第五話 起死回生 (後編)
ズズン、という音とともに、戦車の破片が飛び散る。
「うわ、怖ッ。」
目を丸くして、ポカンとしているのは、セン・ハザ―ト。あることから、軍人二人についていくことになった、黒髪の青年である。
「よし、今のうちに行くぞ。」
冷静に指示を出すのは、ジェイ・ブラウド。二人の軍人の一人で、高所恐怖症の、金髪のがっしりした男だ。
「りょーかい。何か弱いねー。」
何気に語尾を伸ばす癖のあるのは、レイス・ヴァーナード。二人の軍人の一人で、目も体も細めの男性である。
3034年7月19日 西ヘリア山脈(もといた町から4キロ。)上空 敵軍飛行船内部3階 船長室
「ようこそ、小さな蜂達。死にに来たの、それとも僕を殺しニ?」
船長室に入ると、なんかムカつくしゃべり方の片目が真っ白で左手に包帯巻いた男性が、椅子に腰かけていた。
「ああ、アクラエル連邦無許可上空飛行により、この飛行船を破壊せよと命令があった。つまり、貴様を制圧しろっつーこった。」
「そうかイ、じゃ、相手をしないと失礼だよネ。」
そういいながら、男は立ちあがる。
「僕はエゴルト・バルチネス。ま、名前言っても無駄だね。どうせ君たち、ここで死ぬんだから!」
奴が叫んだ瞬間、無駄に広い船長室が炎に囲まれた。
「チッ、魔術師か。これまた厄介なな野郎だな。」
魔術師 説明するまでもないが、、魔法を使うことができる。発動方法はさまざまで、『魔法陣』をどこかに持っているか、『魔法の杖』を持っていたりする。
もちろん
「クソッ、やっぱり銃撃効いてねー!」
そう、魔法には、大きく分けて4種類ある。回復、攻撃、防御、味方援護だ。そして、それらを使うのも無制限ではない。少しずつだが、使用者の体力を削っていく。さらに、大規模な魔法ほど、体力を多く消費する。
「構わん!どんどん撃てぇ!」
「あー、鼓膜おかしくなりそうー。」
レイスさんの言うことも分からなくもない。なにしろ、三人分の銃声と怒声、爆発音が鳴り響いてるんだからなぁ。
「全員目を閉じろ!」
言われたとうりに目を閉じる。カッと音がして、目を閉じても分かるくらいの光が炸裂した。
「弾の消費は抑えろ、近接で行く。」
ジェイさんは、刃渡り10センチくらいあるジャックナイフを取り出して、BCC-97の銃口の下に付けた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
そのまま突っ込んでいった。あ、そういえば、ジェイさん白兵戦好きなんだっけ。もちろん敵のエゴルトとかいう奴も、反撃を始めた。
「………ッ!」
敵のエゴルトが呪文を唱えると、重そうな鉄球が飛んできた。ジェイさんは、それを避けてエゴルトにナイフを突き刺した。しかし、
「ガ…なん…。」
そいつの下にトラップが仕掛けてあった。それから出てきた黒い針が、ジェイさんの腹部を刺し、貫いた。
「チィ、ジェイを助けるぞ、セン…セン?」
そこで、俺の異変に気つ゛いた。
「ふう、お前さー、何か勘違いしてね?」
「ん?何がだイ?」
「とぼけるなって、誰も仕返ししろって言ってないよ?」
「…僕に勝てるとでも?」
「やってみるか?」
----レイス---------------------------------------------------
センは、本来黒のはずの目が、赤くなっていた。さらに強力な殺気を放っている。
「じゃあ、フェイズ2といきますか。」
ああ、こいつ…まさか『速度増大』か?
「うわっと、あぶねー。」
魔法使いと一般人(?)の戦いはすさまじく、すでに飛行船の5分の1が消し飛び、当然ながらどんどん高度が落ちていた。
それは、とても素人の戦い方ではなかった。普通の大人であれば、『速度増大』により、多少の攻撃範囲が広がる。しかし、彼はなぜ、一発も当たっていないのだろうか。まさか、
「まさか…煉獄の…。」
いや、奴らは『死神が血と生贄を欲した期間』で滅んだはず。これは、まずいな。
「ハア…、ハア…、お前…なかなかやるナ。ここまでやりあえる奴は初めてだヨ。」
「…じゃあ、その記憶と一緒にチリに変えてやろう。」
センは、口元をゆがめると、落ちている折れた鉄骨をつかんでエゴルトに向かって投げた。ここで、エゴルトにとって悲劇が訪れた。それは、
「な…、体が動かない、しまっタ!」
そう、さっき言ったように、魔法は体力を消費する。つまり、使いすぎると動けなくなるというわけだ。」
「魔法使いのくせに、笑わせるぜ。」
その鉄骨は、エゴルトの顔にあたり、鈍い音を立てて首を弾き飛ばした。血が飛び散り、天井、床を紅色に染める。
----セン-----------------------------------------------------
「ふう、逃げましょう!墜落する前に!」
「お、おうー。」
ジェイさんは、虫の息だったが、何とか生きていた。俺達は戦闘ヘリを借りて、(当然ながら無断で)脱出した。こうして、俺の、長い一日が終わった。レイスさんは、ジェイさんを病院へ連れて行ったそうだ。俺は、とりあえず家に帰り、妹に訳を説明して寝た。