19 いくら一段落しても、問題は次々舞い込んでくる
19 いくら一段落しても、問題は次々舞い込んでくる
浜には目を奪われるほどの夕焼けが輝いていた。
「今回は色々と申し訳ありませんでした。色々と勘違いをしていたようで。」
「あ、うん。」
「旦那様。夕焼けが綺麗ですね。」
「あ、うん。」
俺の左側にはモービィ・ディックが、右側には黒い髪の少女が座っていた。
話は数時間前にさかのぼる。
海は穏やかになり、俺たちは危機が去ったことを知った。俺は疲れはてて、岩場にそのまま倒れ込んだ。そして、毎回の如く、意識を失った。
そして、目を開けると、マーメイドたち男連中は森の中でバカ騒ぎしていた。俺は森の中に担ぎ込まれたようだった。女性たちはそのバカ騒ぎを、バカを見る目で見ながらも楽しんでいるようだった。アルラウネは女性側で楽しそうにガールズトーク?をしている。
「目を覚まされましたか?旦那様。」
「へ?ええ、そりゃまあ。」
起き上がった俺を心配そうな目で見る少女がいた。白い着物姿の、黒く長い髪の乙女だった。
「君は?」
明らかに俺よりも年下の少女に尋ねた。
「雪男です。あなたの妻となる者です。」
「あー、すっかり忘れてたなぁ。ははは。」
こんな折になって、俺は嫁問題をどう対処するのかすっかり忘れていた。
目の前の少女は大和なでしこといった風の美少女だった。だが、まだ幼い感じで、嫁と言われても困惑するわけである。
「いやあ、そのな……」
最悪のことだとは思いながら、俺は婚約破棄を申し出ようと思った。そもそも、カリテが勝手に決めたことなのだ。それは俺にとっても雪男にとってもいいことじゃない。
「って、雪男?」
そんな折、図鑑が振動した。俺は図鑑を取り出す。すると、すぐさまカリテの立体映像が現れた。
『無事雪男を連れてくることができたようだな。あっぱれだ。これで晴れて婿入りだな。』
「いや、勝手に決められた結婚を…というか、俺、婿入りするの?全く聞いてなかったんですけど?」
『まあ、よいではないか。』
「少しもよくありません。そもそも俺は結婚するつもりなんか――」
「ひどいです。マンティコア様。遠路はるばるあなた様を訪ねてきたというのに!」
「うう!凍る!凍るから、止めて!」
雪男の体から冷気が噴き出し、俺の体の端を凍らせようとしていた。
『船を作るのに時間がかかるからな。それまで雪男とともにスリラーパークの測量を行ってもらう。』
「いやいやいや。もう、勝手に話を進めないでよ。」
『気持ちの整理がつくまで私は待つぞ?そのうちにベヒモスがひょろっと現れるやもしれんが。』
「そういうのを脅迫と言うんだよ。」
俺は渋々了承せざるを得なかった。
「マンティコアさん。ちょっとお話があるのだけれど、いいかしら。」
傍らにモービィ・ディックが現れた。
「別にいいけど。」
「では、浜辺の方へ。」
そして、イマココ、である。
「そちらの女性はあなたの妻であるそうですが。」
「まだ結婚してねえし、俺にはそんな気は――」
「旦那様?」
「うぅ。ごめんさい!」
笑顔で冷気を飛ばしてくる雪男に俺は土下座した。
「あまりエレガントとは言えませんわ。」
「何か文句でも?」
雪男とモービィ・ディックは俺の目の前で火花を飛ばす。
「まあぁまぁ。落ち着きなはれや。」
「「旦那様は黙ってて。」」
「はい。」
俺はどうも女性にめっぽう弱いようだった。きっと、俺は女性とは無縁の生活をしてきたのだろう。
「あなたには感謝しているの。いつか私たちは本気でお互いを殺しあわなければならなかったでしょう。スキュラが必死でなんとかしてくれていたようですけど、それでも限界はありました。でも、あなたは無茶苦茶な方法で全てを丸く収めてしまった。」
「俺にも予想外だったけどな。」
「それでも、あなたは結果的にこの海を救いました。それだけで素晴らしくなくって?」
「褒められるのは嬉しいけど。」
だが、一度殺されかけた人間に感謝されるのは不思議な気分だった。
「なあ、どうしてお前はこの海を守ろうとしていたんだ?」
「それは、白鯨が可哀想だったからですわ。白鯨は私の能力の一部だと思ってらっしゃるかもしれないけれど、彼女はこの海の生き物ですの。ここに来てひとりぼっちだった私と友達になってくれて。でも、海が荒れてしまって段々と衰弱していきました。彼女はもって、あと数年でしょう。せめて苦しまないように、美しい海で死んでいってもらいたかった……」
夕陽に花を添えるように、鯨の水しぶきが上がった。それは俺たちに何かを伝えているのだろうけど、それが分かるのはモービィ・ディックだけなのだった。
「あなたは大変は運命を背負っているようですわね。私はあなたのお手伝いがしたいですけど、スキュラたちとともにこの海を収めていかなければなりませんの。だから――」
夕焼けに溶けるような透明な声でモービィ・ディックは最後に言った。
「あなたの幸運をお祈りしていますわ。」
それがモービィ・ディックとの別れの言葉だった。
「でも、測量って、どうするんだ?」
「機材は持ってますよ。旦那様。」
「その旦那様っての止めてくれないかな。マンティコアでいいから。まだ旦那でもないからね。」
「あら。頭がお固いんですね。」
「お前ほどじゃねえよ。」
アルラウネたちはどうするのかと聞くと、面倒臭いからついて行かないということだった。全く薄情な奴らである。
「で、どうしてお前だけちゃっかりついてきているんだ?」
俺は俺たちの後をついてきているハレイシャに尋ねた。
「帰り道が一緒なだけだ。」
「ベタ過ぎるだろ。それと、お前に帰るところなんてないだろう。」
すると、ハレイシャは地面にひざをつき、物凄く落ち込んだ。
「いや、すまんすまん。悪気があったんじゃないんだ。」
「ともかく、私を養え。そして、船で大陸に帰してくれ。」
「一番災難なのはお前だな。」
「俺たちの戦いはまだ終わらない!」
「それ、打ち切りだからな。昨今はまだ他の雑誌に掲載させてくれるからな。」
「でも、良かったではありませんか。旦那様。今まで男ばかりでむさくるしかった絵柄が急にハーレムになりました。」
「どいつもこいつも物騒だがな。」
かくあれ、そろそろ決まり文句で閉めようとしよう。
異世界に飛ばされて、マンティコアとかいうマイナーな怪物になったけど、これはこれで楽しいからいいかもしれない。
色々と疑問は残るけど。




