メメント・モリ(白山雪)
10歳の少年少女たちが、緊張した面持ちで列をなしている。地球上で最も発達した科学の集まる「時間技術センター」、その中で毎日繰り返される光景。始めは修学旅行気分で浮かれていた彼らも、飛行機を降りてからは口数が減っている。
砂漠のような広大な平地に巨大な建物がいくつも建っている。その中の一つ、巨大な金属の塊のような機械が、地球上の技術を集めて造られた「タイムマシン」である。
10歳になった少年少女は、ここで自分の人生のうち「最も辛い別れ」を見に行く。
未来を知ったとしても、その未来を変えることは不可能である。これはタイムマシンを用いた研究から分かった科学的事実である。
そして、自分の「最も辛い別れ」を知っておくことは、知らない場合よりも人生の「幸福度」が高い。これは何万人もの臨床実験に基づいた統計的事実である。
従って、10歳になった少年少女は自分の不幸な未来を見に行くことが義務付けられている。
少年少女は一人ずつタイムマシンに入り、技術者が未来の感情指数を計測する。最も悲しみが強い瞬間を捉え、そこに時間軸を合わせる。タイムマシンは鈍い音を立てながら、少年少女の目に未来の事実を映し出してゆく。
いきなり家族の死の場面を見せられ、泣き出す者がいる。自分の短命を知り、絶望する者もいる。しかし、多くの者は何も感じないまま未来を見終える。そこで死んでゆくのは、まだ出会ったこともない「赤の他人」であるからだ。
やがて彼らは大人になり、かつて見た未来の感傷も忘れた頃。唐突に彼らは「あの日の誰か」に出会うことになる。
壮絶な別れの場面がフラッシュバックし、大抵の者はその「誰か」とは深く関わるまいと思う。しかしいくら避けようとしても、「誰か」とは話が弾み、会う度に幸せを感じてしまう。長い間距離を置いていても、運命的な再会を果たし、かえって親密になることもある。そんな「誰か」は自分にとって「かけがえのない人」だからこそ、別れが辛くなるのだろう、と少しずつ理解してゆく。
彼らには選択肢が与えられている。「かけがえのない人」となった目の前の人物に、自分の知る未来を伝えるか否か。
伝えても伝えなくても未来は変わらない。ここで彼らは悩みを抱える。
真実を伝え、別れの日までを相手と共に目一杯楽しもうとする者がいる。何も知らせないまま、静かに相手を愛し続ける者がいる。
どんな選択をしても、彼らは残された時間をひたすら懸命に生きてゆく。そこにあるのは、残り時間と反比例して強くなる愛しさと感謝の思いである。
どんなに大切な人とも、永遠に一緒には居られない。これは、タイムマシンなどなくとも古代から変わらない真実である。
しかし文明の進歩は人々の生活から死の匂いを薄れさせ、動物の食用肉さえ綺麗なパッケージに包まれている。
こんな時代に、タイムマシンは命の有限性とその輝きをよみがえらせた。
そんなタイムマシンの発明者は多大な称賛を受け、惜しまれながら一生を終えたという。
読書会当日に参加できないので星新一トークを。
星新一は中学の頃によく読んでいて大好きでした。
が、当時からうさぎ好きだった私には「ねむりウサギ」がどうしても悲しくて悲しくて無理でした。未だにウルッとしてしまう私がいます・・・