15 初仕事 6 チェックメイトなんで、諦めてもらえる?
「大変です! 向こうに、真っ黒なカバンが置いてあって!」
キリアは色仕掛けでいくって言ってた。でも、私は無理。したくないし。というわけで、不審物発見にした。
「なに!? どこだ」
「こっちです!」
顔面蒼白に……と。若干青白く塗っておいてよかった。イアみたいに顔を赤らめたり血の気を失わせたりなんてできないもの。
「こんなところに、か?」
連れ出したのはほとんど人が通らない廊下。確かに、こんなところに仕掛けてもダメだよね。でも大丈夫、安心して?
「不審物なんて、ありませんから」
頬に生温かい感触。あー、嫌だ。どうやったら血を避けられるんだろう。帰ったらリィに教えてもらおう。
「よぉ、ナイト。時間ピッタリだ」
「そりゃよかったよ、ビショップ」
パーシーからローブとインカムを受け取る。よし、演技終了。
「あはは、マジで普通に女子」
「……なんか言った?」
「なんでもなーい」
『グランドマスターよ。ナイト、ビショップはそこから左に行ったところ、東階段を使って3階へ。応接間から入って寝室に行って。殺すのはあんたたちよ。他は脱出経路の確保中』
「ナイトより。注意事項はある?」
『窓を割らないで。警察に通報が入るわ』
「了解」
「ナタリーが割ってなきゃいいな……」
心配そうに言うお母さんもといパーシー。言霊って言葉知らないの?
「ビショップ、言ったらホントのことになるよ」
応接間から寝室へ通じるドアのロックは、既に解除されていた。リサ、手際いいなぁ。
「だ、誰」
誰だ、と言おうとしたのか、誰か、だったのかは分からない。その前に殺しちゃったからね。パーシーが銃で脳天を一撃。枕に血が染み込んでいく。あー、血の匂い。よく嗅ぐよ、この匂い。
「せめて懺悔の時間くらい、いるんだったか?」
「チェックメイトされて、時間があるとでも?」
「そりゃそうだな」
グランドマスターに呼びかけようとした瞬間、先に通信が入った。
『護衛がそっちに向かってるわ! なんでよ、攪乱したのに……!』




