87 伝言を伝える
ティタンへ帰った俺たちには、1つするべきことがあった。
「リサ……入るよ」
イアとナタリー、リサで使う予定だった部屋の扉をノックする。リサは、どんな反応をするだろう。
「ええ、いいわよ。おかえり」
「……ただいま」
「ねぇ……他のみんなは?」
イアが口を開いて、もう一度閉じた。たったそれだけの動作でも、十分に伝わって。
「嘘でしょ? ねぇ、どこにいるの? ――ラーフは?」
「……伝言。あるんだ、リサ」
深呼吸をすると、イアの声と動きはラーフに変わる。
「ごめん。でも、ずっと側にいる」
瞬きをすれば、イアに戻っていた。リサはぼんやりとイアを見て、そして、笑い声を漏らした。
「ああ、そう……。みんな……いないのね? そして、あんたたちだけが生き残った!」
笑い声はすぐに狂った声になる。
「やっぱりあんたが残るのね、イア! 神様って不公平ね。あんたには与えすぎるほどすべてを与えたのに、私からはすべてを奪っていくんだもの!」
涙が流れる。でも、笑い声はそのままだ。
「ねぇイア。ラーフに言われたから、あんたを憎みはしないわ。でもね、とても悔しいの。私は私でいいって認めてくれた人は死んで、私に劣等感を抱かせたあんたが生き残ったことが!」
イアは表情に一切の動揺もなく、すべて受け止めて聞いていた。
「あははははッ! あんたたちは2人で生きていけばいいのよ! 私は、昔から1人だった。そして、これからもね! こんなことなら、2人になんてならなきゃよかったわ」
不意に真顔になって、リサは呟いた。
「……前よりずっと、世界が色褪せて見えるわ」
世界が色褪せる、という言葉には覚えがあった。色褪せて、最後には黒一色になる。……イアに助けてもらわなかったら、俺は今のリサと同じ状況だったはずだ。
「さようなら、リィ、イア。悪いけどイア、違う場所で寝てくれる?」
イアがうなずいたのを見て、リサは扉を閉める。




