86 帰還
肩で大きく息をする。リィすらもやや余裕のない顔で周囲を見渡した。
「追手は来てないな……」
「追いついてないだけじゃない?」
「そうだな。……イア、まだ動けるか」
「え? 当たり前じゃん」
ストン、と私は膝から崩れる。……え?
「ちょっと足を蹴っただけで倒れるレベルじゃねぇか。――ほら、背負ってやる」
ふわりと地面から足が離れて、軽々と負ぶわれる。……てか蹴ったな! ひどくない? 押すくらいでいいじゃん。
まぁでも、親切でしているって分かるから。
「……ありがと」
リィからの返事はない。ただ、少しだけ微笑んだような気がした。
「よう、帰ったか、お2人さん」
「セナ」
セナは私たちのことをキャンプの入り口で待っていた。煙草の煙がふわりと立ち上る。短い髪が風に揺れて、そこだけ絵のようだった。
あれ、セナって意外と美人? てかかっこいいな。煙草が似合う。
「他のやつらは……死んだか」
「目の前で。報告なら俺がする」
「ああ、そうだね。イアータは今すぐ救護テントに行って休め」
よっぽどひどい顔色をしているんだろう。
「ううん、大丈夫。私も報告しなきゃね」
「でも、お前」
「甘えたら、もしものとき死ぬ。倒れたら死ぬんだよ? リィ。よく知ってるはず」
リィはため息を吐いて、うなずいた。
「ああ、分かった」
「あんたって、手負いの獣かなにかかい?」
「ううん? ただ、生きてたいだけだよ」
死を回避したい。ただ、それだけだ。




