好き勝手する僕
どうも。
悪の組織から逃げ出したウイルス兵器の僕です。
現在は研究施設内を空中浮遊して、めっちゃふわふわとイイ感じに漂っています。
正直、喋る事もできず同じ部屋にずっといたので、内心グロッキーでしたが、こうやって自由に行動できるのは楽しいです。
長時間、同じ場所にいるのは慣れていますが、たまには外出しないと体だけでなく思考も停止してしまいますからね。
前世で引きこもりを経験をしていなかったらどうなっていた事やら……。
世の中何が役に立つかわからないものですね。
それに、『環境適応』の能力も役立ちました。
なんだかんだ言って、実験動物みたいに同じ場所に拘束されていた上に慣れないウイルスの体なので、本当だったら狂い出す可能性もありました。
そういった環境下に適応するように、精神を鈍化させてストレスなどを感じないようになりました。
体だけでなく精神も環境に合わせてくれるなんて便利な能力です。
あ、そうそう。
なんでまだ研究施設内にいるかというと、あの後すぐに僕がいなくなった事に気付いた研究所が施設の完全封鎖をしたんですよね。
感染被害を最小限に抑えるためらしく、隔壁が降ろされ、地下のシェルターに避難して外部からの救援を待つようです。
僕は『瞬間移動』ですぐに脱出できますが、人間相手の力試しと自分の強化のために施設内に居残って色々やっています。
僕はモルモットや猿を相手に感染実験をしましたが、まだ人間相手に感染したことはありません。
そのため、同じ様に人間相手でも自分の力を躊躇せず発揮して死なせる事が出来るか確かめようと思います。
あと、ウイルスを研究する施設にいるのだから、僕以外に保管されている多種多様なウイルスの特性や力を『強奪吸収』でわが物にして更なるパワーアップに努めようと考えて施設内を回っています。
これから出る外の世界は前世と同じような世界だが、正義の味方や悪の組織がいるようなとんでもパラレルワールドです。
そんな何が起こるかわない世界にこれから飛び出すのだから、出来るだけ前準備は整えておくべきでしょう。
廊下に貼られた案内図を基に探索しつつ、見つけた人間に片っ端から感染します。
シェルターだろうが、最新の防疫服だろうが関係ありません。
そんなもの僕の『瞬間移動』の前では裸同然です。
簡単に細胞に侵入して自身のウイルスの体を分解して増殖します。
増殖されたウイルスは全て僕の意思で動きます。
残念ながら、増殖したウイルスには能力が無いようで普通のウイルスとしての働きしか出来ません。
しかし、感染した宿主の生物の視覚や聴覚を共有し、離れた本体の僕にその情報を送ることができる事がわかりました。
感染しても潜伏していればウイルスの存在はばれないので、情報収集がしやすくなりますね。
当の感染された人たちは悲壮な表情で電話で家族や恋人などの大切な人にお別れの言葉を残しています。
「コウタ……父さんがいなくなってもお前が家族を守るんだぞ!」
「直接言えなくてゴメン。やっぱり俺、サナエの事が好きだったんだ」
まるでパニック映画の最期の別れのワンシーンみたいです。
危険なウイルスに感染したのだから仕方ありませんが、個人的に目の前の光景が愉快でたまりません。
他人の不幸は蜜の味とも言いますが、本人たちからしたら必死な事でも第三者からしたらイイ話のネタになる程度のものです。
だから、目の前でどれだけお涙頂戴の光景が繰り広げられてもそんな事は無視です。
今の僕にとって、人間はいい実験台でしかありません。
どんどん感染していって死に至らしめます。
「うっ!」
「ガハッ。じ、死にたぐないよぉ……」
次々に倒れてピクリとも動かなくなる人たち。
その全身はあばただらけで、二目と見られない姿に変わっています。
天然痘のワクチンを接種して予防する者もいましたが、作られた抗体を『強奪吸収』した僕には意味はありません。
そういった人たちは、すぐに死なせずにじわじわと死の恐怖を味わせて死なせます。
コツを掴んできたようで、バリエーションが豊かになってきましたね。
さて、もう施設の粗方の人間は殺したでしょうか。
白衣姿の研究員たちや研究所の警備をしていたと思しき異形の怪人と戦闘員たちも僕の前では呆気なく死にました。
もっと躊躇ったり何かクるものがあると考えていましたが何の感慨もわきません。
前世が前世だから殺人を忌避する気持ちが元から薄いからでしょうか。
このウイルスの体になってからは人間としての倫理意識は全くありませんしね。
むしろ、ウイルスとしての機能なのかどんどん他の生物に感染しようとしちゃいます。
探索は『瞬間移動』で移動しているおかげで順調に進めています。
うっかり失敗して壁の中に移動してしまってもウイルスの体なので問題ありません。
しかし、本腰を入れてウイルスを探し出して吸収していますが、少し物足りない感じです。
どうもウイルスとして強くなり過ぎたようなのです。
他のウイルスを吸収しても、微々たる力しか手に入りません。
そのため手当たり次第、目ぼしいものから『強奪吸収』をしたら、なかなか面白い力を手に入れました。
探索の最中に薬品室を見つけ、好奇心でガラス瓶に収まっている薬品から『強奪吸収』をしたらその力が手に入ったのです。
治療に役立つ薬や毒薬も含めた各種の薬品の効能を生み出せるようになりました。
催眠薬や媚薬などもあり、今からこの力をどう使うのか考えるだけで楽しみです。
そんな事を考えていたら、施設の地下シェルターのさらに下層の階を見つけました。
案内図にも載っていない階でしたが、調子に乗って『瞬間移動』をしていたら偶然この場所に出れたのです。
僕は、その下層の階で厳重な扉の部屋を見つけました。
他の部屋よりもセキュリティが強化されている様子で、シェルターの扉よりも厳重じゃないでしょうか。
絶対に何かあるに違いありません。
しかもこの地下階にはこの扉しか見当たりません。
上の階ではそこら中に人がいたのに、この階には人っ子一人いないのがなおさら怪しいです。
もしかしたら、悪の組織らしく秘密の部屋かもしれませんね。
ワクワクしながら僕は、『瞬間移動』で厚い扉を無視して室内に侵入します。
中は薄暗く、僕が目覚めた研究室よりも多くの機材や道具があり、その奥に三人の人間がいました。
近づくと、鎖に縛られて横たわっている少女の目の前で、絵本の中の魔女のような老婆とインテリ眼鏡をした青年が何やら喋っているようです。
「それで一体、お前さんはこの事態にどう対処するつもりなんだい? 組織の上層部は所長のあんたの責任として制裁処分を下すらしいがねぇ」
「そ、そんな!? ナムル様のお力でどうにかならないのですか?」
詰問するナムルと言う老婆に対して青年がすがりつくように問いかけます。
しかし、老婆はぞんざいにあしらいます。
「お前さんの研究の支援はしたが、そこまで面倒を見てやる義理はない。あたしはここの警備責任者として外敵の排除が務めだからねぇ。研究施設内の出来事は関知しないよ。諦めて遺言書でも書き残したらどうだい? ヒッヒッヒッ」
「……!…………!」
少女を杖で突きながら楽しそうに笑うナムルはまさしく物語の中の悪い魔女といった感じです。
対する少女は、身動きどころか口も自由に動かせない様子でただナムルを睨むばかりです。
どうやら、僕が好き勝手やった事の後始末として青年が責任を負わされるようですね。
「くそっ。折角、私の研究が成功したのにこんな所で躓いてたまるか!」
青年は怒鳴ると、胸ポケットから怪しい液体の入った注射器を取り出しました。
それを見てナムルは面白そうに青年に語りかけます。
「ほぅ、それが例の物かい。何をするつもりか知らんが使用する前にこの娘で試したらどうだい? ヒーローが怪人になるなんて、このあたしでも見た事がないよ。そしたら、お前さんを助けてやってもいいがのう」
少女を宙に浮かせて青年の目をじっと見つめるナムル。
その言葉を聞いた青年は、自身に刺そうとした注射器を止めて何やら悩みだしました。
「しかしこの薬はこの一本しかありません! それにナムル様は、私の先ほどの申し出を断ったではありませんか?」
「ヒッヒッヒッ。そりゃ、お前さんを助けるメリットがなかったからじゃ。でも、その薬が完成したんなら話は別だ。この目でその薬の力を確認できたら、幹部の一人としてお前さんを擁護してあげようじゃないか。」
「本当ですか!?」
その言葉に希望を見出した青年にナムルは意地悪そうに笑います。
「もちろんじゃとも。ただし、その薬の製法と手柄は渡してもうがねぇ」
「くっ……わ、わかりました。この薬の力をご覧に見せましょう」
ナムルは早くしろと少女を青年に押しやりながら催促してきます。
青年はその申し出を受けて、手にした注射器を少女にゆっくりと近づきました。
一連の話し合いを見聞きしていた少女は慌てて鎖から抜け出そうとしますがどうすることもできません。
「諦めの悪いヒーローだな。私の研究成果をその身に味わえるのだから光栄に思うんだな」
「……!?…………!」
青年は当初の慌てようとは打って変わって偉そうに少女に喋りかけ、少女に注射器の中の液体を見せびらかします。
まさに少女の絶対的なピンチの状況に僕は居合わせたのですが……。
さて、僕はこの目の前の状況をどうしたらいいのでしょうかね。
てっとり早く全員死なせるのは簡単ですが、上の階の下っ端の奴らよりもここにいる二人は立場や力量的に上の存在っぽいです。
もう一人の正義のヒーローらしい少女も見過ごすには惜しい存在です。
できたら、この有用そうな人たちを僕の手足として動かせたらいいのですが……。
短期的に捨て駒として扱うなら催眠薬で十分ですが、なるべく長期的に運用できる人材が欲しいです。
まぁ、とりあえず注射器の中の薬の力を奪ってから、この場の主導権を握っているナムルをどうにかしましょうかね。
早速、僕は行動に移します。
『瞬間移動』で注射器の液体の内部に侵入して、『強奪吸収』でその力や特性をわが物にします。
これで注射器に刺されても少女は無事ですね。
「な、なぜ効果が現れないんだ!? すぐに変化が起こるはずだぞ!」
「……?」
一向に注射した少女に何も起こらない事に慌てふためく青年と不思議そうにしている少女。
その光景を落胆して見遣るナムルは、床を杖でコツコツと叩きつけながら青年に近づきます。
「おやおや? まさか天才博士様はこの年老いた魔女を騙したいのかえ?」
「……あう……いえ、そのぅ……」
ナムルが青年に詰め寄る間に、僕はこの薬について把握します。
そして、二人がこの薬に固執する理由を知りました。
もしこの力が本物なら、僕は凄い力を得た事になります。
「どうやら組織の処分を受ける前に、あたしの力を味わいたいようだねぇ」
「ひっ!」
おっと、いけない。
これ以上の考察は時間の無駄使いですね。
いつの間にか、ナムルが怪しく光らせた杖先を青年に向けています。
早くこの老婆をどうにかしなければいけません。
ちょうどいいので、今得た薬の力でこの事態を解決しましょう。
僕は剣呑な雰囲気のナムルに感染し、得たばかりの力を十全に発揮します。
「ぐっ!な、なんじゃ? 体が……おかし、いぎゃぁぁぁああぁあぁ!」
突如、喚きだす老婆。
曲がっていた背筋を反り返らせて天井に向かって叫び声をあげだします。
すると体中から血を吹き出し、泰然自若とした態度はどこへ行ったのか体を床に倒れこませて暴れだしました。
「ひぃひぃひぃ……く、苦しい……痛いぃ……うぐぅぅ。がっぁぁぁあっぁぁぁぁぁぁ!」
壁や機材にぶつかろうが関係ありません。
獣じみた声を発しながらその苦しみを外に吐き出すかのように暴れまわり、その全身から、みしみしと体をきしませる音を発します。
その姿を見た青年はもちろん、魔法が切れたのか床に放り出された少女も目を見開いて唖然としています。
僕としてはこれからが腕の見せ所なので、こんな所で驚かれては困ります。
なぜなら、僕が『強奪吸収』した薬は人間を怪人化させる薬だったのです。
投与された人間の体を内側から作り変え、遺伝子レベルで組織に従順な怪人を生み出すのです。
もちろん、忠誠の対象は組織ではなく僕に設定し直しました。
まだ慣れていないため、思った通りの怪人にはできませんが、いろいろ試しながら改造しているので結果が楽しみです。
「ぎひぃぃぃぃぃいぃぃぁぁあっぁぁ!」
「……この反応はもしやあの薬の? し、しかしなぜナムル様に?」
どうやら薬の開発者の青年はこの事態の原因に気づいたようです。
半信半疑の様子ですが、僕の存在を知らないのだから仕方ありません。
それに、原因に気づいてもすでに手遅れです。
ナムルの改造がちょうど終わりました。
「あ……あぁ。い、一体何が起こったんじゃ?」
やっと正気に戻ったナムルは自身の体を確認しました。
しかし、その姿はすっかり変わっていました。
「な、なんじゃこりゃー!?」
ナムルが先ほどとは別の、驚きからくる叫び声を発します。
まぁ、驚いて当然でしょうね。
鉤鼻が特徴的な白髪で腰の曲がった典型的な魔女ルックスだったナムル。
それが今や、灰色の髪が特徴的な十歳ほどの華奢な少女に変わってしまったのです。
僕自身、この改造結果に驚きを隠せません。
まさか、あの老婆がロリ婆になるなんて……。




