第一話 きっかけ
けたたましく鳴り響く目覚まし時計のベルが、小さな部屋に鳴り響く。
「ん…。うう、朝か。」
まだ、あけるのがつらい目をこすりながら、背伸びをして狭い階段を下りる。
俺は、セン・ハザ―ト。よく間違われるのがセン・ハザード。(なに?バイオ〇ザード?ゾンビじゃねーよ?)黒髪の、一般的な男だ。
12年前は、今住んでいる港町、フィウトスよりも内陸の大きな町に住んでいた。しかし、突然攻めてきた野郎どもに町を滅ぼされた。友達も死んだ。近所の人も死んだ。父さんも、母さんもみんな死んだ。当時10歳だった俺が見たものは、血、肉、屍、炎…。死に物狂いで逃げた場所がここだった。あれから12年、今俺は20歳、妹が18歳で、二人で小さな家に住んでいる。この街は、おもに漁業をしている人が多く、魚がとても安い。俺も釣りをやってみたが、10回中9回獲物に餌だけをきれいに食われ、イーリスに笑われてやる気をなくした。
「あ、お兄ちゃん。おはよー。」
と、明るい挨拶をするのは、俺の妹だ。名前は、イーリス・ハザ―ト。黒くて長い髪をまっすぐに伸ばしている。常に明るく振舞っていて、友達も多いそうだ。
「おう、お早う。」
「ごめんけど時間が無いから、もう行くね。朝ご飯はテーブルにあるから。」
「ああ。ありがとう。」
「じゃあ行ってきまーす。」
「気をつけてなー。」
リビングのテーブルに向かうと、目玉焼きとソーセージの食欲をそそる香りが腹を鳴らせる。妹は、この近くに学校が無いので、隣町の女学校に通っている。
食事を済ませて冷蔵庫を見ると、メモが貼ってあった。読んでみると、それはおつかいのメモだった。うちの料理担当は妹なのだ。
とりあえず金とメモを持って商店街に来たのはいいが、いつも賑やかなのに対し、シャッターは閉められて物音一つしない。
「なんか、いやな予感しかしないな。」
そう呟いた、その時。
ズン… ズン… ズン…
重い足音が聞こえてきた。その方向を見ると、目が一つで、肌が白い3メートルくらいのイキモノが大きな剣を持って子供が虫を殺すときのような目で見ていた。
「っ………!」
逃げなければ殺られる。脳では必死にそう体に指令を送る。しかし、恐怖で硬直した筋肉は石のように動かない。その間にイキモノは、舌なめずりをしながらどんどん近ずいてくる。そして、剣を高々と振り上げた。
その瞬間。
突然そいつは血しぶきをあげて倒れこんだ。その背中には、1.5ミリくらいの穴がたくさん開いていた。
「大丈夫か?」
顔を上げると、そこには灰色に黒のまだら模様の描かれたヘルメットを被り、同じく灰色に黒のまだら模様の描かれた服とズボンを着たがっしりとした男性が立っていた。その両手には、長さが1メートルくらいある銃が一丁あった。