け道として工事していたが、途中で放置されたようだ。


そこからさらに進むと、梯子がかかっている。階上には古びた木板が見える。それを開けると王宮に出るはずだ。


「位置からいって王族の寝室の近くに出ると思います」


デーニッツがざっと王宮の全体図を紙に描く。優先目標は少し離れたところにある塔だ。そこに王族が囚われている。


「いよいよね」

「ふー、ふー」


一行が気負っている様子を見て、メルは一計を案じる。


「みんなー見て見てー」


みなが振り向くとそこには、岩で体を覆い、ムキムキマッチョマンになったメルがいた。かわいらしい顔だけが露出している。


「グロームの真似ー」

「ぶほっ」


みなは盛大に噴き出す。


「ちょっと、メル。何やってるのっ。こんな時に」

「みんな固くなってるからさ」


手はずを確認する。メルが王宮中央でゴーレムで暴れて兵の注意をひきつける。そのすきに他のメンバーは王族が囚われている塔に向かい救出する。


「アマリアはやっぱり残ったほうがいいんじゃないかしら?」

「いえ、ティシエさん。今夜、議会派政府が倒れるか、王家の命脈が絶たれるか、二つに一つです」


アマリアはティシエの提案を拒否する。

その瞳には強い炎が燃え上がっていた。農民の服は捨て、貴族の服を着ている。王族として王宮を追われたのだから、王族として舞い戻るべきだという意志を現している。


「このデーニッツ、命に代えてもお守りします」

「いけません。デーニッツ。みんな生きて朝日を浴びて勝利を歌うのです」


「都市の外のジャックさまとロベールさまはご無事でしょうか」

「なに、ジャックなら心配いらねぇ。アイツは普段は無愛想だけど、やるときゃやる男だからな」


「クーデリア、ティシエとアマリアを頼むね」

「はい」

「リズベル、頼んだよ。王族救出はリズベルにかかっている」

「ええ、この剣にかけて」


相性さえ悪くなければ業魔一体くらいはリズベルとクーデリアでも倒せるはずだ。メルが相手にできない分はリズベルに任せることにする。


一行は最後にお互い頷きあうと順番に梯子を上りだす。

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