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00 転生プロセスにおける若干の引き継ぎミス

このプロローグのみ一人称視点で以降は三人称視点です。

「いやー感動した!」

「まさかお主があそこで身をていして、子ども五人の命を救うとはのぅ!」

「かわりにお主はトラックにひかれ死んでしまったが、これも人生の転機と思って受け入れるがよい!」

「ほうびとして転生先選択権と特別な能力を与えてやるわい!」


 あー、目の前の大きさ10mくらいあるギリシャ彫刻から一方的にまくしたてられ混乱している。


 気づけばギリシャ風の広場にいた。石畳と朽ちた石柱が立ち並び、外には黄金色の雲海が広がっている。


死後の世界に来てしまったのか?ウチは一応、浄土真宗なはずだが。


 そうだ、ボクは現代日本の普通の高校生。名前、名前は……どうしても思い出せない。記憶、どころかよく見たら体もない。宙に浮いた発光体、魂の状態になっているようだ。


「あーよいよい。前世のことは忘れよ」


 ボクの脳内を見透かしたかのように言ってくる神っぽい存在。


「お主の行いはワシにさえ予見できなんだ。お主が身をていして助けに入る確率は宇宙創造より低いものじゃった。長く神をやっていると面白いことに出会うものじゃ」


 そんなに低いのかよ。まあ子どもを救って死ぬなんて聖人みたいなキャラじゃなかったことはなんとなく覚えてるが。


「さてもう一回言うが、お主にほうびをやろう」

「まずは能力じゃ。選ぶがよい」


 神が手を挙げると半透明のウィンドウと羅列された文字が視界一面に浮かぶ。


「炎無効、剣術マスター、水中呼吸……?」

「うむ便利スキル一覧じゃ。好きなのを五つ選ぶがよい」

「へぇ~、ゲームのキャラメイクみたいで面白いな」


 なるほど子ども五人救ったから五つスキルをもらえるわけか。どれにしようかな。竜化、鍵開け、高速詠唱、経営学、うーんどれも捨てがたいな。


 あーでもやっぱりこれだな。あと、これとこれ。


「選び終わったかの?」

「ああ、この五つで!」


<不死> 死にたくないので! 

<ダメージ吸収> 痛い思いしたくないので!

<空間転移> テレポートはロマン!

<学習能力ブースト> 勉強きらいだから早くすませたい!


「んー?どれも強スキルではあるが防御寄りで面白味が足りんのう。

透明化なんてどうじゃ?女湯のぞき放題じゃぞ?」

「そんなもんいるか!ゲス!」


ちょっと心が揺らいだのは秘密だ。


「まぁよい。そして最後の一つは――。ほほう、悪くない」

「だろ?」


「よし、決まりじゃな。こられのスキルをたずさえて生まれ変わるがよい」


 神が両手を上げると、頭上の雲が割れ、差し込んだ光がボクを包む。魂が空中へ召し上げられる。


「あ、あれ?転生先は?まだ決めてないけど?」

「だーいじょうぶっ。おぬしの好きそうな世界を選んでやっておいたわい」

「楽しみにしているがよい、ではさらばじゃ!」


 いや、選ばせろよ。世紀末ヒャッハーな世界なんてごめんだぞ。抗議も届かずボクは異世界に送り込まれた。


 目を開けると暗闇が世界を包んでいた。体も以前、むきだしの魂のままだった。


「あれ?生まれ変わるんじゃなかったの?おーい、神様?」


 応えはなかった。悲しみに包まれたボクの魂は青色に変化した。この魂の体は感情によって色が変わることを発見し、しばらくそれで遊んでいたら声がかかる。


「はいはーい、お待たせしました」


金髪の少女が光に包まれて目の前に現れた。ギリシャ風の布をまとっている。


「はじめまして。この世界の神でーす」

「すいません、VIPは久しぶりなので、この部屋に来るまでに時間かかっちゃって」

「上位神さまったら。お客様が来るなら100年前くらい前に通知してって、いつも言ってるのに」

「この世界の神、ってどの世界?まっくらだけど」

「あ、ここはスタート地点、のさらに前の場所ですね」

「私が運営する世界は緑豊かで魔法が存在してお城があってー。あ、動画でみてもらったほうが早いですね」


 少女が指を鳴らすと眼前に動画が再生された。


 画面には大きな中世の城。騎士や魔法使いが映しだされる。日本のゲームやアニメ好きな若者ならだれもが憧れる中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界だった。


「ふふ、素敵でしょう」

「まぁ、悪くない」


「それにしてもあなた、前世でよっぽど徳を積まれたんですねぇ。この『部屋』に来られるなんて。ここはキャラクタークリエイトの間。職業や人種設定などを決められる場所です。普通は前世が終わったら即、生まれ変わるんですよ?」

「前世でめっちゃ徳積んだわ」

「わぁ、すごい自負心。じゃあ、ちゃっちゃと決めちゃってください」


 ぽんとウィンドウが表示される。まずは人種設定か。人間、エルフ、ドワーフ、小人族のコビット、定番どころはあるな。無難に人間でいいか。


職業は、と。ウィンドウに体当たりしてページを繰る。剣士、調理師、魔獣使い、ふむ、色々ある。


「これ、途中で変えられるの?」

「ええ、もちろん。でもここで選んだ職業には先天職業ボーナスがつくからお得ですよ~」

「あと周辺職にも小ボーナスが付きます。ただ反対職には成長のマイナス補正がついちゃうのでお気をつけて~」


 周辺職とは戦士なら槍術士、シーフなら忍者、アサシン、賢者なら精霊魔術師、召喚術士。つまり似たような職のことらしい。反対職とは戦士なら魔法使い系全般。まあ言葉のイメージ通りだ。


 そういえばゲームではいつも魔法使い系、特に召喚術士を選んでたっけ。召喚術士が呼び出す精霊や魔獣はぼっちの味方、ソロプレイでも寂しくないからな。召喚術士、召喚術士……あった。


 うーん、でも今回は人生がかかっているからな。思案していると召喚士のひとつとなりの


『ゴーレムマスター』


という単語が目にとまった。


 へぇ~、召喚術士や魔獣使いは多くのゲームで用意されてるから使ったことはあっても、ゴーレムを使役する職はプレイしたことなかったな。

 面白そうだし、これにしよっと。ひねくれ者なのでマイナー職を選択することに心が躍るのだ。

 それに周辺職ボーナスとして生産系の職にもボーナスがつくようだ。剣士系にはマイナス補正がつくが、構わないだろう。

 別に最強の戦士を目指したりしないし。次の人生は平穏に生き延びたいのだ。十中八九、弱職だろうけど上位神とやらにもらった『不死』や『ダメージ吸収』があるし、なんとなるはずだ。


「じゃあ、これゴーレムマスターで」

「わー、ひねくれ、いえ渋いですねー。流石ですー」


ほっとけ。


「次は骨格や鼻の高さを……」

「あーいいよ。適当に美形にしておいて」

「はいはい了解ですー」

「もうよろしいですか?生まれ落ちたあとにやり直しはできませんよ?」

「うん、大丈夫」


 早く生まれ変わりたい。長時間、魂の状態でいるのに疲れてきた。肉体が恋しくてたまらない。


「ではでは、よい人生を!」


 女神の少女がパチンっと指を弾くと、床がパカッと口を開く。床の下には先ほど動画で見た世界が広がっていた。そしてそこに吸い込まれるようにボクの魂は落下した。もうちょっとマシな演出なかった?


 ボクの魂は流れ星となって辺境の村の女性のお腹に宿った。そして時は流れ、ついに生まれ変わる時がきた。


産道を通り、生まれ落ち、父親の手に抱かれる。


「おぎゃあおぎゃあ」


 意図せず泣き叫んでしまう。赤ん坊だから我慢してね。


「ほら、見えるか、シェリル。元気な『女の子』だぞ」


 は?


 女の子?


「おぎゃぎゃぎゃあ!?」


 ここからボクの発言は訳して記すことにする。


「おいぃ!?女神さん?女の子になっちゃってるんだけど?」

「あら~?自分でそう決めたんじゃありませんか」


 女神の姿は見えないが頭に声が響く。


「は?決めてないよ!そんな項目なかっただろ?」


「やだー言いがかりはよしてくださいよー。ほら、スクリーンショットも取っておいたんですからね」


女神がボクの脳内に直接画像を送り込んでくる。


真っ暗闇を背景に肌着姿の銀髪の美少女が写っていた。周りには性別や名前を決めるウィンドウが表示されている。

画面の奥の方に魂だったボクと女神が写りこんでいた。ボクは背中を向けて職業選択ウィンドウを見ているようだった。


「あーなるほど。後ろに項目あったわけね。って気づくかー!」

「設定項目は非常に多岐にわたるので、ウィンドウを親切にばらけて配置してのが、逆にアダとなったかもしれませんね。まぁちょっとしたミスですよー。あはは」

「ちょっとじゃねえよ」


もう一度スクショを見る。やっぱり美少女が写っていた。ボクが成長するとこうなるということか。正直、めっちゃ好みだったが、自分が美少女になりたいわけじゃない。三人称視点のゲームならともかく一人称視点の人生で美少女になっても仕方がないだろ。


「あれ?ちょっと待ってください」

「ん?」


 女神が急に慌てた口調になる。


「なんで私としゃべれてるんですか?」


「知るか!」

「というかなんで記憶を持ってるんですか?キャラクターメイクのことも覚えてるなんて?」


「『ステータス確認』」


 女神の声とともに目の前にウィンドウが表示される


メル・レンシア レベル1 性別・女 クラス 赤ん坊

スキル 『不死』『ダメージ吸収』『空間転移』『学習能力ブースト』『■■■』


「っ、このスキル群を持っているせいで記憶の持ち込みが可能になっているようですね。

ズルはいけませんよ。消させてもらいます~。私の世界ではみんなまっさらの状態からスタートしていただきまーす」

「や、やめろ!せっかく上位神からもらったのに!」


ステータス画面の上に羽根ペンが表示され、スキル欄のスキルをささっと払った。しかし羽根ペンが消えてもスキルは消えなかった。


「なっ!?消えない!?どうして。私より上位の世界から持ち込まれたものだから!?」


 ほっ、と息をついたのも束の間。全身を悪寒が包み込む。


「おのれ……」


 女神の声が少女のものから地獄の底から響くような声に変わった。


「汚らわしいバグめ……」


 バグ?ボクが?


「私の美しい調和の世界をけがしおって……!『悪魔の仔』め……!」

「神の掟により直接手は下せぬ」

「ゆえに『三騎士』を産み落とし、貴様の存在を消し去ってくれよう、永遠に!」


 は?女神さん、切れすぎでしょ。


「落ち着いて女神さん、話せば分かる」


 しかし説得もむなしく、女神の声は聞こえなくなった。永遠に。


 こうしてボクの物語は始まった。


 女の子として。

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