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夕のたわむれ

作者: 奈月遥

 ちょっとえちぃ表現があるので、苦手な人は回れ右でお願いします。

 あ、でも、ちょっとでも興味あったら覗いていいのですよ?

 彼が玄関を開ければ、投げ出された靴が一足、外から持ち込んだ雪の名残で狭い三和土を濡らしていた。

 短く吐き出されたため息は、玄関のドアを閉めても残っていた寒気のせいで白んで消えた。

玄関の半分を占領している下駄箱の上にかけられた時計を見れば、長針が四と五の間を冬の太陽のようにゆったりと進んでいる。その緩慢とした動きは、忙しない秒針からしたら、なんと怠けているのだろうと文句の一つも出てきそうだ。

 彼は自分の靴を脱いで、履きやすいように外向きに揃えると、可哀想なことに投げ出されていたもう一足も同じように揃えて並べた。明日は彼だけ一限からの授業なので、自分のものを真ん中に置き、もう一足は脇に除ける。

 そして彼は、ちらりと時計とは反対にかけられた鏡に目を向けて、雪の払い忘れがないか確認してから、お風呂とトイレに挟まれた短い廊下を抜けて、リビングのドアを開けた。

「ただいま」

「よし、避けた! ……あぅ? え、あ、おか――みゃ!?」

 まだ新しく軽いドアは音もなくすんなりと開き、彼はソファに横たわっていた彼女に声をかける。

 ソファに深く沈み込んでいた彼女は、さらさらとこぼれる黒髪だけを背もたれのこちら側に垂らしていて、あとは隠れてしまっていた。

 そんな彼女は、彼に気付くとあわてて立ち上がろうとして、こけた。

 ソファごとひっくり返り、なぜか小さな頭から床にダイブしている。それでもコントローラーは手放さないのだから、ゲーマーの根性というものは、すごい。

「――おかえりぃ」

 恥ずかしそうに染み一つない頬をほんのりと紅潮させて、彼女の色素の薄い琥珀色に透き通る瞳が上目遣いに彼をとらえた。

「まったく。お前、大学は?」

 彼は、彼女の細い腰に腕を回して抱き起しながらため息を吐き、あきれた表情を見せる。

 ソファから一番見やすい位置に置かれたテレビ画面では、戦闘の結果が表示されていた。昨日の寝る前に、彼が歯磨きしながら覗いていた時よりも、キャラクターのレベルが十は上がっている。

「わたし、今日二限だけだもん」

 さぼってないよーだ、と彼女は赤い舌を見せた。

 ひどく子供っぽい仕草だが、ベイビィフェイスな彼女がそれをすると怒る気も失せてしまう。

 足でソファを起こして、その上に彼女をテレビに向けて横たわらせれば、彼女は戸惑った表情で彼を見上げてきた。

 どうやら、ゲームのやり過ぎについて多少の罪悪感はあったらしい。

 弱々しく、彼の様子を伺う彼女の潤んだ瞳は、それだけで光を集めて普段の何倍も煌めいて見えた。

 だからではないだろうが、彼は彼女の柔らかな頬に唇を重ねた。

 ふっくらとしたそれは、抵抗なく彼の愛を受け入れて、瑞々しい感触を返す。

 そのまま彼女の艶やかな黒髪を掻き揚げれば、バニラエッセンスみたいな甘い香りが彼の鼻孔をくすぐる。

 このまま、甘く柔らかい洋菓子のような彼女を食べてしまいたいと、彼の中で欲望が顔をもたげた。

 ほんの少し手に力を込めれば、彼女を押し倒し、抵抗もしないその華奢な体を味わうことができる。

 どうすれば、彼女の一番可愛い声を引き出せるかと考えるのに夢中になっている彼の瞳には、間近にある彼女の丸い輪郭しか映っていない。

 最高級のメープルシロップのように無垢な瞳は長いまつ毛に守れていて、甘いのに癖がなく目を離せない。

「ね、ねぇ?」

 躊躇いがちに、彼女のソプラノがこぼれた。

 この雰囲気でも、いや、この雰囲気だからこそ、女性からその一言を発するのは、気後れするのだろう。

 彼は彼女を辱めないために、桃色に色づいた唇に親指をかける。彼女の暖かな吐息が、その親指をしっとりと湿らせる。

 彼は、泣きそうになっている彼女を見詰めながら、顔を近付けていく。

「ゲーム、続きしちゃ、だめ?」

 がくり、と彼の頭が丸い彼女の肩に着地して、その曲線のままに滑り落ちかけた。

「好きにしてくれ。晩飯、食いたいのあるか?」

 重苦しいため息を吐き出して脱力しきった彼は、もはや怒りも呆れも通り越して、普段通りの行動に移った。

 とは言え、まだ料理を始めるのは早いので、彼は冷蔵庫の中身を確認した後は、コーヒーを入れてダイニングテーブルに着く。そこからは、ソファを後ろからテレビを見られる位置になっている。

「ふぁいあ」

 彼女がテレビゲームのキャラに合わせて、台詞つぶやく。……おそらく、本人はつぶやいているつもりなのだろうが、それなりに音量が大きい。

「ふぁいあ!」

 二回目の台詞には、気合が入っている。

 気合を入れたからといって、ダメージが変わるものでもないのだが、彼女曰く気分の問題だということだ。

 テレビ画面でカーソルが流れる動きで次のユニットを選択し、攻撃を実行させる。シュミレーションゲームで、そこそこ攻略時間が長くても、一週目はアニメを全て再生するのは、彼女の小さなこだわりだ。

 そんな様子を、口にコーヒーを含みながら見ていた彼に、突然彼女が振り返った。

「どうした?」

 彼女の肩越しにテレビを見る彼の目には、ぐるぐると飛び回る機体が、設定通りの攻撃パターンを再生している。それは彼女のお気に入りユニットだったはずだと、彼は首を傾げた。

 彼女が黙って彼の首に腕を回して。

 そのまま、軽い体重で僅かばかり彼に負荷をかけて。

 熱っぽい吐息が彼に近づいてきて、その呼吸に愛おしさを混ぜて。

 さらりとこぼれる艶やかな黒髪が、バニラエッセンスの香りを波立たせて彼の意識に霞をかけていき。

 太古の記憶を秘めた琥珀の瞳は、長いまつ毛から降りる影に隠された夢へと抱かれて、ふわふわとした浮遊感に誘ってくる。

 なんの抵抗もできないままに、彼は唇を奪われた。

 とろりとした唾液を絡ませて、彼女の器用な舌が、彼の唇を撫でて招待してくれるようにねだる。

 そんな官能的なお願いを無下にできるはずもなく、対して強固でもない彼の理性は陥落した。

 耳を狂わせる声と一緒に攻め立ててくる舌は、本当に彼女のものか疑わしくなるほどに積極的に奥へ、奥へと進んでくる。

 かと思えば、歯をなぞりながら戻っていき、彼の口から唾液を奪っていく。

 こくりと喉を鳴らして、すぐに彼女の舌は、汲み取った自分の唾液を彼の中へ運んでくる。

 彼の味蕾を、自身の味蕾でくすぐって刺激しながら、彼女の舌は運んできた蜜を明け渡した。

 もっと遊んでとねだるように、その舌は、彼の舌根をつつき、その身に絡みつく。

 その誘いに乗って、逆に彼女の口内へと彼の舌が侵入すれば、くぐもった吐息が逃げ場もなく彼の喉へと飛び込んでくる。

 くちゅくちゅと水音を立てて攻め返して、彼女の顔をとろけさせる。

 そしてゆっくりと離れる二人の口元に、銀色の糸が紡がれた。

「なに、急に?」

 彼は熱くなる首に自分の手のひらをあてる。ひんやりとした感触が、討伐されかけていた理性を呼び覚ましてくれた。

「んー」

 訊かれた彼女は、細いあごに白い人差し指をあてて、少しだけ悩む仕草を見せる。

 気のないため息で先を促せば、彼女はゆらゆらと足でステップを踏んで髪を揺らし、眠気を誘う。

「すねられるのも、いやだなぁって思って、ね?」

 語尾をはねさせる彼女は、可愛らしく小首を傾げた。

 たったそれだけの仕草なのに、息を吹き返したはずの彼の理性が、また何処かへ吹き飛ばされてしまう。

 時期外れの桜が咲いた彼女の頬に、彼が手を寄せれば、しっとりと汗ばんだ感触が招いてくれる。

 彼は椅子から立ち上がり、彼女を見下ろす。

 見上げてくるメープルの瞳からは、甘い滴がこぼれ落ちそうだ。

 ちらり、と彼が視線をテレビに流したのは、なんの予感からだったのだろうか。

 そこでは、爆炎が上がり、さっき彼女が攻撃を指定したユニットを操縦するキャラが冷や汗を流して、叫んだ。

「あー!」

 それと同時に上がった彼女の悲鳴に、彼は鼓膜が破れそうになるほどの衝撃を受けて、余りの音量に目を瞑る。

「なんで十五パーセントなのにあたるの!? Bだから!? 空適応がBだからなのっ!?  そもそも、なんで空を飛ぶ機体なのに空適応がBなのよっ!?」

 お気に入りのキャラが一撃で落とされて動揺した彼女は、彼が目を瞬かせている間にテレビの前に移動して、必死に訴えていた。

 声が濡れているということは、泣いてしまったのだろうか。

 衝撃の出来事に我を忘れて、彼女は嘆き叫んでいる。

そして彼は、提出した課題に大きな手違いを見つけてしまった時のように体を震わせた後、諦めたように長い息を吐き出した。


おわり

 第二次スパロボOGやりたい! でも、そもそもPS3持ってないよ!

 

 はい、いきなり不満爆発で申し訳ないです。

 ゲームに夢中だけど、キミにも夢中なんだよってそんな感じな彼女なのです。むしろ、ゲーム中に来てくれてもポーズするから大丈夫なんだよ?

 ときめいてもらえましたか?

 

 ではでは、あなたにもよい夕刻が訪れますように。


 あ、ゲームはほどほどにね?

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