2.反撃の狼煙
逃げるのでは無く、戦うことを決意したレノア。しかし、今のレノアには、武器が無い、という大きな問題点があった・・・。
硬い鱗に覆われたドラゴンを倒すには、それ相応の武器が必要だが、『銃砲刀剣類所持等取締法』という法律が置かれている日本の住民であるレノアには、そんな武器は持っていなかった。持った事すら無い。武器が無い状態での戦闘は、勝機が微塵も無い事は明白であった。
その事を踏まえた上で、レノアは勝負を挑んだのだった。
レノアは、戦うという結論に至った根源である、『ある物』を見た。
それは・・・
暗い洞窟の片隅で光る剣だった。
先程の攻防の最中に、一瞬何か光っている物を発見したレノアは、再度確認した後、光っている物が剣だと確信していた。
それを拾い上げ、ドラゴンと正対する。剣を拾う為に走ったが、ドラゴンは反応を見せなかった。その為、容易に剣を拾うことが出来たレノアは、少しではあるが、冷静に考えられるようになった。
そして・・・
「ツ!!」
ほぼ同時に地面を蹴った。モンスターとの距離がどんどん縮まり、筋肉の細部や目線、奴の全てが見えるようになった。
「グァア!」
控えめな声と共に爪を横に振ってきたそれを、レノアは後ろにステップをして躱した。すると、モンスターは空振った方の手首を返して、往復で切り付ける。
レノアは、今までに無かった連続攻撃に動揺したが、そんな事で負けてはいられない。
それをしゃがんで躱し、腕を伸ばしてがら空きになっている腹部に反撃をお見舞いする。
ガンッ!!
と、勢いよく切り付けた剣が、モンスターの体を覆う鱗に半ば埋まっている状態で停止した。凄まじい衝撃が手から、腕、体全体へと伝わり、苦渋の表情を浮かべるレノア。
だが、それだけでは終わらない。
(終わらせない!)
「ぐっ・・う・ぉぉおお!」
ありったけの力を込めて、剣を振りぬいた。
ズバッ!!
『ウォオ!?・・・グァアアアア!』
切れた腹部からは、血が噴き出し、初めての反撃に動揺と怒りを顔に出したモンスターは、目の色を変え、狂ったように吠えた。そして、レノアに向かって疾走した。
それを見たレノアは、即座に態勢を整える。
が、次の瞬間、
モンスターの姿が見えなくなった。
(・・・消えた・・・?)
レノアがそう思った矢先、
「ぐはっ!」
レノアは突如姿を現した、モンスターの大きな拳を正面から食らい、軽い身体が宙に浮いた。
(痛い・・痛いけど、それよりも・・・どうなってるんだ!?)
レノアに混乱と動揺、目眩と痛みが一気に押し寄せる。だがモンスターは、容赦なく追撃を仕掛けてくる。
その顔は、怒りによる殺気に満ち溢れ、息があら荒く、口からは白い熱気が溢れ、眉間には深いしわ皺が寄せられている。
元々重かった攻撃がより一層重くなり、遅かった攻撃が速くなった。
(な、何?この変化・・・)
冷静に考える時間を与えられないレノアは、目眩と痛みを堪えつつ、次々に襲ってくる拳を回避していた。
(このままだと、殺られる!)
そう悟ったレノアは、本能に従い反撃するが、剣は空気を切るばかりで、奴の体には全く当たらない。
(・・・さっきと動きが全然違う!)
改めて感じた変化に、驚愕の色を隠せないレノアは、焦り始めていた。
2度目の死を感じて、悪寒が走る。汗が身体中から溢れ出して、手足がふる震えた。
(怖い、死が怖い。でも・・・!)
「うぉおお!!」
恐怖を打ち消し、襲ってくる拳に正面で
構え、刃を向ける。
体重を乗せられた重い拳は、その鋭い刃に
触れた瞬間、真っ二つに切断され、途中で停止した。
『グ・・・ォオオ・・!』
痛みに耐えきれず、体を反らせ、あと後ずさるモンスターにレノアが追撃する。
右足を大きく踏み込み、上段に構えたままジャンプする。
縦長の弧を描くように飛翔し、その頂点に達した瞬間、全体重を剣の切っ先に乗せ、モンスターの頭目掛けて渾身の一撃を放った。
「食らぇええ!!」
『グ・・ォオオオオオオ・・・』
頭に致命傷を負わされ、モンスターは倒れた。そして、その体は灰と化し、風によってどこかに消えていった...。