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ただ純粋な、  作者: 横山裕奈
チェス編 第一章
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8 そういう年齢

 パーシーの黒い目は、怒っていた。くいっとメガネを押し上げて、あたしたちを睨む。赤い髪も、怒りに燃えているみたいだ。

 ラーフは階段の手すりに腰かけて、アーモンド色の猫目を細める。同じ色の猫っ毛もあって、猫に見える。……怒りで山猫に見えるけどね。

 金髪碧眼の美女の卵は腰に手を当ててあたしたちを睥睨へいげいする。リサ……普段は怒らないのに、今日は相当に怒ってるらしい。

 水色の髪を揺らして、ナタリーは階段の一番上から飛び降りる。ぱっちりと開いたはしばみ色の瞳は、確実にあたしを非難していた。


「私は、嫌よ。まぁ、足を引っ張ってるって自覚はあるわ。でもね、0と1で戦うなら、誰にも負けない。それも確かよね?」

「リサ。あたしは、あんたが戦闘に巻き込まれちまったときのことを言ってるんだ」

「ノーラ、あなたに決定権はないわよ」

 ぴしゃりと言われて、あたしは見守ることしかできなくなる。リィ。イア。頼む……。


「ノーラの言うことも正しいと思うよ、私は」

「イア。お前、俺みたいに色々作れんのかよ? 指輪型の爆弾とか髪留めバレッタ型のナイフとか。それに銃のカスタムは? ジャムっても直してやんねぇぞ」

「教えてくれたらできるよ、パーシー。私は、忘れることができない」

「初見じゃ対応できねぇってことだろ?」


「もう陛下にも言っちゃったしね。6人です、って」

 ラーフは飄々とキレている。リサやパーシーより腹黒い分、面倒だ。

「あたしはみんなで一緒にいたい!」

 ……ナタリー、元気だね。もうそれ以上に言うことはないよ。


 言い争いはしばらく続いた。何度か口を出そうとしたが、そのたびに止められる。

 ……そういう年齢、か。大人の言うことなんて、ゴミくらいにしか思ってないんだろうね。でも、忠告は聞いた方がいい。それを理解できるようになるのも大人になってから。ああまったく、子どもってのは面倒だ。

 こんなに、心配してるのに。こんなに、無事でいてほしいのに。どうして、死のうとするんだい!? あたしから愛する人を、これ以上、奪わないでくれ。


「……それで、リィ。結論を言ってくれるかしら。あんたがダメっていうなら、ここを出て新しく生きるわ」

 リィはしばらく目を閉じて黙った。……ああ、ダメだった。もう、分かる。

「……殺し屋は、6人でする。限界を感じたら、すぐに抜けろ。俺がもう駄目だと思ったら、抜けさせる。――それでいいか、イア」

 止めてくれ。そう思うが……イアには、無駄だ。


「リィがそう思うなら、いいよ」

 今までに何十回と聞いてきた。イアは常に、リィの考えを支持する。

 だけど、死なないかも。そんな楽観的なあたしが語り掛ける。あたしは、臆病だ。止めればいいのに、そうしない。出て行ってしまうのが、怖いから。死なない可能性に賭けてしまいたくなるんだ。

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