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第一章 そして仮想現実へ

 圧迫感を孕んだ闇がそこに広がっていた。

 限りなく無に近い、気持ち悪い闇。


「うっ……」


 何か違和感を感じつつ、俺は手を伸ばす。今回は頭痛がない。


 ボックスが開くと、そこはアパートの一室のようだった。


 白を基調にした部屋で、どこか簡素な2DKの部屋だ。

 机やタンス、ベッドなど、生活に必要最低限なものしかないのが原因だろう。


 確かGardenは、ゲーム内で食事や睡眠すらも取れる、すなわち食欲睡眠欲を実装した、完璧な仮想現実を実現しているためだ。

 食事は触感、味覚、嗅覚、満腹中枢までもを刺激するので、体感的にはこちらとの食事と何ら変わりない。むしろ、データのため最高級品が複製可能、食事に違和感を感じなければGardenの方が現実より美味い食事にありつけるかもしれない。


 ただ、栄養を摂取する事は不可能で、ボックス内部には自動点滴装置なるものがついているらしく、テスト期間一度もログアウトせずとも生きられるようになっているらしい。

 筋力は落ちてしまうだろうが、死にはしないようだ。いずれは現実に成り代わる現実を目指しているだけある。


 テスターにはなるべくログアウトせずに一ヶ月間過ごしてほしい、というのが開発側の意図のようで、『死んだら強制ログアウト。二度とログイン出来ない』と案内に書いた程だ。


 その所為だろう。この生活空間は、ログアウトしてしまったテスターのために一応造った、という簡素な作りである。部屋に窓は無く、一種の牢獄のように思えなくもない。

 『何死んでんだ、金返せ馬鹿やろう!』と言いたげなスタッフが見えるのは気のせいだろうか。


 現在は、管理者側からの要請でログアウトしているので、再ログインは可能だろう。

 世界全体に響くような、それでいて五月蝿くない音が響いて、『テストの一部です。全てのテスターは自分のボックスからログアウトしてください』とコールがされたのだ。


「……しかし、なんていうか、あまりに居心地が良くない部屋だな」


 何が悪いと言う訳ではないのだが、出来れば長期間過ごしたくないような部屋だ。

 監視カメラでも設置されていて、それを知らされているとでも言うのか。


 孤独感とも違う、表現しにくい圧迫感に襲われて、仲間探しに外の様子を窺いたくなった。

 窓が無いため玄関へと向かう。


 軽く歩いてみたが、Gardenからの復帰後のためか、地に足が付いていないような感覚がある。それでも、歩けない訳ではない。

 ドアを開けると、これまた真っ白な通路が広がっていた。


 白で統一された無機質な通路で、円を描くようになっているのか、通路の先が見えなかった。だが他にもいくつも部屋があるようだ。見れば、同じようにドアから顔を出している人がいるではないか。

 が、気恥ずかしそうにすぐに顔を引っ込め、鍵がかかる音。


 あれ? 俺、こっちでも裸とかではないよな? と服を見れば、テスト参加時の物。

 単純に恥ずかしかったんだ、そうに決まっている。


「箱庭島、なんて名前のくせに、中身はまるまる研究施設なのか」


 立ち入り禁止の空間に入ってしまったような、妙な居心地の悪さを覚える。

 俺もさっきの人のように鍵を閉めて、やる事も無くベッドに寝転がった。

 探検なんてして、産業スパイと間違われたくはない。


 だいたい、外からの見た目から非常に厳しそうな所だった。


 情報隔離された白いドーム状の島、箱庭島。それがこのGardenの開発場所だ。

 ネットや電話は繋がらず、人工衛星にも正確な位置が映らない、完全に外界と隔離されている島。


 テスト参加はウェブでの応募後、一回の面接。合格通知が来て身体検査。

 そして昨日、深夜の港から出港した。

 冒険者だけを乗せた巨大客船に揺られる事、何時間だろう。時間の感覚も解らぬうちについたのが、外から見ればほぼ白いドームに覆われたこの島だった。


 一応このゲーム、日本の最後の希望だったりする。


 人口増加に伴い、資源枯渇が見えて来た人類の新たな生活の場として期待されているのが、仮想世界である。同時に、経済・産業とあらゆる面で遅れを取り始めた日本の最後の砦とも言えた。

 現実での活動を最小限に抑え、資源を有効活用しようと言う考えだ。


 そのためこのGarden開発は、日本政府が島一つを買い取り、研究者一人の自由も許さないと言う徹底された情報隠蔽が行われている、らしい。なりすましか本物か、真偽の程は解らないが、そういう情報がネットの掲示板にはあったのだ。


 要するにここは、産業スパイとして捕えられれば、売国奴として処刑されそうな空間である。



『大変長らくお待たせしました。ただいまより、ログイン可能です。テスターの皆様、ログインしてください』



 学校の放送のように入った声に、どうしてか安堵の笑みを浮かべてしまう。

 懐かしさ、ではないよな。学校に通った事は無いから。


「なるべくこっちでは過ごしたくないな」


 そう呟くが、その理由が何故だか解らない。

 説明出来ない居心地の悪さは、確かに俺達にゲームの中だろうと死にたくないという思いを強まらせた。ナイススタッフ?



『なお、これからログアウトは不可能となりますのでご注意ください』



 それでも別にいいと、何故だかそう思えた。

 と。


「————」


 一瞬、何かが聞こえた。

 声の方へと振り返れば、ぼんやりとした人の輪郭が見えた、気がする。


「誰かいるのか?」


 だが、周りを見渡しても誰もいない。気付けば、この空間も審察眼を使用した時のような静寂に包まれている。

 なるほど、先ほどから感じる違和感、居心地の悪さはそういう訳か。



 ここ、幽霊でもいるんだろう。



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