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ただ純粋な、  作者: 横山裕奈
チェス編 第二章
12/262

11 初仕事 2 人は見た目が120パーセント

 うつむくたびに視界に入るスカート。庶民らしい質素なもの、ただしその中でも一番いいもの。

 ああ……今すぐ脱ぎたい。カツラも外したい。メイクも落としたい。

 ラーフに戻りたいッ!


 ……こんなこと思っちゃダメって散々言われたっけ。自分に馴染ませろ、心の中でもなりきれ。

 お陰様で、一人称が僕から私だよ。


「行くわよ、メイ」

 イア、改めキリアが強気に微笑む。声は、芯の通ったソプラノ。

 キリア・チャーストンは私、メイ・チャーストンの姉。母は最近ガンで死亡。クロスタウンの家を売り払っていて、今は昔働いた酒場に住んでいる。掃除が一番得意。

 心の中で復習しながら、住んでいる酒場に歩いていく。


「こんにちは」

 そう言ったのは、酒場の店主。この辺り一帯の酒場を牛耳っている。

 そして、イアの操り人形。彼以外にも2人、合計3人いるらしい。それぞれ商人の偉い人。

 今は貴族の使用人に手を伸ばしているらしい。そのうちイアが裏社会を牛耳りそう……。


 しばらく待つと、身なりのいい紳士が入ってきた。

執事バトラーのカイルだ。旦那様(セントラ公爵)家令ハウススチュワードは忙しいので、私が来た。それで、お前たちか」

 私とキリアは、しっかりと礼をする。庶民らしく、あまり優雅にしちゃダメ……。

 顔を上げると、カイルはなにかメモ帳に書いている。

 ペンの動きから見て……「少しウェーブした胸までの金髪、アーモンド色の瞳。かなりの美女」だね。旦那様への報告用?


「名前は」

「私はキリア・チャーストンと申します。こちらは妹のメイ・チャーストン」

 紹介に合わせて、もう一度礼をする。

「この酒場で半年ほど前から働いております」

 酒場の店主(操り人形)が口を開く。

「掃除係でして。母親がガンで死んで、家を売り払ったらしいので住まわせていたんです。なら求人が出てましたので、はい」


 ふむ、と少しの間考え込んで、カイルはあっさりと告げる。

「合格だ。明後日から来い」

 ありがとうございます、と私たちは声をそろえる。こんな見た目じゃなきゃ、ダメだっただろうな。

家令ハウススチュワードとは、家の家事一般を総括する使用人のトップです。

相当に裕福な家庭じゃないと雇えませんでした。イメージ的には、執事が一番近いです。

本来の執事は、酒類や銀食器の管理がお仕事です。

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