1.お伽話
「むかしむかし、あるところに、それはそれは悪い王様がいました。
悪い王様は悪事の限りを尽くして、国の人々を苦しめていました」
ペラッ。
「人々は口にします。
誰か、アイツを何とかしてくれ、と。
しかし、悪い王様の力は絶大で、誰にもどうすることも出来ません。
どれだけ文句を言われても、王様は悪事をやめようとはしなかったのです」
ペラッ。
「そんな悪い王様を倒すべく、4人の勇者が立ち上がります」
ペラッ。
「4人は協力しあいながら、数多の苦難を乗り越えていきます。
時に街の人々を救い、時に村人の願いを叶えながら……。
助けた人達の力も時に借りながら、4人は悪い王様の元へと進んでいったのです」
ペラッ。
「とても長い……長くて辛い戦いの日々が過ぎて行きます。
普通なら、きっと諦めていた事でしょう。
それでも4人は諦めることなく旅を続けました」
ペラッ。
「そして、ついに4人は悪い王様の城に辿りつきました。
そこには沢山の兵隊に守られた悪い王様が居ました」
ペラッ。
「よく来たな、勇者どもめ。
お前たちの旅は、ここまでだ。
悪い王様は、勇者達にそう宣言します」
ペラッ。
「もとより、そのつもりだった4人は怯みません。
ああ、そうだとも。
ここで俺たちの旅はおしまいだ。
お前を倒して、あとは帰るだけだからな。
勇者は剣を抜き放って、不敵に笑って見せました」
ペラッ。
「……最後の戦いが始まります。
4人の勇者は必死に戦いました。
戦って、戦って、戦って……。
ついに、最後には、悪い王様も倒したのです」
ペラッ。
「……でも、なぜでしょうか。
悪い王様が居なくなっても、不思議と世界は今まで通りでした。
それからも、これまでと大きくは変わらなかったのです」
ペラッ。
「悪い王様がいなくなったのに、何故、世界は平和にならないの?」
ペラッ。
「子供達にそう尋ねられても、大人達は誰も答えることが出来ません。
その理由は、誰にも分からなかったのです……」
パタン。
「はい、おしまい」
「ん~……どうして?」
「その悪い王様だけが原因じゃなかったから、かな」
「ふ~ん」
「でも、その王様が何も悪い事をしてなかったって訳でもないの。
だから、この4人がやったことは別に間違ってはいなかったのよ」
「そーだったんだー」
「悪い王様やその部下の人達は、その日から居なくなったんだから。
この人達がやったことも完全に無駄って訳でもなかったって事ね」
「そうだね~」
そんな妻の言葉に、娘は感心したような表情を浮かべていたのだが。
「それじゃあ、最後はメデタシ、メデタシ?」
「そう、ね。そうなると良いわね……」
子供は時として、悪意も容赦もなく、残酷な真実を探り当てる事がある。
妻の言葉を聞くまでもなく、この話の最後はめでたくも何ともなかった。
この"お伽話"は、そんなさほど昔の事でもなかったんだ。
今の世の中ってヤツを端的に表していたんだからな……。