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やり残したこと

作者: 彰弘

 ――あなたには、やり残したことはありませんか。



 卒業アルバムや、卒業文集。高校時代の思い出を捲るたびに、僕はやるせない気持ちになる。特に、僕自身が高校時代に撮ったスナップ写真を見ると、決まってそうなるのだ。

 クラスメイトの写真。決して公式なアルバムには起用されることのない、まったく個人的と言える写真たちだ。そんな写真に写る、とある一人の人を見る度に、僕は自分の愚かさや、自分の不器用さを痛感する。

 高校生という限られた三年間が過ぎ去ってしまうと、何となくもの悲しい気分がした。高校生の時はあれ程早く過ぎてしまえと思った日々も、今となっては、逆に戻りたいとさえ思う。僕自身、やり残したことがあるから、尚更なのかもしれない。


 高校時代。僕にとっては楽しくもあり、苦痛でもあった三年間。一年の孤独に始まり、自分の立ち位置を探し、初めて経験したこと。僕は高校最後の一年間を、只々どうしようもないものとして過ごしていた。

 三年になり立ての僕は、ある一つのことばかり考え、その為に生活がおかしくなっていた。単純な話、恋で失敗したのだ。

 二年の終わりの一ヶ月間、僕はクラスの女子と付き合っていた時間があった。彼女に告白され、付き合い始めたのだが、一ヶ月で別れた。それも、彼女から言い出されたものだった。僕には当初理解できなかった。何がいけなかったのか。何一つ言わずに去っていった彼女に、僕は苛立つばかりだった。時間が経って考えれば、それも単なる自己保身からなのだろう。自分のことばかり棚に上げて、彼女に非があると考えていた。

 何も知らずに付き合い始め、何も知ることなく別れた。それだけのことだが、僕にとってはそのことが引っ掛かっていた。まるで喉に刺さった魚の小骨のような感覚だ。僕は一種の人間不信、女性不信に陥っていた。そんなことから、僕はクラスの女子とは距離を開け、男子との会話には、女子のことを酷く言った。そんなことをしていた半年だった。

 しかし、時間が経つにつれて、考えも変わってくる。僕は本当のところを知りたくなっていた。自分の何がいけなかったのかを。今まで目を背け、合理化していたもの、その真実が知りたくなった。けれど、今更そんなことは聞けない。そういった思いが、僕の中にあった。それというのも、僕は彼女への風当たりをきつくしていたためだ。同じクラスということもあり、日常の中で態度に出していた。嫌っていることを。それも極度に。そんな僕が、半年以上そうしていた僕が、今更彼女に近づくことは出来ない。いや、してはならないような気がしていた。僕は結局、一度開いた溝を、飛び越えることが出来ないでいた。

 高校生活の終わりも、あと数ヶ月に迫っていた。そんな中で、僕は彼女と話は出来ないか、さり気なく探っていた。自分でも馬鹿馬鹿しく思えた。もう終わったことを、もう一度掘り返そうとする自分。散々酷い態度でいたくせに、今になって近づこうとする。そんな自分勝手すぎる行動を行うタイミングを、僕は計っていたのだ。

 考え方を変えれば、結局のところ割り切れていなかったのだろう。彼女のことが忘れられなかっただけなのだろう。口ではいくら強がりを言っても、精神的にはそうはいかなかった。それが本当のところなのかもしれない。

 結局僕は卒業式の日を迎えてしまった。彼女と口を利くこともなく、最後の日を迎え、そして時間ばかりを流していた。元々無理な話だったのかもしれない。自分で悪い方向へと転がしておいて、後になってそれを止めようとするのは。転がり始めたものは、もう止めることは出来ないのだ。転がったものが自然に止まるまで、僕は何も出来ないのだ。

 最後の最後まで、僕は何も出来なかった。せめて卒業式の後、そう思っていたものも、考えていたものも、所詮は頭の中のものでしかなかった。考えたからって、出来るものばかりじゃない。そう思って割り切ろうとも、それは出来なかったのではなく、結果的に僕自身がやらなかっただけなのだ。そのことばかりが、終わった後でも悔やまれた。


 僕は結局何がしたかったのか。何で別れることになったのか、彼女に問い詰めたかったのか。文句でも言うつもりだったのか。いや、そんなことじゃない。僕は単純に謝りたかった。ただ一言「ごめん」が言いたかっただけなのだ。それすら、僕には出来なかった。そのことばかりが、悔やまれる。彼女は、もうそんなこと気にしていないのかもしれない。新しい出会いと向き合っていたのかもしれない。そんな彼女の世界に、僕が出る幕は勿論ない。しかし、僕は確実に彼女を傷付けていた。そのことばかりが、僕の頭の中に残った。それをただ謝りたかった。ただ「ごめん」が言いたかった。

 しかしそれを出来ないまま、僕は高校を卒業し、大学へ進学した。もはや彼女がどこへ行ったのかも分からない。もう会わないことだろう。そうなのだから、もう割り切ってもいいのだろう。しかし、一度悔やんだことはなかなか忘れられない。

 もしも、過去にやり残したことを今出来るとしたら、僕は迷わずに選ぶだろう。

 彼女に会って「ごめん」と言うことを。素直に謝り、気持ちを伝えることを。


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