2 歳は関係ない
ぱさりと音がして、少女の頭からフードが滑り落ちる。
――嘘でしょ。隣にいる美の女神より、よっぽど、綺麗。
抜けるように白い肌。桃色に艶めく唇。白銀に煌めく軽やかな銀髪。左右対称で、優しくもあり凛々しくもある顔。宝石のように輝く、強い意志を宿した瞳。
――『悪魔の瞳』だわ……!
恐怖の対象となるその瞳は、彼女の美貌を損なわない。むしろ、際立たせる。
人形ではない、かといって人間でもない美しさがそこにある。子どもとか、そんなことは関係なく。けれど確かに確信できること、それは、彼女はさらに美しくなるだろうということ。
「これで分かったよね? 王さま」
その声は、今までの声ではなかった。
――これが、イアータの本当の声ということ……?
どんな楽器も、この声の前では不協和音。風が吹き抜けるように、歌うように響く声。イアータに囁かれて抗える者がいるのだろうか。
「だから言ったのに。忠告は素直に聞くべきだよ」
フードを被って顔を隠した。しかし、声は元の声のままだ。
「それで、誰を殺してほしいの? それとも、殺し屋として雇う?」
「なっ」
「今、この国はぐちゃぐちゃだからね。とはいっても、国民には分からない程度に。重臣をおいそれと始末しちゃうわけにいかないし、そもそもそれを行ったら間違いなく信用は失墜する。貴族院の人間なんか、特に殺しづらい。だから、陰で都合の悪いやつを葬る人間がほしい。そういうことでしょ」
王は顔を歪めた。
「お前には、すべて分かっているのか」
「私の耳と鼻は特別製で。って言いたいとこなんだけど、違うんだよね。全部、予想」
王は、口をあんぐりと開けた。
「1か月くらい前から、孤児院を誰かが見張り始めた。スラムの人間を装いきれてないから分かりやすい。今日現れたやつらはみんな、身なりがよかった。それと、式典の映像かなんかで顔を見たことがある。王家の関係者だろうな、って簡単に想像できる」
――観察力が異常よ! 普通そんなの覚えてもないし気づきもしないわ!
「で、王さまの登場。私たちの生業は、強盗とか脅しとか色々だけど……まぁ、一番ほしい力は人殺しの力でしょ? 殺し屋を雇いたいと仮定すれば、消したい人間がいる。それは表向きに消すのが難しい人間……ってなるわけ」
ここまで言えば分かるよねと言われた王は、大きく息を吐いた。
「小娘と侮った私の負けだな」
「まぁ、私を見て思考力も判断力も低下してたけどね。……でもそれが、今のあんたの実力」
――王の思考力を削ぐために、声をそのままにしたの? ねぇ、あんた何歳よ。少なくとも、15歳の少女ができることじゃないわよ。わずかな断片を組み合わせて推測して、それをネタに言質を取って。というかあんなに自信満々に振る舞える人間自体、稀有なのに。
「私も王宮の魑魅魍魎に鍛えられたつもりだったのだが」
「王宮で起こる出来事って、既に以前あったことだったりするじゃん? でも今回は、つまり私は、予想外の出来事。不意打ちに弱いって弱点が判明してよかったね? 王さま」
視点としては、俯瞰になるのか……。ただ、――の後は『親類の女の子』の視点ですね。分かりづらくてごめんなさい。




