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第一章 取ってこいは無かった

 Gardenには紙幣や硬貨は存在せず、冒険者達はカードのポイント、ptを代わりに使用している。

 カードは基本的に持ち主以外に使用出来ないが、ptの譲渡は可能だ。Garden内での飲食や買い物はこのptで行われ、冒険者達は初期値として1000pt、毎日零時に何もせずとも300pt加算される。

 ちなみに、一食だいたい100ptで定食が食べられる事から、1pt10円相当だ。


「高いのか安いのか、微妙なラインだよな」


 宿屋の一階は道具屋と食堂で、サラは道具屋の店員でもある。

 二日目からは普通に道具屋で働いているのだが、如何せん暇のようだった。それもそのはず、多くの冒険者達はセンターに引き籠って能力開発に着手しているのだから。

 カウンターに腕を組んで顎をついて詰まらなそうにしているサラを見ると、何だか申し訳なくなってくる。

 という訳で、サラのおかげで武器防具を無料で手に入れられptの余っている俺は、サラの初めてのお客さんをすることにしたのだ。

 そうして見た、道具屋のラインナップなのだが、非常によく解らない。


 薬草 10pt

 毒消し草 8pt

 聖水 20pt

 ポーション 60pt

 エーテル 150pt

 万能薬 60pt

 虫除けスプレー 20pt

 生命の水 売り切れ

 不死鳥の尾羽 10000pt


 商店街の立派な道具屋に行けばもっとあるらしいのだが、俺にはこのバリエーションだけで混乱中だ。

 おまけに、アイテムの説明が無いという魔法よりも理不尽な仕様。


 だがとりあえず、魔法使いのためにエーテルを作ってくれてありがとうと言いたい。


 問題は、被っている事だ。


 薬草とポーション、聖水と虫除けスプレー、毒消し草に万能薬、生命の水に不死鳥の尾羽。

 どこかで見た事のある名称なのでなんとなく効果は解るのだが、その効果が被っているようにしか思えない。しかし値段が違う。となると、一体二つの何が違うのか。


 薬草とポーションの違いは、味とか回復量だろうか。味覚を有するGardenにおいて、味は結構重要だろう。恐らく、薬草はまずい。六倍の値段のポーションを買いたくなる程に。いや、食べられる塗り薬かもしれない。


「とりあえず、薬草一つとポーション二つ」

「実験するの?」


 レジ代わりらしいタブレットPCを操作しながら面白がって尋ねてくるサラに、俺は頷く。


「毒キノコを初めて食べた人は偉いと思うんだ」

「私はたんなる馬鹿だと思うけど」

「そんな馬鹿な」


 サラは解ってない。見た目が美味しそうでも毒キノコ、なんて沢山あるのだ。

 ……まあ、今回の場合は、毒々しい毒キノコを食べるようなものなので、分類は馬鹿な奴になるが。


 さて次に毒消し草と万能薬だが、これは毒を使う敵が多くいると言う事だろう。万能薬があれば事足りそうだが、毒消し草の値段は魅力的だ。


「じゃあ、毒消し草二つに万能薬三つ」

「これは別に実験しなくていいと思うけど?」

「というか、なるべく使いたくない」


 何せ、毒。

 ここまでリアルな世界、毒を喰らえばどうなるのか非常に不安だ。三歩ごとに呻くようなら、まずい草を喰った方がマシというものだろう。倫理的にどうかと思うが、恐らく毒と言うだけの痛みはあるのではないだろうか。


 で、聖水と虫除けスプレー。これは、ぶっちゃけ要らないような。敵を倒さなければレベルの上がらない魔法使いに取って、敵と遭遇しないようにする意味は無いのだ。ああでも、敗戦して逃亡する時には必要か。


「一応、聖水と虫除け二つずつ」

「結局買えるものは全種類買うんだ」

「そりゃまあ、専門の道具屋があるのにわざわざ宿屋で売るようなアイテムだからな。必需品と言っても過言じゃないんだろ」


 残った生命の水と不死鳥の尾羽は、今は買えないので何とも言えないが、一度死ねば強制ログアウトのこのゲームにあるのだ。

 不死鳥の尾羽は、HP0から一度だけHP全回復だろうか。生命の水は名前から考えるに、こちらも復活系アイテムだろう。それならば、βテスト終了後に解放されるとかだろうか。


 まあ、10000ptなんて現状ではカツアゲしなければためようが無いptだ。無い物として扱った方が良いだろう。俺の期待するような効果を発揮するとも限らないし。


「で、商品は?」

「先に支払いね。私のカードにptを送って」

「……406pt、と」


 クレジットカードみたいな薄さの銀色のカードは、超薄型のスマートフォンとでも言うのかタッチ操作。

 ちなみにこのカード、センター利用時に作成されたもので、身分証明証の役割もあると説明を受けた。

 ゲームで身分証明が必要な事なんてあまり無いと思うが、もはや今更。いつもの無駄リアルだ。

 サラの出すカードに近づけ、送信をワンタッチ。


「実は、カードが無いとアイテムが取り出せないんだ」


 そう言ってサラは自分のカードをリーダーに通す。ピピッと清算を知らせる電子音がなり、カウンター奥にある大きな電子天秤のような透明な立方体の機器が光った。


「おぉ……」


 その光景に、思わず声を漏らしてしまった。

 転送装置、なのだろうか。一瞬光ったかと思えば、装置の中心に注文した商品が並んでいる。なるほど、ptはこの装置を動かすのに必要なのだろう。

 サラは装置の正面に付いている取っ手を引き、中の商品をカウンターに取り出す。


「はい。初めてだから一応商品の数とか確認して」

「……うん、大丈夫だ」


 薬草は大葉を少し大きくしたような葉、毒消し草は薬草よりも濃い緑色の葉だ。ポーションやエーテル、万能薬、聖水は瓶に入っており、虫除けスプレーは当然スプレー缶である。蓋が妙に凝ったデザインの透き通った緑色の瓶がポーション。エーテルは同じ瓶だが色が濃いコバルトブルーだ。聖水は同じ瓶を細長くした感じで、万能薬は逆に太らせた感じ。


 残りは894ptか。アクセサリー系のアイテムが欲しいので少々心もとない残金だが、どうせ毎日300pt手に入るのだ。フィールド開放まで後6日、1800ptも手に入る。


 あれ? よく考えてみると、1pt10円相当。ということは、ここでの暮らしは何もせずとも毎日3000円が懐に入ってくる計算になるのか。

 ギルドと呼ばれる仕事の斡旋所では、街のゴミ拾いや住民の仕事の手助け、要はバイトなんかでもptが稼げるらしい。

 その程度のバイトで、毎日美味い食事が喰えて更に財産も溜まると言う訳で。


「俺、急に現実が虚しく思えて来た」

「はいはい、現実逃避はそこまでね」


 ここは引き蘢りゲーマーの楽園だろうか。性欲は解らないが、睡眠と食欲が満たされるこの世界、これが出回れば間違いなく引き蘢りが増えるな。


 さて、アイテムをしまうか。

 ここが魔法使いの見せ場。


 俺はアイテムに手を伸ばす。普通の冒険者ならこれを道具袋に入れるのだろう。だが、俺は違う。道具袋は引き出しの中で再度眠りについた。

 手に取ろうとアイテムに触れて——瞬間、アイテムは粒子となって消えて行った。


「えっ!? な、なに!? もしかして、ば、バグ……」


 俺が手に取ったアイテムが次々と消えて行く現象に目を丸くするサラ。

 まあ、何も知らない奴が見ればまるで手品だろう。


「違う違う。魔法使いの能力、アイテムボックスへの格納って奴だ」


 触れるだけで道具を格納出来る、思い浮かべるだけで瞬時に取り出せるというだけの力だ。道具袋の出し入れを簡略化しただけである。

 けれど、道具袋に入らないようなサイズのアイテムや量でも所持出来る利点もある。ちなみに、所持アイテムは《審察眼》でチェック出来る。


「でもなんか、魔法使いは魔法使いでも、手品師マジシャンみたいだね」

「うっ——」


 何故だか、その言葉は俺の胸に深く突き刺さった。

 彼女の言葉が脳内で何度も繰り返し再生される。

 そして俺は気付いた。


 その呼び名は、すごくショボイのだと。

 同時に、審察眼でアイテムのチェックが出来るのではないかとも気付く。



 [Name] 薬草

 [効果] HP5%回復。※食用。味は苦い。貧乏人にはお似合いの味。


 [Name] 毒消し草

 [効果] 状態異常毒回復。※服用もしくは患部に当ててください。味は苦い。万能薬を買えば良いのに。


 [Name] ポーション

 [効果] HP30%回復。※服用もしくは身体に振りかけて下さい。味は甘め。初期の冒険者のお供。冒険が進めば、上位のポーションに居場所を奪われる。


 [Name] エーテル

 [効果] MP40回復。※服用もしくは身体に振りかけて下さい。味は甘め。これ、本当に需要あるのかな? 魔法使い(笑)なんて本当にいるの?


 [Name] 万能薬

 [効果] 状態異常回復。※服用もしくは身体に振りかけて下さい。薄味コーヒーのような苦さ。全部飲むのは大変だよ。


 [Name] 聖水

 [効果] 魔物に一定ダメージ。振りかければ魔物の出現率低下。※誤飲注意。腹黒いあなたに大ダメージ。


 [Name] 虫除けスプレー

 [効果] 振りかければ虫を一定範囲に近づけない。※理想の虫除けスプレー。



「…………」

 思わず沈黙してしまった。色々突っ込みたいが、突っ込んだら負けかなと思う。

 一体誰がこんな巫山戯たテキストを用意したのか疑問を覚えるが、一応サラに情報提供しておいた。もちろん、必要最低限な部分のみ。



ーーーーーーーーーーーーー



 湯気を上げる出来立てのシチューは、大きな鶏肉や一口サイズのジャガイモ、輪切りの人参、タマネギなど具沢山だ。溶けるまで煮込まれたタマネギの甘さ、肉の旨味を凝縮した汁は一口で笑みを浮かべてしまう。

 カットされた焼きたてのフランスパンの表面はこんがり、中は柔らかい。

 最後は、一滴たりとも残さんと、フランスパンで綺麗に皿を拭って、シチューの沁みたパンをパクリ。

 デザートの巨峰ゼリーは、一口食べただけで芳醇な果実の旨味を伝えてくる。ごろりと入った果実はプリッとしていて、噛めば果汁が溢れる贅沢さ。


「ごちそうさまでした」


 宿屋の一階にある食堂、そこで本日の夕食だ。食堂は二十人程が座れる広さがあるが、客は俺一人。店の名誉のために補足すると時刻は午後五時半、夕飯には少し早い時間だ。


 急がしそうでも無い店内、ぼおーっと先ほど食べた食事の味を思い出す。悔しいが、俺は現実でこんなに美味い物を食べた記憶が無い。

 これがゲームだなんて、ここで一ヶ月も過ごせるなんて、この楽園からたった一ヶ月で追放されるなんて、死んだらもうこの料理が食べられないなんて——嫌だ。


「ふふ、良い食べっぷり。それに綺麗に食べてくれちゃって、おばさん嬉しいわ」


 そう言って微笑むのは、三十代の美女。宿屋の食堂で働くダイスケの奥さん、ミドリさんだ。エプロン姿で、茶髪を三角巾で纏めている。サラは母親似みたいだ。


「これって、食材が良いのか? それとも、ミドリさんの料理の腕が良いから?」

「スキルを使ってるから、どっちもどっちよ。私、そんなに料理上手じゃないからね」


 てへへ、とはにかむミドリさんを見ていると、どうやら謙遜ではなく本当らしい。


 [調理]のスキルは、食材があれば後は身体が勝手に動き調理を行ってくれる、アシストタイプの能力だ。

 本来Gardenでは、スキルの使用で得た経験を現実に持ち帰る事を目的の一つに置いている。

 そのため、スキルで習得した技術を、現実に持ち帰る前にゲームで試せるのではないだろうか。


 これがあれば、どんなメシマズ料理人でも三ツ星シェフに早変わり! とはいかないんだろう。

 レシピ通りに作らない性質上、スキルも無視してくるに違いない。調理後にアレンジをくわえるとか。

 世の可哀想な旦那さんは、未だ救われない。


「それでも、美味しかった。たまにはスキル無しで料理したら、同じ料理でも違う味も楽しめるだろうな」


 スキルは誰でも使えると言う利点故に、誰が使っても同じ結末にしか至らない。所謂、おふくろの味の消失を引き起こしかねない。

 あるものを無くすのは良くない。無くしてからじゃ遅いので、ここで忠告しておく。


「あっ、ナイン君!」


 その呼び方に一瞬びくりとした。声が似ていて、この人はサラの母親なのだと改めて思う。


「……えっと、短い間だけど、家の娘と仲良くしてね」


 少しばかり緊張した様子で、俺に断られやしないかと不安そうに言うミドリさん。

 一瞬きょとんとした表情を浮かべてしまったが、俺はすぐに笑みを浮かべて頷く。


「当然。サラは俺の友達……だと思うから」


 自身がなくなって、尻すぼみ。俺なんかが友達とか言っていいのだろうか。

 あっちは友達と思ってないかもしれない。

 少なくとも俺は、サラに迷惑に思われていても、サラの事を友達だと思っている。

 けど、今まで友達なんていないから、友達ってよく解らない。

 随分自然に出て来た単語だ。多分、使い方とか間違ってないはず。


 友情の証を取ってこなくても、大丈夫、だよな?


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