おまけ「レオナの一日」
おまけ 【 レオナの一日 】
―某日 某所
あれ?この始まり方、前にもあったような・・・。まあ、いいか。
「おいレオナ。今から浩史坊ちゃんを迎えにいくから、お前もついてこい。」
『浩史』とは、レオナがお世話になっている堅気のおやっさん(レオナはじーさんと呼んでいる)の孫のことである。
浩史の父親は数年前に他界したらしく、母親は今病気で入院していると話だ。
おやっさんが見舞いに行っているため、おやっさんも元でレオナ同様にお世話になっている三十代後半くらいの男と、浩史を迎えに行くことになったレオナ。
「それにしても、レオナはいつもそんな寝てて、夜よく寝られるよな。」
男と並んで歩きながら問われたその質問を、欠伸をして聞く。
「そりゃあ寝られますよ。高崎さんだって寝てるじゃないっすか。」
三十代後半の男は『高崎』というらしく、昼間も夜も関係なく寝ているレオナと自分を同じ天秤に掛けられて驚いている。
「まあ、やるときやってくれるから文句は無ぇんだけどな。」
高崎は隣で眠たそうにしているレオナを見てため息をついていると、浩史の通う小学校に到着してしまった。
小学校の前で、堂々と昼間っから上下黒スーツの怪しげな男がいるとなると、警察に通報されてしまうかもしれないため、いつもラフな格好をしているレオナを一緒につれてきたのだ。
授業の終わりなのか、チャイムがなると一斉に子供たちが校門から出てくる。
高崎は陰に隠れる様に身を潜め、レオナはボーッと自分の横を駆け抜けていく子供たちの中から、その人物を見つける。
「あ!レオナ!」
レオナを見たとたん、他の子を抜いて目の前まで走ってきた子供。
「レオナ!今日も遊んでくれんだろ?」
「別にいいけど、宿題してからな。」
宿題情報は欠かせない。
浩史は以前から、宿題をせずに遅くまで遊んでいて、学校側から注意を受けることが度々あったらしく、何があっても宿題はさせようという、暗黙のルールが作られている。
レオナは勉強も出来るという事で、浩史の家庭教師としても接していた。
それに、喧嘩も強い為、大勢に襲われた時や大人など自分よりも力のあるものに襲われた時のための術くらいを教わっている。
やりすぎると、今の親は過剰に反応してヒステリーを起こしかねないからだ。
「ちぇ。そんなに俺に意地悪してると、じーちゃんに追い出してもらうぞ!」
そんな我儘を言う浩史の首根っこを掴むと、陰に隠れていた高崎に渡して、欠伸をしながら家路に向かう。
「坊ちゃん、それは無理ですよ。おやっさんはレオナの事、何があっても手放さないと言っていました。まあ、結婚とかになれば話は別だと言っていましたが。」
同じように、浩史の首根っこを掴みながら目線を合わせて諭す。
レオナは興味無さそうに、どんどん前を歩いてしまっている。髪の毛をワシワシとかきながら道を歩けば、小学生から大学生、さらには社会人の女性に声をかけられている。
高崎は羨ましそうに見つめているが、そんな女たちに見向きもせずに、レオナは一人で先に行ってしまう。
浩史は高崎から逃げる様に地面に落ち、そのままゲームセンター方向、レオナとは反対方向へと走り出した。
「あっ!坊ちゃ・・・!」
高崎の叫び声を背中に聞いたレオナが、首を少しだけ後ろに動かす。
「レオナ!坊ちゃんを追っ・・・。」
レオナのレの時点で、すでに高崎の脇を通り過ぎていく風があり、それが浩史を追いかけるレオナだと気付くのに、数秒かかった。
高崎がくるりと浩史が逃げ出した方向を見れば、レオナに捕まって暴れている浩史がいた。
「てめぇ・・・。俺に必要以上の手間と時間と労力をかけさせんじゃねぇよ。」
子供は動きがすばしっこい。そのため、子供を追いかけるのには大分体力がいる。
レオナ以外の男たちは、皆三十を過ぎていて体力が無く、あったとしても浩史を瞬時に捕まえるなど、到底出来ない。
レオナは仕方なく自分で浩史を捕まえたまま、浩史のじーさんの家まで帰ることにした。
途中で、ガチャポンが並ぶ店を見つけた。
レオナと高崎は素通りしようとしたのだが、レオナに捕まっている浩史がいきなり手足をバタバタさせ始める。
「レオナ!あれ!あのガチャポンやりたい!」
目を輝かせながらレオナに訴える浩史に、高崎が首を横に振って拒否する。
「ダメです。」
「一回だけ!一生のお願い!」
「ついこの間も『一生のお願い』といって、オモチャを買ってもらったでしょう?」
何が何でもやるんだと、レオナの魔の手から逃げだそうと必死にもがいてはみるものの、がっちりと掴まれていて、逃げ出せる気配が全くない。
何のガチャポンなのかと思い、ちらっと見てみると、『世界の武器』と書かれた紙が貼られている。
「・・・こんなのがやりたいのか?」
ガチャポンに近づきながら、レオナはどういう物があるのかを見てみる。
そこには、拳銃や日本刀、鉄扇や鎌から弓矢、ヌンチャクと秘密武器の写真が小さく掲載されている。
―拳銃なら、ナマで見た事あっけど・・・。
決して言えない事実を胸に顰めながら、レオナは浩史を見る。
「こん中の何がいいんだ?」
レオナの質問に、さきほどよりも更に目を輝かせている浩史は、てきぱきと答えていく。
「日本刀!」
「なんで。」
「日本人の魂だから!」
「お前、歳幾つだよ・・・。」
「七歳!」
一番気になるのは、どう考えても秘密武器だと思うのだが、浩史は秘密武器を読めないからか、全く触れることなく即答してきた。
一回百円だったガチャポンも、今の時代じゃ二百円・・・。前なら二回出来なのにな、なんて事を考えている間も、浩史はガチャポンから目を離すこと無く見つめていた。
「・・・一回だけな。」
「レオナ!坊ちゃんをあまり甘やかすなと・・・!」
「いーだろ、一回くらい。今の小学生は、俺達の時代よりも色々と大変でストレス溜まんだよ。このまま育って、捻くれた人間とか、年上を見下すような人間とか、人を簡単に殺す人間になっても困んだろ?」
レオナの言葉に反応して、浩史の方を見て子犬みたいに尻尾を振っている幻覚に襲われた犬派の高崎は、渋々承諾した。
レオナが浩史を下ろし、高崎が財布を出して二百円を浩史に渡すと、お金を投入口に入れて、勢いよく回す。
出てきたプラスチックの丸いものの蓋を開けようとするが、開けられないようだ。
「レオナ!コレ!」
「・・・それが人にものを頼む態度か?」
小学生に対して言う台詞ではないのだが、浩史の教育を任されている身であるレオナ達は、小さな事でも口を酸っぱくして言うのだ。
「レオナさん!開けてください!」
手に入れたガチャポンをレオナに差し出し、腰を九十度に曲げながら頭を下げてお願いをする浩史。
レオナはため息をついて、いとも簡単に蓋を開けようとするが、そこで手を止める。
「家に帰ってからだ。」
「えー!!なんで!」
自分の手の中にあるプラスチックのガチャポンをポケットにしまうと、また浩史の首根っこを掴んで歩き出したレオナ。
高崎はその後をついていくだけ。
家について浩史を下ろすと、一目散に居間へと走っていく。
そこには、お見舞いから帰ってきていたおやっさんが帰ってきていて、浩史が突然ダイブしたにも関わらず、抱きとめてくれた。
「おかえり、浩史。」
「ただいま、じっちゃん!」
レオナと高崎も居間に向かい、レオナはポケットに入れてあったガチャポンを、開けてから浩史に渡す。
浩史はソレを受け取りながら、おやっさんの前でレオナに文句を言う。
「レオナ意地悪だよ!なんで家に帰ってからなんだよ!」
「あ?お前、あそこで開けて日本刀じゃなかったら、どうせ『もう一回だけ!一生のお願い!』とか言って駄々こねるだろーが。」
「しねぇよ!ガキ扱いすんな!」
「充分ガキだろ。」
そんな二人のやりとりを見ながら微笑んでいるおやっさんと高崎。
レオナはやってらんないという顔をして、居間の隅に腰をかけて寝入る。足は伸ばした状態で軽く組み、腕組をして頭は垂れる様にして、ものの数秒で夢の中。
「あ~あ・・・。またこの変な扇子だ・・・。日本刀本当にあるのかな?」
鉄扇を当てた浩史だが、もうすでに数個持っている為興味は無かった。
「坊ちゃん、宿題をしてくださいね。また教師から電話がかかってきてしまいますよ。」
「ハハハ。あんときゃぁ、大変だったな。」
ランドセルから宿題である算数のプリントを机に出して、鉛筆を持ったはいいが、算数だ大の苦手である浩史は、すぐにレオナに助けを求める。
「レオナー起きてよー。宿題手伝ってよー。」
寝ているレオナの肩を激しく揺さぶりながら、本日二度目のお願いをする。
寝ている間も神経を張り巡らせ、いつ如何なる攻撃に襲われても良いようにと整えられた体質は、少しの揺さぶりでも起きてしまう。
「・・・なんだ。」
顔をあげて片目をほっそりと開けた状態で浩史を見ると、目の前に算数のプリントを突き付けられる。
「宿題。手伝ってくれんだろ?その後は、俺と遊ぶって約束したじゃん!」
「あのなぁ、考えもしねぇで人任せにしてんじゃねぇよ。自分でやってみろ。どうしても分かんねぇとこだけ、『やり方』教えてやっから。」
「こーたーえー。」
「ダメだ。お前、計算式書かねぇから算数出来ねえんだよ。面倒なのは分かるが、後で説教喰らう方が面倒だろ。ほら、さっさとやれ。四時半までに終わらねえと、遊べねえぞ。」
そう言って、また目を瞑ってしまった。
浩史は仕方なく机にプリントを置いて正座をし、並ぶ数字と睨めっこを続ける。うーとかあーとか、必死になってはいるが、何分経っても一問も解けていない悲惨さだった。
―午後四時半
レオナがむくりと起きると、未だ頭を抱えている浩史の姿があった。
後ろからプリントを覗き込むと、やっと半分解いたくらいだった。
ため息をついて、浩史の隣に胡坐をかいて腰を下ろす。
「・・・タイムオーバーだ。今日はもう遊べねえぞ。で、どこが分かんねえんだ?」
「・・・全部。」
遊べない事がショックで落ち込んでいる浩史の頭の上にポンッと手を乗せて、『ヒント』を与えながら進めていく。
「おやっさん・・・。レオナの野郎と坊ちゃん、兄弟みたいですね。」
「ああ、そうだな。孫が増えた気分だ。」
え?レオナの一日とか言っておきながら、午後のヒトトキでした。




