16 初仕事 7 本物ですよ?
『ダメだわ、戻ってる! もうすぐ部屋に護衛が1人来るわ、間に合わない』
イアの声が割り込んだ。
『何秒後?』
不意打ちでどうにかなるか……? 銃を構えて、恐らくの顔の位置まで上げる。
『10秒!』
9、8、7、6、5、4、3、2、1……。
「閣下? ……不審者発見、至急増援を」
嘘だろ! 見切られた……不意打ちが通らなきゃ、僕は弱い……!
いけない、思考を止める前に考えろ。散々、教えられたろ!
指にはめていた指輪を引き抜いて、放り投げる。ここで働いている証拠だったけど、どうせ捨てるしいいよね。
「ッ!?」
護衛は指輪を避けて後ろに跳ぶ。その隙に体勢を立て直す。爆発物だとでも思ったのだろう。それは爆弾じゃない。
「……チッ」
舌打ちをして、護衛は銃を構える。間違いなく、僕の額に向かって。ローブがあるとはいえ、普通のじゃ貫通間違いなし。
でもまぁ、問題ない。
乾いた音がして、銃弾が発射される。そして、
銃弾はローブに弾かれた。
「おい」
パーシーの声に、護衛がそっちに意識を向ける。もちろん僕のことも警戒してるから不意打ちは無理そうだ。
「お望みの本物だ」
放物線を描いて、指輪が飛んでいく。どうせ偽物だろうと笑う護衛は、血と肉を撒き散らして消えた。
「……僕、血を浴びてばかりなんだけど」
「血だけじゃねぇけどな」
「トーナストってすごいんだね。銃弾も、指輪の破片も大丈夫だった」
「まぁ試作品だから、下手すりゃ死んでたけどな」
「開発課程で実験してたんだから、大丈夫だろ?」
『ビショップ、ナイト。キングだ。駐車場の屋根の上で待っている。10秒以内に来い』
うげっとパーシーが言って、全力で駆け出す。僕もすぐに後を追う。
早くしないと殺される……!
ユア・グレイスとは、公爵への呼びかけです。閣下と訳します。
リークスが怒るとなにより怖いらしい。




