8 そういう年齢
パーシーの黒い目は、怒っていた。くいっとメガネを押し上げて、あたしたちを睨む。赤い髪も、怒りに燃えているみたいだ。
ラーフは階段の手すりに腰かけて、アーモンド色の猫目を細める。同じ色の猫っ毛もあって、猫に見える。……怒りで山猫に見えるけどね。
金髪碧眼の美女の卵は腰に手を当ててあたしたちを睥睨する。リサ……普段は怒らないのに、今日は相当に怒ってるらしい。
水色の髪を揺らして、ナタリーは階段の一番上から飛び降りる。ぱっちりと開いたはしばみ色の瞳は、確実にあたしを非難していた。
「私は、嫌よ。まぁ、足を引っ張ってるって自覚はあるわ。でもね、0と1で戦うなら、誰にも負けない。それも確かよね?」
「リサ。あたしは、あんたが戦闘に巻き込まれちまったときのことを言ってるんだ」
「ノーラ、あなたに決定権はないわよ」
ぴしゃりと言われて、あたしは見守ることしかできなくなる。リィ。イア。頼む……。
「ノーラの言うことも正しいと思うよ、私は」
「イア。お前、俺みたいに色々作れんのかよ? 指輪型の爆弾とか髪留め型のナイフとか。それに銃のカスタムは? ジャムっても直してやんねぇぞ」
「教えてくれたらできるよ、パーシー。私は、忘れることができない」
「初見じゃ対応できねぇってことだろ?」
「もう陛下にも言っちゃったしね。6人です、って」
ラーフは飄々とキレている。リサやパーシーより腹黒い分、面倒だ。
「あたしはみんなで一緒にいたい!」
……ナタリー、元気だね。もうそれ以上に言うことはないよ。
言い争いはしばらく続いた。何度か口を出そうとしたが、そのたびに止められる。
……そういう年齢、か。大人の言うことなんて、ゴミくらいにしか思ってないんだろうね。でも、忠告は聞いた方がいい。それを理解できるようになるのも大人になってから。ああまったく、子どもってのは面倒だ。
こんなに、心配してるのに。こんなに、無事でいてほしいのに。どうして、死のうとするんだい!? あたしから愛する人を、これ以上、奪わないでくれ。
「……それで、リィ。結論を言ってくれるかしら。あんたがダメっていうなら、ここを出て新しく生きるわ」
リィはしばらく目を閉じて黙った。……ああ、ダメだった。もう、分かる。
「……殺し屋は、6人でする。限界を感じたら、すぐに抜けろ。俺がもう駄目だと思ったら、抜けさせる。――それでいいか、イア」
止めてくれ。そう思うが……イアには、無駄だ。
「リィがそう思うなら、いいよ」
今までに何十回と聞いてきた。イアは常に、リィの考えを支持する。
だけど、死なないかも。そんな楽観的なあたしが語り掛ける。あたしは、臆病だ。止めればいいのに、そうしない。出て行ってしまうのが、怖いから。死なない可能性に賭けてしまいたくなるんだ。




