11 初仕事 2 人は見た目が120パーセント
うつむくたびに視界に入るスカート。庶民らしい質素なもの、ただしその中でも一番いいもの。
ああ……今すぐ脱ぎたい。カツラも外したい。メイクも落としたい。
ラーフに戻りたいッ!
……こんなこと思っちゃダメって散々言われたっけ。自分に馴染ませろ、心の中でもなりきれ。
お陰様で、一人称が僕から私だよ。
「行くわよ、メイ」
イア、改めキリアが強気に微笑む。声は、芯の通ったソプラノ。
キリア・チャーストンは私、メイ・チャーストンの姉。母は最近ガンで死亡。クロスタウンの家を売り払っていて、今は昔働いた酒場に住んでいる。掃除が一番得意。
心の中で復習しながら、住んでいる酒場に歩いていく。
「こんにちは」
そう言ったのは、酒場の店主。この辺り一帯の酒場を牛耳っている。
そして、イアの操り人形。彼以外にも2人、合計3人いるらしい。それぞれ商人の偉い人。
今は貴族の使用人に手を伸ばしているらしい。そのうちイアが裏社会を牛耳りそう……。
しばらく待つと、身なりのいい紳士が入ってきた。
「執事のカイルだ。旦那様と家令は忙しいので、私が来た。それで、お前たちか」
私とキリアは、しっかりと礼をする。庶民らしく、あまり優雅にしちゃダメ……。
顔を上げると、カイルはなにかメモ帳に書いている。
ペンの動きから見て……「少しウェーブした胸までの金髪、アーモンド色の瞳。かなりの美女」だね。旦那様への報告用?
「名前は」
「私はキリア・チャーストンと申します。こちらは妹のメイ・チャーストン」
紹介に合わせて、もう一度礼をする。
「この酒場で半年ほど前から働いております」
酒場の店主が口を開く。
「掃除係でして。母親がガンで死んで、家を売り払ったらしいので住まわせていたんです。なら求人が出てましたので、はい」
ふむ、と少しの間考え込んで、カイルはあっさりと告げる。
「合格だ。明後日から来い」
ありがとうございます、と私たちは声をそろえる。こんな見た目じゃなきゃ、ダメだっただろうな。
家令とは、家の家事一般を総括する使用人のトップです。
相当に裕福な家庭じゃないと雇えませんでした。イメージ的には、執事が一番近いです。
本来の執事は、酒類や銀食器の管理がお仕事です。




