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ただ純粋な、  作者: 横山裕奈
チェス編 第二章
15/262

14 初仕事 5 チェス対局開始

イアータは変装で別人格になれます。心の声まで別人格です。すごい。

「あの……」

「こんな時間に、なんだ」

 私は、明らかに鍛えている男の前にいた。今日は、作戦を決行する日。メイラーフは上手くやれてるかしら?

「お話があって。……お話しさせてもらうのって、ダメ、ですか……?」

 目を潤ませて、頬を上気させる。その上で上目遣い。あんたがそういう女子に弱いって、もう知ってるわよ。

「……少しだけだぞ」

「ありがとうございます!」


 こんな時間(夜中の0時)に食堂を訪れる人間なんて、いない。夜食を作りにキッチンなら行くかもね。だけど、わざわざ食堂で食べるようなことはしないわ。

「それで、話って」

「じ、実は、私」

 血が飛び散って、私の後ろの壁を濡らす。……うまく避けられた。あーよかった、汚れるの嫌だもん。さて、もう演技しなくていいね。

 ナイフを男の服で拭って、集合場所のお風呂場まで歩く。


「1分遅刻だ、クイーン」

「あ、そう? ごめんねキング」

 本名で呼ぶのはどうか、ということでこんな感じになった。うん、まんまチェスだ。王さまが言い出したんだけどね。ガキかあいつは。

 キングはリィ、クイーンは私。ルークはナタリーで、ビショップはパーシー、ナイトはラーフ。リサはチェスが一番強い人間、グランドマスターだ。オペレーターだから。

「ローブと、インカムだ」

「わー、小型のやつ。さすが王さま、いいのくれる」

 耳にはめるだけで会話ができる、優れものだ。大きさは人差し指よりちょっと短いくらい。


『あんたが最後ね、クイーン』

「ごめんねーグランドマスター。状況は」

『順調ね。……2人は中央階段を使って3階へ。途中で監視カメラがあるわ。上は向かないで、でも下にもあるから気をつけて』

「だいぶ難しいこと言うね」

 やれやれと肩をすくめつつ、3階へ駆け上がる。私とリィだもん、大丈夫に決まってる。

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