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27 円卓会議と宿星について その2

聖騎士アクエリアがメルに聖騎士について説明をしてくれるとのこと。



アクエリアは十番隊の隊長で魔術師としても司祭としても高い実力を持つ。温厚な人柄と癒しの力、嫌味のない美しさから騎士団だけでなく、町のあらゆる身分層から慕われている。



まず聖騎士の権利。


―――――――――――――――――――――――――――


竜のマントを羽織る権利→ 尊敬の的。魔術防御力も高い。


寮の家賃免除→ 王都に家を持っておらず、騎士団寮に住む場合。


クエスト令状なしでの警察権の行使→ 治安を守るぞ!


王都での部隊編成権→ 一つの隊につき百人程度。


騎士叙任権→ 従士を騎士に叙任出来るよ!


民間の馬や船を徴発する権利→ もちろん緊急時だけね!聖騎士にふさわしい振る舞いを!


おまけ 王の間などいかなる場所でも帯剣を許される。


――――――――――――――――――――――――――――


 

次に聖騎士の義務。


――――――――――――――――――――――――――――


月に一度の円卓会議への出席。


年に180日以上王都に滞在し、治安維持あるいはクエスト遂行に務めること。


――――――――――――――――――――――――――――


つまり年間休日日数185日。魔術学院にも通うメルにとってはなかなかの負担だ。



最後に取得スキル。これはメルが自分で確認したものだ。


アクティブスキル『光の盾LV1』 使用者の周囲を浮遊する小盾をLV×数個出現させる。自動防御効果。

パッシブスキル『神の加護B』 暗黒属性耐性UP。自動HP回復・小。

       『ドライブ負担軽減B』 『ドライブ』の肉体への負担を軽減する。


聖騎士適性 10%→70%に上昇。


聖騎士系列のスキルの多くは神聖力を参照するのでメルが使用してもそこまで威力が出るものでもない。LV依存のスキルだとまた別だが。



「はぁーなるほど。ところで総長、なぜボクを聖騎士に任命したんですか?」

「……アスクレピオスは健勝でおるか?」


メルの質問にヴァリアルドは質問で返す。


「はい。部屋に行くとお昼寝なさっている時も多いですが」

「そうか……。刻が来たということか」


国王でさえ敬意を払うメルの師匠である賢者を呼び捨てにするとは。二人は旧知の仲なのだろうかとメルはいぶかしむ。


二人が黙ったのでアクエリアが口を開く。


「メルちゃんは『竜災』級に相当するであろう魔力を持つ死聖竜を倒したんだもの。魔術師団に取られるまえに囲い込むに決まってるわ」

「あ、あれは賢者さまの、十割くらい賢者さまのお力があればこそでして、はい」

「またまた~謙遜しちゃって」

「うう~」


メルは死聖竜を倒すさいに町の人々に熱い呼びかけをしたことを思い出し、羞恥に顔を赤く染める。


話題を変えるためメルは次の質問に移る。


「部隊編成ですけど、ボクの部下は?人を回してもらえるんですか?」


それにアクエリアが答える。


「他の隊長はみんな貴族だから、家に代々仕えている家臣の者で周りを固めて、その下に騎士団からの俸給で生計を立てる下級騎士たちが配属される感じね」

「あ、私の十番隊は回復・補助が仕事だから、魔術師協会から魔術師を、教会からはプリーストを雇い入れてるわ」

「ウルガさんはほぼ全員が、旅先で出会った元傭兵や盗賊らしいけどね」


「はは……ウルガ隊長らしい。えーと、ボクは平民なので縁故のある家臣なんていないから、下級騎士だけってことですか」


「人材が払底しておるゆえ、うぬの部隊に人は回せぬ。部下が欲しくば自前で集めるがよい。給金は騎士団から出す」


「えー、百人もですか?」

「当面、うぬには儂が直にクエストを下す。通常の治安維持やささいな仕事は回さぬゆえ、力を蓄えておくがよい。もちろん自分でクエストを課して行ってもよいぞ」


「はぁ、了解です」


「メルちゃんもそのうち領地とそれに付随する爵位をもらえるんじゃないかしら。騎士の頂点たる聖騎士ともあろう者が騎士号だけというのは体面が悪いですものね。総長、何か聞いてますか?」

「どうであろうな」

「別に欲しくないですー」


またしてもあうーとうなだれるメルだった。しかしそれとはまた別に気になっていたことがあったので聞いてみる。


「ところでこの体勢おかしくないですか?」


というのもメルは説明を受けている間、アクエリアにずっとひざまくらをされていた。壁際に配置してある長椅子の上で。アクエリアの柔らかな太ももの感触がほっぺにふれる。


「あーんメルちゃん、髪はさらさらで絹みたい。ほっぺもぷにぷにでスライムみたい」


ああ、マリルタイプか。メルは察した。


メルがヴァリアルドに助けを求めて首をひねらせ視線を送るも我関せずといった様子だ。


しまいにはフェイスヘルムの内部からガッチョンと音がしたかと思うと、そのスキマからブハーっと蒸気を吐き出す始末。結構蒸すようだ。


ヴァリアルドはなにやら書類を書いている。彼は次回の『王侯議会』のための議案書をしたためていた。


『王侯議会』。国王や王子エリオット以下、大貴族、宰相、尚書長官、財務長官、法務長官など国の重鎮が出席する会議で、国の指針を決める重要な役割を持つ。


ヴァリアルドも先ほど行われた円卓会議で得られた知見や情報をまとめて、それを『王侯議会』で諮問(しもん)する義務がある。


鎧に包まれた巨体が小さな羽ペンを持ち、せっせと書き仕事をするさまはシュールだった。


そもそもこの世界の騎士は普段から鎧着けてアホなんじゃなかろうかと思わないでもないメルだった。身体強化スキル『ドライブ』があるので重さは平気だが、暑さまではしのげないはずだ。



説明会が終わったので二人に別れを告げ、メルは王宮の入り口に向かう。すると光魔灯がさんさんと輝く廊下の曲がり角でテレジアと出会った。


テレジアはメルをギロリとにらむと口を開く。燃えるような赤髪がそのままメルへの敵意を表しているかのようだ。


「レンシア卿、貴女の騎士としての信念について聞かせて」

「はっ!?……特にありませんけど」


「ふん。信念なきものに務まるほど聖騎士の肩書きは軽くないわよ」

「はぁ……」


そもそも自分の本分は魔術師だと切に訴えたいメルだったが、火に油を注ぐだけだと分かっているので注がない。


「おや、お嬢さんがた、何をしているのかな?」


「あ、ピエールさま!」


ピエールが廊下の向こうからやってきた。テレジアはピエールの顔を見るとほおを赤く染める。


「テレジア、僕に『さま』はつけなくていいよ。僕たち聖騎士は同格だ。君の隊が軽く見られてしまってもいいのかい?」


「はっ、分かりました。ピエール卿。以後、気をつけます」


「ああ。分かってくれたらいいんだ。じゃあ、僕はレンシア卿に話があるから外してもらっていいかな?」


「はい、失礼します」


メルはウソのように素直になったテレジアを見送った。自分も去ろうと思ったがピエールに呼び止められる。


「レンシア姫、このあとのご予定は?ウチで晩餐会を開くのでよければいかがでしょうか?」

「いえボクは、その……」


今まで得た知識、人生経験を総動員しても男性から食事の誘いを受けた時の断り方が出てこなかった。


メルが困り果てていると、エリオットが向こうからやってきた。


「ピエール、レンシア卿はオレと約束がある」

「エリオット……?いつから、そこに?」


エリオットはどこか憔悴しているようだ。息もなぜか上がっていてはぁはぁ言っている。


「いいから行け」

「分かったよ。王子のご命令とあらば聞かざるをえまい。それではレンシア姫。またの機会に」


ピエールは華麗に一礼すると優雅な足取りで去っていく。


「大丈夫だ、お嬢、いやメル。お前はオレが守る」

「はぁ……」


やべーよ、来たよ。王子キャラの「オレが守る」が。つーかいつの間にか名前で呼ばれてるし。


メルはフラグをへし折ったつもりだったが、間違っていたことを認識する。ピエールから助けてもらったと思ったらより厄介な相手が来ただけだった。なにせ相手は王子だ。


もちろん、エリオットはメルに恋心を抱いているわけでもロリコンなわけでもなかった。ピエールが未成年のメルに手を出すのを防ごうとしているだけだ。ちょっとアプローチがミスっているが。


メルが逃げ出すスキをうかがっていると後ろから声がかかる。


「お、エリオットとおチビじゃねぇか。なにやってんだ」

「ウルガか。なんでもない」


エリオットはウルガにも険しい眼光を送る。舞踏会で彼もメルを誘っていたことを思い出したからだ。


「そうだ、みんなでメシでも行くか?おチビの聖騎士叙任祝いってことでよ。アクエリアやテレジアも誘えばおチビも来やすいだろ」

「ん、そうだな。たまにはみんなで行くか」


エリオットは毒気を抜かれたように息をつく。


「い、いえボク用事があるので帰ります。ごめんなさい」


メルはぴゅーっと駆けていき王宮をあとにする。




その夜、夜空に星がきらきらまたたくころ。


「というわけなんですよ~。賢者さま~」


メルは象牙の塔のバルコニーで賢者に泣きつく。騎士団内部での人間関係が早くもこじれてきた。とてもじゃないが軽度のコミュ障なメルはやっていく自信がなかった。


メルがヒゲをぶんぶん引っ張るも賢者は笑うばかり。


メルは賢者に敬服していて、賢者の前ではすっかり孫娘のように振る舞うようになっていた。賢者もそれにこたえ、本当の祖父のように優しくメルの頭をなでる。


「ほっほっほっ。しかしメル嬢や。考え方によっては人に指図されず、自分の好きな時に騎士の仕事をこなせるのじゃから気楽といば気楽ではないかね?」


「そう言われてみればそうですけどー」


聖騎士になれたこと自体はうれしい。聖騎士という言葉に胸がときめかない男子はいない。

しかしいらんしがらみや重圧までついてくるのはNGだった。


「それより例の聖竜から受け取った『証』を見せておくれ」

「あ、はい」


メルは左手の甲を賢者のほうに向け、魔力を込める。すると甲に紋様が浮き上がる。


同時にメルの背中から翼竜の翼がバサァっと広がる。竜の翼の浮力はメルの小さな体を容易に持ち上げる。


聖竜から受け継いだレリックスキル『聖竜の翼』だ。


死聖竜の穴だらけの翼ではなく、かつての聖竜の聖なる魔力を持った神々しい翼に賢者は感嘆の声をあげる。


「おお、何度見ても見事じゃ」

「これ、結構恥ずかしいんですよね」


メルは上空から賢者を見下ろしながら言う。


「ほっほっほっ。聖遺物に認められたのじゃ、誇りに思いなさい」


『聖遺物』(レリック)――。


長い時を経て強い魔力を宿した物を言う。不可能を可能にし、非を()に変え、この世の理すら書き換える力があるとされる。


それらは意思を持ち、自らにふさわしいと思った者に力を分け与えるという。


聖竜もそんな聖遺物の一つでメルに力と意志を託した。


このレリックスキル『聖竜の翼』は数分間、飛行を可能にするものだ。再使用冷却時間は十分ほど。


メルは塔の手すりにタッと足をかけ、翼よ閉じろと念じる。すると翼はふっと消えた。



「うむ、魔将たちの狙いはコレじゃろう。聖遺物の力を我が物とし千年前に眠りについた『不死帝』を復活させる算段じゃ」


不死帝はかつて魔国を統一したとされる皇帝で伝説的存在だ。その復活を祈る信奉者は魔族だけでなく人間をはじめとしたあらゆる種族にも存在するという。


「メル嬢や。七賢者に出会い、『知恵』を授かるがよい」

「そしてレリックに認められ『力』を得るのじゃ」

「すべての『知恵』と『力』が備わった時、『勇者』として女神に認められる」


「さすれば不死帝を倒す道が開かれよう!」


賢者は熱っぽく語る。


「え、無理です。だってボク十二歳の女の子ですよ」


いつになくハイテンションな賢者にメルはついていけない。


不死帝はおとぎ話で聞いたことはあるが、それを倒せと言われてもぴんとこない。というか倒したくないし、かかわりたくもないメルだった。


乙女ゲームの次は王道ロールプレイングゲームときた。メルが欲しているのはまったりスローライフ人生ゲームだ。


「安心するがよい。メル嬢や」

「今こそ明かそう。ワシは十二年前、どす黒い邪星が夜空を流れるのを見たんじゃ。何かの凶兆じゃろう」

「しかしそれを追うように大地に星が三つ降り注いだのを見た」


メルの苦悩をよそに賢者は厳かに告げる。


「その星たちこそ古より伝わる『三騎士』の宿星じゃ。世界が闇に閉ざされし時、世界に降り立ち邪を滅するという伝説の……!」

「……」

「メル嬢もその『三騎士』の一人に違いあるまい」

「……」

「メル嬢はそうじゃな。三騎士のうち、真理と魔術の悟性を持つという『(ことわり)の騎士』じゃろうな」


漫画だったらババーンという擬音が描かれそうなくらい重大発言っぽく賢者は言う。


それに対しメルのテンションは激低い。


「あー、それは人違いですね」


メルはこの世界に生まれ落ちた時、女神が『三騎士』にメルを滅ぼさせるとか言っていたことを思い出す。その少し前に落ちたどす黒い邪星が自分なのではなかろうか。


ということは必然的にラスボスになるのは自分だ。


メルは先の展開を予測する。


今回の事件ではおおむね好意的に受け止められているが、そのうち化け物扱いされうとまれ、人間を信じられなくなり闇堕ちするパターンだ。


バカめ、そんな古典的な手にひっかかるか 人が何人死のうが知ったことではないわ。全スルーだ。近しい者だけ守れればそれでいい。


絶対に知らない誰かが困っていても助けないし、これ以上レベルを上げたらまずい。災難が向こうからやってきてしまう。


しかし逆に考えるとその今のうちにその『三騎士』とやらに出会い、友好度を上げておいたほうがいいかもしれない。自分と同い年で年若いなら考え方も柔軟なはずだ。


いや、待てよ。神の啓示とかでいきなり斬りかかってくるかもしれない。メルはどうするのが最善か分からなくなり頭を抱えだす。


その様子を見て賢者はメルをいたわる。


「すまぬ。つい興奮してしまったわい。まあ、まだそこまで深く考えなくてもよいぞい」

「あ、いえ。ボクもなんだか話をうまく呑み込めなくてすみません」


お互い別ベクトルに熱くなった頭を冷やすかのようにふうっと深く息をつく。


「そういえばメル嬢や明日から学院も夏休みじゃな。うんと羽を伸ばすがよいぞい。ほっほっほっ」


「あ、そうでした。はい。うふふ」


メルはその言葉で思い出す。ティシエやリズベルと外国へ旅行の計画を立てているのだ。


町を歩けば人々に指をさされてウワサされてほとほと参っていたので、王都をしばらく離れたかったメルだった。


この世界に来てから初めて親元を離れ、友達と旅行に出る。メルは旅への期待に胸を弾ませて塔をあとにする。


だが、メルはこの時知るよしもなかった。旅先でかつてない陰謀に巻き込まれようとは。

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