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5 いくら勇者が強くても、この俺が負けるわけがない

5 いくら勇者が強くても、この俺が負けるわけがない


 朝露が透明な汗を滴らせる。霞がかった森は静かな吐息を頬に吹きかける。霧というほど邪魔ではないので問題はない。問題は今、どのあたりに勇者がいて、どれほど俺に危険が及ぶかだった。

 俺たちはまずチームで行動することになった。とはいえ、基本的にバラバラ。ベヒモス、ワイバーン、ネフィリムは単体行動。俺とアルラウネで行動。

 とにかく、人間を見つければ、皆で集まって奇襲をかける。今は、偵察が目的だった。

 俺は人間か化け物かの区別がつかない。ベヒモスにそう言うと、

「集団で行動していれば確実に人間だ。」

 と、バカにした口調で言ってきた。本当に癪に触るやつである。

「なあ、勇者ってそんなに強いのか?」

 走りながら、俺はアルラウネに聞く。アルラウネはぎとぎとの汗油を滴らせて懸命についてきている。

「ええ、あのネフィリムが逃げてきたんだから、相当でしょう。」

 いつもバカみたいな面をしているアルラウネがそう言うのだから、本当に強敵なのだろう。だから、あの自信家っぽいベヒモスも奇襲をかけようと言ったのだ。

「どうだろう。そろそろ来るんじゃないか?」

「そうね。」

 俺たちは示し合わせたように茂みに身を隠す。

「おい、引っ付いてくるな。」

「仕方がないじゃない。」

 木々と木々と間の草が茂っている場所に隠れているので、狭い。アルラウネの肌のむっつりとした感触が不快だった。だが、変な気配を出すわけにはいかない。

 しばらく耳を澄ませる。朝の鳥たちのさえずり。草の露で服が濡れる。耳から聞こえる自分の心臓の鼓動が不快だった。

 ピーチクパーチク、ピーチクパーチク。

 そこで、俺は異変に気がつく。鳥たちが騒がしい。まるで外敵が迫ったことを知らせるような声を発している。一行が近づいてきているのだと思った。

 しばらくして足音が聞こえる。かさかさと乱暴に草をかき分ける音。それが幾重にも続く。呼吸音が続き続き、一つの運河が流れているのではないかと錯覚させた。

「来たみたいだ。」

「耳がいいのね。」

 俺たちは恋人のように囁き合う。嫌だったけど、仕方がない。

 俺は空を見る。そこには一つの影。鳥にしては大きいそれは、自由自在に空を飛び回っている。ワイバーンだ。あれほど堂々としていてばれないのか、と俺は不安に思ったが、人間たちの呼吸は移動に専念しているようだった。誰も気がついていない。

 俺たちは今すぐにでも報告に行くべきなのだろう。だが、ワイバーンが勇者たちを発見した以上、俺たちに出番はない。空の上からなら、味方も探しやすい。不自然に動いて勇者たちが移動しては元も子もない。

 話している声が聞こえる。

「しかし、勇者様。本当に禁断の果実などあるのでしょうか。見る限り、実が一つもなっていませんが。」

「迷宮の奥にひっそりと実っていると言われておるのだ。それに今さら疑っても仕方がない。百人いた我々調査団はもう十人に満たない。生きて帰れないと覚悟するのだな。」

「そんなあ。」

 文句を言っている方は粗野な声だった。ガラガラ声を張り上げる、喉に引っかかった不快な音。一方、勇者と思しき声は落ち着いていて、それでも意志の強さをはっきりと聞き取ることのできる声だった。

「では、今から私抜きで帰るのか?」

「冗談はよしてくださいよ。」

 途端、粗野な声は弱弱しくなる。

「今なら、化け物どもの餌食となるぞ。」

 途端、張りつめた空気が森を支配する。その感覚に俺は慣れつつあった。それは闘いという意思以外を全て排除した空気。ただ、殺し、殺されることだけをその場に取り残す、残虐で暴力的な空気の渦。あまりの気迫に俺は頭が痛くなってくる。だが、今は頭痛を気にしている場合ではない。

 俺は二択を迫られている。心臓が激しく波打つ。体がぞわぞわと波打つ。激しいプレッシャー。勇者は俺たちの存在に気がついている。それだけは覆しようのない事実だった。では、どうするか。先に攻撃を仕掛けるか、じっと待つか。俺に逃げるという選択肢はなかった。この気迫の中、もう逃げられないと覚悟していた。それに、アルラウネがいる。俊足の獣である俺は、万が一にも逃げ切るチャンスはあるかもしれない。だが、アルラウネは人より少し早い程度の脚力しかない。それではどうしようもない。

 きっと男らしいアルラウネは俺を見捨てて逃げろ、だなんていうかもしれない。それは俺にとって魅惑的な提案だった。体の中に甘い香りが充満する。誘惑の香り。だが、俺はその考えを断ち切る。アルラウネを見捨てて生き残るなんて後味の悪いことはできない。せっかくの人生が、永遠に悔恨に苛まれる拷問と化す。それだけは避けたかった。頭にネフィリムの姿が浮かぶ。ワイバーンやベヒモス、それにカリテ。父親を見捨てた俺を幼なじみは許さないだろう。他のモンスターたちも俺を蔑むに違いない。

 なら、答えは一つ。このまま隠れる。危なくなったら俺一人で立ち向かう。俺はアルラウネより速い。きっとアルラウネは俺と同じように逃げることはしたくないだろう。だが、大丈夫。そんなことは絶対にさせない。

 一歩一歩、厳かな足取りで近づいてくる。他の人間たちは固唾を飲み、見守っている。中には呼吸を忘れている者さえいるようだった。

「隠れてないで出てこい。」

 もう、限界だと思った。足の震えが止まらず、草が微かに揺れる。

 もう、ダメだ。

 覚悟を決めて飛び出そうとした時、反対側の茂みから、誰かが飛び出した。

 女子大生っぽいゆったりとした優雅な服装。ネフィリムだった。ネフィリムは勇者に背中を向けて走り出そうとする。俺は頭を出して、勇者を見る。勇者は矢を構えていた。その立ち姿の美しさとは裏腹に、俺は矢の生み出すえげつのない雰囲気に、自分を失ってしまいそうだった。

 見ただけで分かる。あれはただの矢ではない。どこが違うのかは分からない。外見は普通の矢、いや、それ以下だった。木で作られた弓と矢は、今にも折れそうなほどにぼろい。かなり古いもののように思える。だが、それゆえなのか、得体も知れぬ嫌な雰囲気がその弓と矢から放たれている。その矢はぴったりと逃さぬかのような揺るがぬ意志でネフィリムの背中を狙っていた。

 ネフィリムは殺される、と直感する。あの矢程度で化け物が致命傷を負うわけがない。だが、それはそう言う類のものだと直感した。それはあの奇妙な感覚。神社に入る前までは、なんだかんだで気楽にお参りしてやるか、などと思っていたのに、鳥居の中に入った瞬間、その異質なまでに外と違う雰囲気に気圧されて、静かに黙りこくり、しっかりと賽銭を入れてしまう、感覚。魔物を退ける、神の力のこもった、必死の矢。

 俺は茂みから出る。途端、勇者は矢を俺に向ける。俺はそんなことに構わず逃げていた。アルラウネも俺の意図が分かっていたかのように、同時に飛び出していた。矢は俺を狙っている。背後からでもその揺るがぬ意志が感じ取れた。突然現れた標的に、少し戸惑いながら、少し迷った挙句、俺を完全に射止めるイメージを固める。必ず当たると確信した矢は当たるという。イメージで当たっているのだから、その想像通りに射れば、的に当たる。

 そんなのは嘘っぱちだと思っていた。俺は運動神経が悪いから尚更だ。ゴールを狙って蹴ったのに、入る想像ができていたのに、足にボールが当たらないなんて日常茶飯事。いつもバカにされていた。

 背中に痛みのない何かが刺さる。勇者のイメージが俺を射抜いたのだと知れる。あと数秒で矢は放たれ、俺は死ぬ。そんな最悪なイメージしか湧いてこなかった。

「うぎゃああ。」

 と、そんな時、背後から男の声が聞こえる。それは勇者の従者のものだった。

「一体何が。」

 ちらりと背後を窺う。そこには苦しそうに悶える男たちの姿があった。まるで毒を盛られたみたいだ。

「うげっ、うげええええ。」

 吐瀉物を青い草の上にぶちまける男たちも数人いた。

「おい、どうした。」

 勇者は矢を収め、従者たちに駆け寄る。難を逃れた。

「私の魅了毒が効いたようね。」

 隣に走っていたアルラウネが俺に向けてウインクをする。途端、俺も男たちのように吐瀉物をぶちまけてしまうところだった。

「お前、あれは魅了っていうより・・・」

 アルラウネの気持ち悪い雰囲気に触れてしまっただけなのではないか、と思った。それに、魅了は普通、異性に効くものである。同性に効くわけがない。

「私のは男にしか効かないの。」

 俺はもう一度後ろをちらりと見る。大分勇者から遠ざかったように思える。勇者の髪は長く、女のようにも見える。

「お前たち、無事か。」

 道の先でベヒモスとワイバーンがいた。俺は二人の顔を見た瞬間、ほっとした。これで助かった、と思ったのだ。だが、瞬間、背後で禍々しい気が膨れ上がるのを感じる。背筋が凍るなんてものではなかった。体が機能を停止し、呼吸をすることさえ忘れさせる。下手をすればその気に当てられて、意識だけが消し飛ばされそうだった。

「何なの?」

 ネフィリムが震える唇でようやく言った。それは俺にも分からなかった。背後の勇者と思しき影から、禍々しい気が天高く昇っている。俺は気なんてものが存在していることを信じていなかった。しかし、それは俺の常識を覆す。黒く噴き出す霧のようなものは、確実なる、まごうことなき殺気。それは俺たちに向けられている。

 勇者は一歩一歩進んでくる。それは地獄から参上した悪鬼かと見間違うほどだった。その勇者は何か唇を動かし呟いている。俺の耳でも聞こえてこなかった。いや、俺の耳が聞き取ることを拒んでいるのだ。

「園を守護する四天。今、我の前に姿を現せ!」

 吠えるような声。それは俺の鼓膜を震わせたばかりではなく、木々の葉をも揺らした。突風が吹き荒れる。その突風は四つの渦巻きと化し、勇者の四方に君臨する。

 風が止む。覚悟が付いていない俺の意思をせせら笑うように、風は勢いを無くしていく。

 勇者の四方に現れたのは四人の人影。鎧を着ていて、その顔は見えない。いや、顔などもとよりないのだ。それぞれ剣、槍、弓、斧を持ち、背中に純白の羽を生やしている。その姿は、世界を破滅させようとする天使そのもの。

 ワイバーン、ベヒモス、ネフィリムはすぐに茂みに移動する。そして、そのまま四方に去っていく。

「逃げられると思ったか。」

 天使たちの中心に位置する勇者は片手を上げる。それが合図であったかのように三人の天使は逃げた三人を追うように茂みに突っ込んでいく。残されたのは、天使と同じく純白の羽を生やした勇者と一体の天使。手には槍。

「逃げ遅れたのはお前たちだけのようだな。」

 まるで神にでもなったかの傲慢さで勇者は俺たちに言い放つ。

「だが、私が直接手を下すまでもない。お前たちはあの三匹よりも弱い。」

 甘く見られ6たものである。その通りなんだが。俺はアルラウネを見る。その瞳はしっかりと勇者と天使を睨んでいる。それは恐怖に満ち足りた瞳ではなかった。覚悟と使命。その素晴らしき感情が滾った男の目だった。

俺は息を大きく吐いて、気を引き締める。もう、やるっきゃない。

槍の天使が突進してくるのと、アルラウネが蔦を伸ばすのとは同時だった。アルラウネの蔦は天使に伸びていき、目にも止まらぬ斬撃で粉々にされる。

「くそっ。」

 俺はアルラウネを横に蹴り飛ばす。その勢いで俺も元の場所から移動する。俺とアルラウネの中間地点で、天使の槍が炸裂する。天使は迷わず俺に背を向け、アルラウネを狙う。よそ見してんじゃねえ。

 踏ん張る足に茂みの草が絡まり、ブレーキの役割をしてくれる。そのまま天使の無防備な背中に一発食らわそうとして、俺は身をかがめる。その真上に棒を振るうように槍が振るわれた。

「くそがっ。」

 俺は天使の無防備な腹にケリを入れるが、強くはない。それより、逃げることを優先する。蹴りの勢いで避けた俺の、元いた場所に、槍が突き刺さる。地面をさくりと指す小気味のいい音がする。だが、それは死の音なのだ。俺はバク転して後ろに逃げる。だが、天使は俺を標的と認めたようで、後ろに下がる俺を執拗に狙い、棒を振るう。

 と、その天使の首に蔦が絡まる。アルラウネの蔓である。

「槍の使い方、間違ってんじゃねえの?」

 俺は余裕ぶって言う。体はそれほど運動したとは思っていなかったのに、極度に熱くなっている。アドレナリンが異常に分泌しているのだ。天使はアルラウネの蔓を簡単に引き裂く。まだ俺を狙っている。アルラウネは俺が倒れた後でも簡単に倒せると踏んだらしい。槍のレンジは広い。だが、突くことを必殺としている槍は、その槍先だけがレンジである。だから、懐に入れば、ただ棒を振り回すだけになってしまう。だから、懐に入ってしまえばいいのだが、棒で殴られるのも痛そうだと思った。

 天使は俺に傷を与えようと槍で刺してくる。だが、それは点での攻撃でしかない。線の攻撃である剣に比べれば、避けることは容易い、ものの、繰り出される槍の数は、目で追えない。自然と後ろに下がることしかできなくなる。が、俺は後に下がった後、姿勢を低くして、一秒にも満たない速さで、槍の壁を下からぬけ、懐に潜り込む。天使は即座に反応し、槍を突く動作から、棒で殴りつける動作に切り替える。俺が天使を殴るより早く、天使の槍は俺を殴りつけるだろう。俺は左手で左から来る憤怒の一撃を受け止めようとする。そして、衝撃。俺は弾き飛ばされ、横の木に勢いよくぶつかった。

 木がさわさわと揺れ、自分にとって命そのものの葉を俺の頭に落とす。虫なんかも落ちてきた。天使は俺にとどめを刺そうと近寄ってくる。左手は痛む。赤く膨れているので、骨が折れたのかもしれない。そんな天使をアルラウネは蔦で止めようとする。だが、天使の背後から天使を縛る蔦は、簡単に切り刻まれる。天使は背後など見ずに槍を背中に向けて撫でるように振るっただけだった。天使の後ろでアルラウネは泣きそうな顔をしている。そんな顔見たくない。おっさんの泣き顔より、女の泣き顔の方がよっぽどいい。それも、最後の場面ならな。

 槍が俺を刺す。だが、俺はすでにそこにはいない。俺の背後にあったはずの木に刺さってしまっていた。天使は機械的な動きで木から槍を抜く。

 俺の体は悲鳴を上げていた。化け物の体でも、これはしんどいらしい。だが、チャンスはあと一回だ。あと一回で仕留めなければ、俺は痛そうな槍で貫かれる。

 天使は槍を構え、突っ込んでくる。俺は天使を上回るスピードで突進していく。槍の穂先には常に注意する。そして、穂先が俺の顔を掠める。少し血が出る。天使は槍の壁が突破されたことを悟り、足で大地を蹴りつけ、ブレーキをかける。左足が地面にめり込んだ。そして、俺の頭にめがけ、棒を叩きつけようとする。またも、一歩及ばない。だが、今度は違った。振るわれる槍を蔦が捉える。それだけでは槍の勢いは止まらない。だが、それで十分。俺は痛む左腕を突き出す。向かって来る槍の方へ。そして、手で掴む。勢いで肩が外れた。それでも、槍を握る手を離さない。

 俺の中の獣よ。俺に最後の一撃を。とっびっきり最強の一撃を頼む。

 弓を射るように引く右腕にそんな願いをかけながら、俺は最後の一撃を天使に叩き込む、はずだった。

 それは冗談みたいな光景だった。俺が狙っていた天使の鎧がパカリ、と鳩時計のように開く。その中はぞっとするほど暗い空洞で、その中から、きらりと光る、無数の槍先。

 俺の体には無数の槍が貫通した。

「ぐ、ぐおうおうおうおうおおおお。」

 俺は叫び声を上げる。体中に痛み以上の電撃が走っていた。体を全身裏返しにしたとしか思えない歪で、こらえきれない痛み。どうみても槍で刺される以上の痛みだった。それが全身を駆け巡り、意識を遮断しようにも遮断できない責め苦を受けながら、槍は冗談のようにするりと抜けていく。

 俺は倒れた。体なんて動くはずがない。未だ体には痛みが残っている。地面に俺の血液が染みを作る。顔に自分の血液がかかってくる。でも、なんの感触も感じない。

 次はアルラウネの番だ。そう思ったとき、俺の頭の中に上ってきたのは、どうしてこんな目に遭わなくてはいけないという怒りだった。どうして勇者は俺たちにこんなひどいことをするのか。化け物だからか。化け物だから、こんな残酷な仕打ちをしていいのか。化け物だから、まだ、生きているのか――

「ほう。あれは一撃でも化け物を死に追いやる槍だというのに。」

 勇者は感心したように言った。

 俺は立っていた。なんで自分が立っているのかよく分からない。きっと化け物だからだろう。

「苦しそうだな。今すぐ楽にしてやれ。」

 天使は俺に向き直る。そして、槍を投擲する形に構える。そして、放つ。心臓を穿つ一撃。心臓を刺されれば死ぬのだろうか。死ぬだろうな。死ねる・・・だろうな・・・

 だが、俺の目の前で起きた光景は衝撃的だった。

 俺の前に誰かが立ちはだかる。ソイツは放たれた槍の一撃を繰り出した蛇で防ごうとして――

 槍は簡単に蛇を突き抜ける。そして、俺をかばうようにして立ちふさがった女の、その心臓に突き刺さる。

「あ、あ、あああ。」

 俺は体中震えた。そして、髪の長い、顔の見えない女を抱く。その方は細くてもろくて、今にでも壊れてしまいそうで・・・

「あああああああああ!」

 俺は叫んだ。同時に涙も出る。鼻水も出る。ション便も出たかもしれない。何もかも俺をとどめていた堰が壊れてしまっていた。

「どうして。どうして。」

 女の髪がすらりと顔から退く。そこから現れたのは、青白い、人形のように整った、恐ろしささえ抱かせる美貌。

「なんでそんな顔なんだよ。」

 満足だったと言わんばかりの顔。いい夢を見ているかのような、寝顔。でも、息はしていない。

「なんだと?他の四天が倒されただと?」

 勇者は何か言っていた。でも、俺には聞こえてこない。俺の目には、もう、ヒュドラの顔さえ見えてなかった。

「くそっ。逃げるぞ。」

 天使の気配が消える。そして、大地を揺るがすほどの、地面を蹴る音。勇者は去った。

「アンタたち、大丈夫?」

 ネフィリムの声がした。

「ヒュドラ?どうして。」

「無事か?」

 ワイバーンとベヒモスも戻ってきたようだった。

「ヒュドラがマンティコアをかばって。」

 アルラウネが説明する。

「心臓に刺されても、生き返るはずだよ。」

 ワイバーンが言った。

「だが、それは天使の呪いだ。」

 カリテの声がする。

「ヒュドラは、ヒュドラは助からないのか。」

 俺の声は弱弱しかった。雨に濡れた後の、体の冷え切った声。

「いいや、見込みがないわけではない。」

 カリテが言う。

「ネフィリム。様子はどうだ?」

 カリテの言葉にネフィリムがヒュドラの体を触って言う。

「仮死状態かと。組織の崩壊は始まっていません。」

 ネフィリムが言った。

「では、まだ助かる。」

 カリテの言葉に俺は顔を上げる。ベヒモスの手の中に立体映像としてカリテは存在していた。

「天使の呪いを解呪できるのは悪魔だけだ。」

 ほんのささやかな望み。小さな小さな希望。

「こちらでなるべくヒュドラの体を維持する努力をしよう。だが、一週間ももたないだろう。それまでに悪魔を連れてくるのだ。」

「どこにいるんだ。悪魔は。」

「リバー魔ウンテンという場所に生息している。」

 俺は立ち上がった。

「どうするのだ。」

「行くに決まってるだろ。」

 俺はとぼとぼと歩き出した。



 勇者について

 勇者の使役した天使ですが、神のそのを守る名のなき天使。オリジナルです。

 それぞれ、弓はワイバーンと、斧はベヒモスと、剣はネフィリムと戦って、例外なく負けました。

 ステータスとしては、槍攻撃AからB、防御B、速さAです。槍は基本止まってないと使えないので、今回はBからCまでに落ちてしまっています。弓は攻撃力D、防御B、速さA。矢の呪いは魔物にだけEXとなります。斧は攻撃A、防御A、速さF。剣は攻撃A、防御B、速さB相当。実は一番剣が強かったり。剣は使い方が多彩なので、テクニックタイプにして攻撃防御、速さに恵まれています。

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