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ただ純粋な、  作者: 横山裕奈
チェス編 第三章
31/262

30 毒に倒れる

 毒を塗った痕跡はねぇし、大丈夫だろう。ジョシュイアも一緒に切ったのは気になるけどな。

「まぁ、ウェイターにはよくあることだからな。ドリンクを注いだりする都合で、手袋もはめてねぇし」

「そうなんですか」

 ビレド(先輩)がそう言った。そう、なのか。じゃあ大丈夫だろう。


「おや、もうお帰りで?」

「いつもの時間だ。では」

 これで任務は完遂だな。……ん? なぜ戻ってくる。

「少しいいか、ジョシュア、ジェフェリー」

 はい、と答える声が重なる。


 バシャッ

 ……水? なんでいきなり。いきなり、俺たちにかける? それも、全方向を護衛に囲ませて、全員からかけられる?

「ミスター・チェンバレン!?」

 ジョシュが抗議するように声を上げる。ギアルギンは薄ら笑いで、すべての答えを告げる。

「やっぱり君たちは、暗殺を企てたろう? 分かるんだ、そういうの。元はスラム育ちだからね」

 スラムから、偽物として連れてきたってことか!?


「ああところで、それは水じゃない。毒だ」

 完全に浴びちまってる! 解毒はどうすれば……?

「安心したまえ、傷口からの侵入でしか毒牙に倒れることはない。それはヘムロックを主体に作った毒でね。手足の痺れから始まり、最後は呼吸ができなくなる。だが不思議なことに、最期まで意識はあるのだ。素晴らしいだろう? 歩けなくなるまで30分ってところだな。仲間への挨拶は早めにな」

 俺とジョシュは同時に、指先を見る。全方位からかけられた毒は、例外なく指先の傷もしとどに濡らしていた。


「その毒は回るのが速くてね。ああちなみに、私に盛った毒は、もう解毒したよ。では、さようなら」

 俺は咄嗟に動いていた。指輪(爆弾)の威力を最大に上げて、ギアルギンに投げつけた。護衛が防ごうとして……護衛ごと、吹き飛ばした。

 足元に、ギアルギンの首が転がる。体と首が離れて……8秒は生きてるらしいな。


「解毒剤はどこだ」

「そんなものはない。ざんね、」

 力尽きたらしい。……くそ、どうする……?

「リィ。とりあえず、帰ろう。で、王さまに連絡。遺言も遺したいでしょ?」

「冗談じゃねぇ。まぁいい、帰るか。任務は達成した。これで無事に生きられたら最高なんだが」

「どうだろうね」

 死ぬ、か。あまり実感がない。なんにせよ、


「ねぇ、リィ。死ぬとしてさ。同時に死ねてよかったね」

「俺の言おうとしたことを先に言うな」

ヘムロック(和名はドクニンジン。そのままかよ!)は本当にあります。呼吸困難で死に至り、それまで意識は薄れない。……怖っ。

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