17 男ってのはなあ、ストレスがたまると特大のビームを出したくなるんだよ
17 男ってのはなあ、ストレスがたまると特大のビームを出したくなるんだよ
「船がいつ来るのかは結局わからないのか?」
俺は腕立て伏せをしながらアルラウネに聞いた。
「そうね。それもサキュバスの伝令次第だけど。」
「でも、いくら遅くともそろそろ来るはずだろう。」
焚火を囲んだ向こう側で俺と同じく腕立て伏せをしているマーメイドが言う。
「なら、早くスキュラと話をつけないと。」
「あれは話しあえるような相手ではないな。」
「私も同感。」
ハレイシャの意見にアルラウネが同意する。
「となると、倒すほかはないわけか。」
この中では俺だけがスキュラと出会っていないので、対策は立てられそうもない。
「そのスキュラってのはどんな奴なんだ?」
「とにかく、好戦的ってところかしら。私たちと戦ってたのも、なんだかお遊びって感じだったし。」
「私たちが襲われたのは海から離れた森の中だった。陸地でかなり行動できると見ていいだろう。」
「結構すばしっこい奴だ。仕留めようにも攻撃が簡単に躱されちまう。」
「そうね。あのスライムの攻撃も避けてたもの。」
「だが、俺の時はどうも本気ではなかったな。敵を殺すのが目的ではなさそうだ。」
「アイツは無抵抗の獲物を狩るのが楽しいんだ。クソが。」
「とにかく、何かしら作戦がないと困るだろう?どうする。」
「誰かが引きつけて、後ろからブスリ、じゃないかしら。」
「私の役目か?」
「いや、ハレイシャの武器は強力過ぎる。下手すればスキュラも死ぬ。」
「私は奴を殺すつもりだ!」
「止めろよ!」
俺は思わず叫んでしまっていた。
「肉染みは肉染みを呼ぶだけだ。」
そうやって、戦争ってのは広がっていく。体験したことのない俺だけど、小さないざこざでさえそうなのだから、戦争なんてもっとひどくなるに決まってる。
「だが、私はそいつに対する恨みは決して忘れない。」
「それでいいさ。そっちの方が死んだ奴らも報われるだろ。」
「何も知らないくせに。」
俺は何も知らないし、間違っているかもしれない。誰かが傷付く姿を見たくないってのはただのわがままだ。でも、嫌なものは嫌だし、ハレイシャも本当はやりたくないに違いない。
「じゃあ、勇者様が囮で、後はサポートかしら。で、とどめがマーメイド。」
「おうよ。」
ハレイシャは不機嫌そうに顔をそむけた。
「結局さ、世の中ってのは買わせることができるかできないのか、なんだよ。最近のアニメのDVDの特典ってすごいだろ。でも、やっぱりそれだけではどうにもなってことが多いと俺は思うんだ。」
「突然何を言っている。」
俺の言葉にハレイシャが返答する。
「いやあ、作者はさ、一日に一万字くらい書くと能力がなくなってきちゃってさ。今がそんな状態なわけだよ。」
「いや、言ってる意味が分からんのだが。」
「そうよ。この小説はなるべくそう言う路線は無しで行くのがセオリーじゃないの?」
「いやあ、作者も疲れてるみたいでさ。結構このモービィ・ディック編って早く終わるつもりだったみたいなんだよ。でも、気が付けば、もうすぐ森編と同じくらいの長さになるじゃん。」
「鍛えれば、なんとかなる!」
「マーメイドが変な所で会話に入るから長期化するんだよ。」
「いや、お前が不要な話をするからだろう。」
「そうだ。本題にいかなければ。つまりだ。作者が購入したいと思ったのはFate/stay nightのUnlimited Blade Worksだけだということだ。何が良いかと言うと、作画は最高だし、話は中途半端に終わらないし、というところかな。特典が凄くても、やっぱりしっかりとした作品でないとダメと言うことでだな。」
「マンティコアのくせに生意気ね。」
「そのマンティコアのくせにとはどういうことだよ。」
「アンタごときがアニメを語る権利があるのかってことよ。このホームレス。」
「くそっ。昔の弱みを握られてるってのはつらいなあ。」
「君たち、何しにここに来たの?」
金髪碧眼ボーイは女と戦っていた。活発そうな感じの女性で、赤いビキニがよく似合っている。
「じゃっじゃーん!久しぶりね、坊や。」
「あんたは――」
スライムと互角に戦っていた女性は海の家のスタイルのいいお姉さんだった。
「衝撃の再開ってやつかしら。」
「さっきの唐突に無駄なやり取りのせいで、雰囲気ぶち壊しだと思うよ。」
スライムは伸びる高速の腕で女を殴りつけようとするが、女はそれを読み切っているかのように軽く体を動かして躱す。そして、スライムの懐まで潜り込み、体を蹴り飛ばす。その際、たこの足のようなオーラが見えた。
「まさか、あんたがスキュラだったのか。」
「正解!正解したぼくにはご褒美をあげたいところだけど、今は油断ならないものね。」
スキュラは下半身から五匹の犬と五本の触手を出現させる。
「実はね、金髪の坊や。私はまだ本気を出してなかったんだ。でも、こんなに強そうな人たちの前だと本気出さないといけないだろうから。」
だが、スキュラはなぞの足たちを出しただけでなにもしては来ない。
「結局は見せかけだけなんだね。」
スライムはスキュラに襲いかかろうとした。その時である。
「かはっ。」
スライムは苦しそうにもがき始める。
「毒、か?でも、僕には毒の耐性がある。」
空気中に毒が撒かれているのか。
「おい、口を蔽え。」
その時、俺も呼吸をしてしまった。その時の感覚は明白だった。呼吸ができない。まるで水の中で溺れているような感覚だった。
「俺にも毒の耐性があるはずだがな・・・」
つまり、これは毒なんかではないということだった。ならば、一体なんなのか。
「小学生でもわかる理科の問題です。さて、問題。動物が活動するのに必要なのはなんでしょうか!ヒントはエネルギーともう一つ、人が寝ていてもする行為と関係あります。」
「酸素、か。」
「はい、正解。金髪君、流石だね。では、次の質問。植物には何が必要?」
「二酸化炭素と水と日光。」
アルラウネが言った。毒耐性を持っているはずのアルラウネも苦しそうだった。下手をすれば俺たちよりも重傷だった。
「正解。じゃあ、最後はそこの優しい坊や。空気中の酸素は何パーセント?」
「十パーセントもなかっただろ。」
「正解は21パーセント。意外と多いよね。でも、酸素って本当は怖いって知ってた?普通は密閉空間でしか酸素中毒ってのは起きないんだけど、今回は特別サービスです!」
「何を――がはっ。」
肺に入った空気を体が拒んでいる。体が震えて思いのままに動かない。
「あとね、酸素って可燃性のガスじゃなくて、物を燃えやすくするのを助けるだけなの。つまり、ガスボンベのガス、コンロに使うのはあれはそのガス自体が燃えてて、それを酸素が助けてるって訳。だから、この周りだと燃えやすい事には燃えやすいんだけど、燃えるための何かが必要ってわけ。炎はあれは何か有機物を燃やしてるのよ。ガスとかオイルとかね。」
「うっ。」
スライムはとうとう倒れてしまった。
「楽しかったけど、これでおしまいね。」
スキュラがスライムを毒牙にかけようとした時である。
「うおおおお!」
隠れていたマーメイドがトライデントで襲いかかる。マーメイドは高濃度の酸素の中を不自由なく移動していた。スキュラは犬の足でトライデントを受け止める。
「海に住む怪物は肺活量がケタ違いだから今まで使う機会がなかったの。特にこの脳筋にはね。」
スキュラはマーメイドの隙をつき、魚の足でマーメイドを蹴り飛ばす。マーメイドの口から空気だ飛び出す。
「だい・・・じょうぶか・・・」
マーメイドは苦しそうにもがいていた。
「酸素は海の生き物にとって最高の毒だもの。」
マーメイドの苦しみようは驚くほどのものだった。これでは本当に命が持たないと思うほどだった。
「さあ、海を荒らすあなたたちを懲らしめてあげなくちゃ。」
そんな時、図太い男の声が聞こえた。
「ある少年がいましたとさ。少年は自分のことよりも他人のことを優先しました。自分の身の危険を顧みず、誰かを助ける。でも、その生き方は誰にも理解されませんでした。親からも、友だちからも、助けた人からも。自分を第一に考える生き物の観点から言って、少年はもう生き物ではなく、生きている彼らは少年を理解できないのでした。」
「何者?」
「サキュバス。」
サキュバスは口に咥えていたキノコ(煙草)をスキュラに向かって投げつける。だが、キノコはスキュラに到達するまでに燃え尽きてしまった。
「そんなことしても無駄よ。よっぽどの大火事を起こさない限り。」
サキュバスは大胆なドレス調の衣装の腰になにかを当てる。そして、こう叫んだ。
「変身!」
すると、サキュバスはみるみるうちに変身――しなかった。サキュバスのつけたベルトは電流を迸らせ、サキュバスの元から弾き飛んでいく。
「何やってるんだ・・・」
最後の空気を使ってしまった。もう、逃れる術はない。
「マンティコア。それを使えば、お前は十秒だけ力を取り戻せる。」
すごく短かった。だが、十秒もあれば充分だった。俺はベルトを手に取り、腰につける。
「変身。」
すると、力が漲ってきた。残念ながら、外見に変化はない。
「三秒でケリをつける。」
俺はスキュラの下に飛び込む。
「え!?なんで!?」
スキュラはひどく驚いているようだった。そこに獅子の一撃を加える。スキュラは腕を組んでガードしたが、俺の一撃はスキュラを遠くに弾き飛ばす。そして、海に柱が上る。スキュラが海面に叩きつけられた後だろう。
その後、すぐに俺は力を無くした。時間制限のようだった。
「どうだ。みんな、大丈夫か?」
まだみんな顔が青いが一命を取り戻したようだった。
「でも、なんだか前よりパワーアップしてないか?」
『当たり前だ。』
どこからか聞き覚えのある声がした。俺は振動したポケットに手を伸ばす。
『それは私の開発した、マンティコアパワーアップツールだからな。』
「カリテ!?」
取り出した図鑑から、女王様の立体映像が浮かび上がっていた。
『なんだ?亡霊を見たような顔をして。』
「いや、図鑑から連絡できるなら、教えてくれよ。」
『残念ながら、これは私からの一方通行でな。お前からはかけることはできない。』
「それまた、どうして。」
『いやあ、ストーカーとかうざったいし。』
「俺はストーカー扱いかよ。」
『ともかくとして、だ。お前たちには伝えなければならないことがある。明日には船が港に着く。だが、増援は出せん。』
「なんでだよ。」
『たかが小娘一匹のためにカリテ様の警護を薄くするわけにもいかん。』
「その声は、ベヒモスだな。くそっ。もう出てこないと思ったのに。」
『ワイバーンちゃんもいまーす。』
「俺のトラウマ、その二。」
『そちら、ちいと黙っておれ。最後に忠告だ。そのベルトは一日一回だけの使用にしろ。それはお前の中のマンティコアの力を無理矢理引き出して、呪いで制限されている値以上の力を出すというものだ。だが、そこには欠点がある。使い過ぎると己の中の怪物が、つまり、マンティコアが制御できなくなる。お前の意思や体はマンティコアに飲み込まれるということだ。』
「とんでもないものを――」
だが、力が手に入ったのは事実だった。これで船が守れる。
『私からは、最後に一つ。死ぬなよ、マンティコア。』
そう言って通信は切れた。
「いやあさ、結局のところ、ハーレムが必要なわけだよ。ハーレムが。」
「サキュバス。おかしなものでも食べたか?」
深夜、焚火を囲って俺たちは作戦会議をしていた。
「こんな男ばかりじゃあ、な。夢魔というか淫魔としてダメだと俺は思う。」
「急だね。賛成だけど。」
怪物たちの回復能力はすさまじく、皆、全快だった。ただ、俺だけが筋トレをしている。
「君も、鍛えれば、パーフェクトボディ。」
「やっと登場する機会が与えられたからって、パクリネタはな。」
「カクレブラック、シゲキテキ。」
「いや、混同してるから。同じ時間帯でも年に一回くらいコラボすればいい方だからね。」
「すっかり、突っ込みポジションに戻ったわね。」
アルラウネは安心したように言った。
「で、だ。私は女だぞ。」
ハレイシャが怒りに震えながら言葉にする。これまでずっと我慢してきたのだろう。
「メ――」
「ダメだよ、みんな。メスゴリラとか言っちゃ!」
「貴様あぁ!」
俺はどこからともなくハレイシャの繰り出した爆撃に弾け飛ばされる。空中を彷徨っている折、俺はサキュバスたちを見た。
どいつも例外なく笑っていやがった。
これは嵌められたな、と思い、やっぱり碌でもない奴らだ、と考えを改め直した。




