30 毒に倒れる
毒を塗った痕跡はねぇし、大丈夫だろう。ジョシュも一緒に切ったのは気になるけどな。
「まぁ、ウェイターにはよくあることだからな。ドリンクを注いだりする都合で、手袋もはめてねぇし」
「そうなんですか」
ビレドがそう言った。そう、なのか。じゃあ大丈夫だろう。
「おや、もうお帰りで?」
「いつもの時間だ。では」
これで任務は完遂だな。……ん? なぜ戻ってくる。
「少しいいか、ジョシュア、ジェフェリー」
はい、と答える声が重なる。
バシャッ
……水? なんでいきなり。いきなり、俺たちにかける? それも、全方向を護衛に囲ませて、全員からかけられる?
「ミスター・チェンバレン!?」
ジョシュが抗議するように声を上げる。ギアルギンは薄ら笑いで、すべての答えを告げる。
「やっぱり君たちは、暗殺を企てたろう? 分かるんだ、そういうの。元はスラム育ちだからね」
スラムから、偽物として連れてきたってことか!?
「ああところで、それは水じゃない。毒だ」
完全に浴びちまってる! 解毒はどうすれば……?
「安心したまえ、傷口からの侵入でしか毒牙に倒れることはない。それはヘムロックを主体に作った毒でね。手足の痺れから始まり、最後は呼吸ができなくなる。だが不思議なことに、最期まで意識はあるのだ。素晴らしいだろう? 歩けなくなるまで30分ってところだな。仲間への挨拶は早めにな」
俺とジョシュは同時に、指先を見る。全方位からかけられた毒は、例外なく指先の傷もしとどに濡らしていた。
「その毒は回るのが速くてね。ああちなみに、私に盛った毒は、もう解毒したよ。では、さようなら」
俺は咄嗟に動いていた。指輪の威力を最大に上げて、ギアルギンに投げつけた。護衛が防ごうとして……護衛ごと、吹き飛ばした。
足元に、ギアルギンの首が転がる。体と首が離れて……8秒は生きてるらしいな。
「解毒剤はどこだ」
「そんなものはない。ざんね、」
力尽きたらしい。……くそ、どうする……?
「リィ。とりあえず、帰ろう。で、王さまに連絡。遺言も遺したいでしょ?」
「冗談じゃねぇ。まぁいい、帰るか。任務は達成した。これで無事に生きられたら最高なんだが」
「どうだろうね」
死ぬ、か。あまり実感がない。なんにせよ、
「ねぇ、リィ。死ぬとしてさ。同時に死ねてよかったね」
「俺の言おうとしたことを先に言うな」
ヘムロック(和名はドクニンジン。そのままかよ!)は本当にあります。呼吸困難で死に至り、それまで意識は薄れない。……怖っ。




