248 毒
屋上のベンチで、私はくすくすと笑う。ポケットを探ると、すぐに目当てのものに指が触れた。毒だ。
私でも死ねる、特製のもの。少し時間はかかるけど、確実に死ねるものにした。
「今から逝くね、リィ」
効くまで、確か5分くらい。
私はのんびりとリィのことを思い出すことにした。時間は少ないけど、記憶ならたっぷりある。特にリィとの思い出なんて、どれくらいあるんだろう?
何年一緒にいたんだか。
紅茶の味が悪いとしばらく反応が薄い。読書の邪魔をすると、露骨に不機嫌になる。愛想もないし、笑顔は滅多に浮かべない。言葉の選び方は下手くそで、同い年なのに私のこと子ども扱いで。
でも。
仲間想いで。言うべきことは言えて。誰に対しても平等で。常に冷静で。言いたいことを汲み取ってくれて。
――ただ、側にいてくれて。
私のこと、普通の人間だって言ってくれて。心配してくれて。信用してくれて。
そんな人、リィ以外にはいなかった。いなかったよ。ずっと生きてて、リィ以外は私のことをちゃんと見てくれなかった。
いつだって核の部分からは目を逸らされた。狂ってるところ、見てくれなかった。リィはそれも見てくれて、その上で側にいてくれた。
まぁ、逆もそうだけど。
あ。指先、冷たい。足、感覚ない。
空は、とても綺麗に見える。こんなに青色って綺麗だったかな。死ぬ間際、だからかな。
走馬灯は見えない。見ても仕方ないか。どうせ休養日に似たようなもの、見せられてるし。
――ま、なにも悔いることはないかな。
わたしは、わたしとして……いき、て……いられ……た……か、ら……。




