205 ルイとマシュー
「それ、どんな感じだ」
仏頂面のまま、ルイが話しかけてくる。血を流させる作業が終わって、1時間程度の休憩に入ったときだ。
「それ……。ああ、煉獄か」
どうやら業物と位置付けられるらしいこの剣は、不思議な形をしている。
刀身は炎が揺らめくように波打っている。これで切られると、大量に血を吹き出して業火に焼かれるような苦しみを味わうようだ。
「いいぞ。国籍的に躊躇うところはあるが、ほぼ他人だしな」
見た目が同じなのも、躊躇わない理由の1つか。
「見たところ、かなりの苦痛を与えてそうだな」
「だろうな。引き千切る、って方が近いだろうしな」
俺の淡々とした言い方に、ルイは軽く首を傾げる。
「お前、ホントに躊躇わないんだな。てっきりほとんど殺してないのかと」
「こっちに来ちまった以上、俺はこの国で生きるしかねぇだろ? つーかな、まず俺は戦場以外じゃ生きられねぇんだよ。自己分析くらいできてるさ」
「それは安心していいぞ。精鋭部隊はそういう人間の集まりだ」
「……そういうつもりで集めたのか?」
「詳しいことは知らねぇよ」
感情の混じらない低い声が、不意に推測を含んだ揺らぐ声に変わる。
「……集めたら、こうなったんじゃないか? 俺はそう思ってる。俺たちはよく、2つの言葉を向けられる。『異質』と『優秀』だ。それはたぶん、=で結ばれる言葉だ」
ああ、そうかもしれない。ルイの言葉がすとんと腑に落ちる。
「そうだな……。……でも、一見したら分かんねぇやつも多いよな」
「そういうもんだろ。それを炙り出すのが得意なんだよ、あの人たちは」
僅かに、ルイが微笑んでいた。あの2人は、慕われている。あれほど異常だというのに。『悪魔』と『鬼神』であるのに。
それでも確かに、あいつらには人を惹きつけるなにかがある。特に、異質で優秀な人間を惹きつける、なにかが。
煉獄はフランベルジェという実在の剣をモデルにしています。というかそのまんまです。




