15.遠征準備
「あ!これ良くない?」
「ほんとだー!」
「そうですね!」
キャッキャウフフと騒ぐ、シーナ、アリス、シルフィの女性陣。一方の男子は、3人それぞれ別行動をしていた。
エーデンは剣を、ルカは弓を、そしてレノアは防具を見ていた。
レノア達が居るここは、街中にある、とある武器屋だった。何故かここに居るかと言うと、それは2日前・・・。
「はーい!ちゅーもーく!」
校内では珍しい、女性の先生が、植物学の授業の後にみんなに大きな声で呼びかけた。
勿論みんな先生の方を向いて、黙っている。
それは、良い子だからと言いたいところだが、今回は違った。みんな薄々気付いていたのだ。レノアただ一人を除いて・・・。
「えー、皆さん気付いているかも知れませんが、三日後に遠征を行います」
「「「やったー!」」」
窓が割れるかと思う程の大声が、教室中に響いた。
「静かに!喜ぶのは良いですが、これはあくまで授業一環です。あまりはしゃぎ過ぎないように。良いですね?」
「「「うーっす」」」「「「はい!」」」
男女別々の返事を聞き、先生は教室を出た。
そして僕は、直ぐにエーデンに尋ねる。
「・・・遠征って何?」
「お前、マジで言ってんのか?」
「・・・うん」
エーデンから聞いた話によると、遠征では、学校の生徒全員が一泊二日で野営すると言うものだった。
(そんなに喜ぶ程の事かなぁ)
確かに、クラスのみんなと一緒に寝るのは楽しいと思うけど、そこまで喜ぶ程の事でも無いと思う。
そんな僕を差し置いて、みんなは歓喜の声あげている。
「お前、遠征に要るもん持ってるか?」
「えっとー、何が要るの?」
「お前、武器は持ってるよな?」
「学校のだけどね」
「だよな。じゃあ、あとは防具とかだな。テントとか食料とかは学校が用意してくれるからな」
「・・・持ってないや」
「やっぱか。まあいいさ。明日はちょうど休みだし、買いに行こうぜ」
「ほんと?ありがと!」
・・・と言う事で、今に至る。
二人が行くなら、と言ってルカが。
レノアが行くなら、と言ってアリスが。
アリスが行くなら、と言ってシーナとシルフィが付いて来た。
人数が多い方が盛り上がるし、楽しいから良いかな?と思ったが、想像以上の騒がしさだった。シーナは普段からだが、アリスとシルフィは、普段は比較的控え目な方の筈だ。だが、シーナのテンションが移ったのか、二人とも普段よりもハイテンションだった。
彼女達は気付いていないのだろうか。先程から、店主の目が刻一刻と鋭くなっている事に・・。レジ的な場所に居る店主は、今にも青筋を立て激昂しそうだった。
それに気付いた僕達男子は、女子にその旨を伝え、店を後にした。
「そんなにあたし達うるさかったぁー?」
「充分うるさかったぜ」
「えー!?アレでうるさいとか、あの店主の心は狭いねぇ〜」
「そーだそーだ!」
「そうです!」
シーナの言葉に、アリスとシルフィが揃って頷く。
「駄目だこりゃ。みんなテンションおかしくなってやがる・・・」
「俺は、シルフィがテンション高いのも珍しいから、目に焼き付けて置こうかな」
「「た、確かに・・・!」」
僕とエーデンは、ルカのその言葉に共感した。多分、この場にクラス全員がいれば、誰もがそう共感してくれるだろう。それ程までに、普段のシルフィは静かなのだ。
男子三人はその後、シルフィは凝視し続けた結果、アリスの平手で叩かれるという結末となった・・・。
防具は結局、自分では良し悪しが分からないので、全てエーデンに任せた。
少々値段が高くなってしまったが、命を守ってくれる性能が高くなるのだから、安いものだ。それに、日本円もまだ残っているし。
買い物に行った翌日には、明日となった遠征に向けての授業が行われた。
遠征場所の薬草や、そこに現れる怪物、当日の日程についての確認だった。
それをみんなは真剣に聞き、覚えようとしていた。いくら現役ハンターである先生が引率していても、命を落としてしまうかも知れないのだから、当たり前だ。
僕も命は捨てたく無いので、集中して聞く。
今回の遠征は、一泊二日。場所は、ここから『徒歩一日』の森林だそうだ。そう、『徒歩一日』だ。
徒歩一日を往復して、その間に一泊する。つまり、遠征の目的である訓練の内容は、一泊二日だが、遠征自体は三泊四日だった。
これを聞いて居なかったら、荷物が足りずに困っただろう。集中して聞いていて良かった。
あとは、当日の班の発表と、諸注意だった。
その後、一通り説明を受けた僕達は、班ごとに別れて、それぞれの役割について決定する時間となった。
「俺は何でもいいぜ」
「あたしも〜!」
「私は料理を担当するよ」
「・・・何でも良いです」
「俺も何でもいいよ」
僕の班は、運が良く、いつものメンバーとなった。ただ、運が悪い事もあった。それは、アリス以外は全員、役割は何でもいいと言う事だ。
『何でも』は、何かを決める際に助かる言葉だが、六人中五人となれば、話は別だ。
一人だけなら、残りをして貰えば良いが、五人ともなると、面倒以外の何物でも無い。
「じゃあ、僕は荷物で良いよ」
ここでずっと何でも良いと言っていたら、一日あっても決まらない事を知っていた僕は、自ら一番面倒な役割である、『荷物持ち』をする事にした。これで、多少は決めやすくなった筈だ。
そう思って居ると、
「じゃあ、あたしこれ〜!」
「これにします」
「なら俺はこれでいいぜ」
「俺はこれだね」
「・・・・・」
あっと言う間に決まってしまった。
僕が荷物持ちとなった直後に・・・。
みんな、平然を装っている様だったが、少し顔を引きつらせているのが分かった。
みんな、荷物持ちをしたく無かったが、だからと言って、誰かに押し付けるのも嫌で、何でも、と言っていたのだろう。
しかし、僕が荷物持ちとなり、心置きなく自分の主張が出来る様になったので、直ぐに決まったと言う事だ。
僕だって、荷物持ちは嫌だが、班の中に嫌な空気が漂うのよりは断然ましだった。
「ありがとな、レノ」
授業が終わった後、エーデンがそれとなく言ってくれた。エーデンは気付いていたらしい。
「大丈夫だよ!荷物持ちやってみたかったから!」
そう言って笑う。これが後に自分の首を絞める事になるとは知る由も無かった・・・。