14 初仕事 5 チェス対局開始
イアータは変装で別人格になれます。心の声まで別人格です。すごい。
「あの……」
「こんな時間に、なんだ」
私は、明らかに鍛えている男の前にいた。今日は、作戦を決行する日。メイは上手くやれてるかしら?
「お話があって。……お話しさせてもらうのって、ダメ、ですか……?」
目を潤ませて、頬を上気させる。その上で上目遣い。あんたがそういう女子に弱いって、もう知ってるわよ。
「……少しだけだぞ」
「ありがとうございます!」
こんな時間に食堂を訪れる人間なんて、いない。夜食を作りにキッチンなら行くかもね。だけど、わざわざ食堂で食べるようなことはしないわ。
「それで、話って」
「じ、実は、私」
血が飛び散って、私の後ろの壁を濡らす。……うまく避けられた。あーよかった、汚れるの嫌だもん。さて、もう演技しなくていいね。
ナイフを男の服で拭って、集合場所のお風呂場まで歩く。
「1分遅刻だ、クイーン」
「あ、そう? ごめんねキング」
本名で呼ぶのはどうか、ということでこんな感じになった。うん、まんまチェスだ。王さまが言い出したんだけどね。ガキかあいつは。
キングはリィ、クイーンは私。ルークはナタリーで、ビショップはパーシー、ナイトはラーフ。リサはチェスが一番強い人間、グランドマスターだ。オペレーターだから。
「ローブと、インカムだ」
「わー、小型のやつ。さすが王さま、いいのくれる」
耳にはめるだけで会話ができる、優れものだ。大きさは人差し指よりちょっと短いくらい。
『あんたが最後ね、クイーン』
「ごめんねーグランドマスター。状況は」
『順調ね。……2人は中央階段を使って3階へ。途中で監視カメラがあるわ。上は向かないで、でも下にもあるから気をつけて』
「だいぶ難しいこと言うね」
やれやれと肩をすくめつつ、3階へ駆け上がる。私とリィだもん、大丈夫に決まってる。




