1.旅の始まり
「はぁはぁはぁ・・・!」
ここはどこだろうか。どこまで続くのだろうか。
自問自答を繰り返すが、その答えにたどり着けないまま、レノアはひたすら歩いていた。
もう何時間歩いたのか分からない。スマホの画面を見れば、今の時間は分かるが、いつからここに居るのかが分からないため、逆算が出来ないのだ。
(何で来たのかな・・・はぁ・・)
自分の軽率な行動に後悔し、項垂れる。これも何度もした事だった。
レノアがメガティブ思考のループに嵌っていたその時、
『・・・ザッ』
(・・・!?)
下を向いていたレノアには、音のみが聞こえた。
音の正体を確かめる為に前を見てみるが、そこには何も無かった。先程と何も変わらず、薄暗い道が続くのみだ。
『・・・フゥゥゥ』
(・・・んん!?・・・ええぇ!?)
今まで聞いた事のない荒い声が突如背中から生暖かい風と共に降って来た。前を見ても気付かない訳だ。音の正体は背後にいたのだから。
しかし、問題があった。それは、この声が人間のものとはかけ離れている事だった。
どうか人でありますように、と希望を抱き、恐る恐る、ゆっくりと振り向く。
そこには・・・
レノアの身長を遥かに上回る怪物がいた。その姿は、ゲームに登場する、ドラゴンそのものだ。
鋭い牙を覗かせている口からは、白い息が漏れ、鋭く煌る眼には、怯えるレノアの姿が映っていた。
『グアアァァ!』
「ひっ・・・うわっ」
目が合った為か、ドラゴンは叫び、その大きな口を開けた。巨大な牙の全貌が露わになり、より一層恐怖を煽られる。
それを見たレノアは、驚きと恐怖で顔を引き攣らせ、その場に倒れ込んだ。
『グルウゥゥ』
「・・あ・・・・・あ」
ドラゴンは、怖すぎて舌が回らないレノアを、値踏みをする様に見ていた。
ドラゴンに攻撃の意思が無いと感じたレノアは、安心していた。このまま過ぎ去って行くと思ったのである。
しかし、ドラゴンがそんな行動を取る訳が無かった。再び口を開け息を吸い込んだ。またあの大きな咆哮かと思ったレノアだが、今度は違った。息を吸い込むと同時に、ドラゴンの口に緋色の塊が凝縮され始めたのだ。
(え!?これって火炎放射!? ゲームのあれ!?)
『グアアアァァ!』
今日一番の咆哮と共に放たれたそれは、レノアの向かって一直線に飛翔した。それは、火炎放射と言うよりは、火炎弾と言う方が相応しい物だった。
洞窟の闇を照らす炎の色は、美しく、神聖物に見える。しかし、今のレノアには、死をもたらす最恐の色であり、物であった。
(このままじゃダメだ!)
本能的にそう判断したレノアは、倒れたままの状態で身体を回転させ、横に逃げた。先程までレノアがいた場所には、火炎弾が当たり、ジュウゥゥ、と音を立てている。当たれば、熱いだけでは済まなさそうだ。
立ち上がったレノアは、ドラゴンに背を向け走り出した。
勿論、戦う為ではなく逃げる為だ。
しかし、そんなレノアを見ても、ドラゴンは追いかけず、再び口を開けてレノアへ向けた。その顔は、逃げるレノアを嘲笑うかの様に目を細めている。
『グアアァァ!』
再度放たれた弾は、レノアの足元へ着弾する。その衝撃で飛ばされたレノアは、地面に顔から突っ込む形で転んでしまった。
身動きが取れないレノアに、ドラゴンはゆっくりと接近する。
そして、距離が目と鼻の先となった直後、
『ぶんっ』
「ひっ・・・!」
ドラゴンの尾が目にも留まらぬ速さで動き、レノアの顔を掠めた。
傷口から出た血が、頬を伝って顎から落ちる。まるで涙の様だ。
痛いという感覚があるだけで、何が起きたのか把握出来ていないレノアは、そのままの状態で呆けていた。
ドラゴンは、更に追撃を仕掛ける。しかし、レノアも負けてはいなかった。地面に座った状態から素早く起き上がり、それを避ける。勢い良く振った尾を避けられた為、ドラゴンはそのまま尾を振り抜き、レノアに背を向けた。レノアはその隙を見逃さず、一旦距離を取る。
そう、『一旦距離を取る』だ。『逃げる』では無い。
逃げるのは無理だと悟ったレノアは、戦う事を決意したのだ。あのドラゴンに立ち向かう事を。
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