光の花のフーカ
始まりは、冬休み前に優奈がお父さんと一緒に森へ入ったこと。森の管理をするお父さんは大雪が降った後の木々の様子を見るために森へいき、優奈は後ろをついていった。
あちこちの木々が折れていないことを確認したお父さんは、ふと足元を見た後、優奈を呼んだ。
「こっちにきてくれ。いいものを見つけたぞ」
「いいもの? なあに?」
お父さんの元へ行くと、指差す方に目を落とした。
白い雪の中、握り拳くらいの花が満開に咲いていた。オレンジのおしべとめしべが黄色の花びらで囲われている。コスモスに似ているけれどどこか違うような。なんていう花だろうか、優奈は見たことがなかった。雪の中に一輪だけ咲いた太陽のようだった。
優奈はハッとした。
「お父さん、何してるの!」
優奈が花を見ている隙に、お父さんの手がその花に伸びてきていた。優奈の声にお父さんの手はぴたりと止まる。
「優奈にあげようと思って」
「だめ! 寒い冬に咲いて頑張ってるんだから、とっちゃだめだよ。かわいそうだよ!」
思わず花とお父さんの間に入ろうと優奈の体が動く。伸ばしていた手を引っ込めたお父さんは、その手で頭の後ろを掻き始めた。
「うーん、そうだな」
「黄色い花はきっとここでまだ咲いていたいんだよ」
ふわりと風が吹いた。花が小さく揺れる。
「わかったよ。優奈は優しい子だな。大人になったらこの森の管理を継いで欲しいものだ」
「いいよ! 私、この森好きだもん。春も夏も秋も冬も好き!」
「頼もしいな。なら、今日は帰ろうか」
お父さんと帰る時、もう一度花のある方を振り返ると、きらりと光って見えたような気がした。
次の日の帰り道、友達とも別れて最後の家路に差し掛かったとき、優奈は思わず冷たい雪の上に立ち止まってしまった。家のある方と反対側には、この前お父さんと一緒に行った森へ続く一本の林道が整備されている。その林道の入り口に、オレンジ色の髪で黄色のワンピースを着た小さな女の子がいた。
小学生の帰宅時間にも関わらずランドセルも背負っていない。小学三年生の優奈よりうんと体も小さい。まだ小学一年にもならないくらいだろうか、小さな女の子が肩を震わせながら泣いていた。
遠目から気にしながら近づいていった優奈は、いつのまにか女の子に声をかけていた。
「どうしたの? お母さんかお父さんを探してるの?」
「おうちの場所がわからなくなっちゃったの」
「そうなの? ならお姉ちゃんが一緒に探してあげるよ!」
優奈が力強く言うと、少し涙が止まったように見えた。
「ほんと? ありがとう」
「お姉ちゃんは優奈って言うよ。お名前は?」
女の子は時々鼻を啜りながら途切れ途切れに言った。
「あたし、フーカっていうの。おうちは確か、こっちの方なんだけどね、道がわからなくなっちゃったの……」
お父さんが管理している森の奥を指差している。フーカの家は森の方にあるらしい。優奈は森の向こうに何があるかは知らないが、もしかして森を出て向こう側にあるのだろうか。フーカは木の幹に光の粉がついているから、それが家への目印だと説明してくれる。優奈は思った。この森の木の幹に、光の粉なんてついてなかったな、そんな不思議な木なんてあったっけ、と。
優奈はランドセルを背負い直すと、とりあえず一緒に森へ入っていくことにした。
「あ! あれだよ!」
少し歩いた頃、フーカはすっかり元気になって高い声をあげた。
フーカは二本の木に指を向けていた。木の幹に一筋の線が走っていて光が漏れ出しているのが見える。その奥の木も同じように光っている。目を移すとさらにその奥も、その奥も。まるで光を放つ木が道を作っているようだ。
何これすごい、と心の中で驚いていると、フーカは嬉しそうな声を出した。
「これが目印! 優奈ちゃんもついてきて!」
優奈を引く手は小さかった。フーカを前にしながら、優奈は光る二本の木々の間を通り抜けていく。真っ直ぐ道は続いている。
途中で光の道は終わった。それと同時に気がついた。木々の向こう側は雪が溶けていること。その奥が明るいこと。思わず驚いた顔をフーカに向ける。優奈が何かを言い始める前に、フーカは意味ありげに微笑みかけた。
「ついたよ」
フーカは誘い込むように手招きする。引き寄せられるように、優奈は一歩足を踏み出した。
「す、すごい……!」
太陽に照らされて緑色が眩しい木々の向こう側には、どこまでも続く花畑が広がっていた。地平線までずっと花で埋め尽くされている。青、黄色、赤、ピンク。色とりどりの花々は明るい太陽の光を浴び風に揺られて踊っているように見える。
その花たちを潤している川の水は濁りもなく透き通っていて、まるで溶けた水晶が流れているかのようだ。川面が太陽の光に照らされて眩しいほど輝いていた。よく見ると川の底に沈んでいる小石さえ金や銀のように光っていた。
森の中にこんな場所が……?
さっきまで木々の生い茂る中にいたのに、こんな開かれた広い場所があったなんて。森には幼い頃から何回も行っていたけど、今まで優奈は知らなかった。
風が吹くと暖かい。柔らかい。まるで春風だ。冬じゃなくて、春みたいだ。
「いいところでしょ?」
フーカは花の上にお尻をおろしていた。にこっと笑うと、優奈ちゃんもやってみなよと目で訴えてから花の上にゴロンと寝転がる。
優奈もランドセルを投げ出して花の上に倒れこむように身体を預けた。いい匂いがふわりと舞った。花のじゅうたんで寝転がるなんて夢みたい。体が花につつまれているよう。
花に囲まれた優奈は、顔のそばに咲いていた青い花を触ってみた。黄色い花粉が指先につき、風に吹かれると太陽の光に混じって消えた。
「ここがおうちなの? 森の奥のこんなところにきれいな場所があるなんて知らなかったよ。でもおうちは見えないようだけど」
「ここまで来ればおうちは遠くないよ。探してくれてありがとね! ……それで、もう一つお願いがあるんだけどさ、よかったら、一緒に遊ばない?」
「いいよ! 何して遊ぶ?」
にこやかに笑うフーカの笑顔はまるで咲いた花のようだった。
「優奈ちゃんに似合う花冠を作ってプレゼントしたいな!」
目がキラキラと輝いている。
それからフーカは花冠を作って、優奈も作り方を教えてもらって被せ合いっこして笑い合って、ブローチや髪飾りを作って遊んだ。優奈の髪も服も色とりどりの花で飾られた。
「そうだ、よかったらおうちに来ない?」
「行きたい!」
「なら決定だね。こっちだよ」
フーカは小川沿いを歩き始めた。導かれるままについていく。
花畑には木も所々生えていた。よく見るとその木には実がなっている。甘くて爽やかな匂いがその木から香ってくる。赤色にオレンジ色。でも、よく見るとリンゴやオレンジではなさそうだ。見たことない。
「ここのフルーツも美味しいよ。あとでごちそうするね」
「え? とって食べていいの?」
人のものは勝手にとってはいけない。きのこや山菜をとりに森に行く時、勝手にとっていいのはお父さんの管理している森だけだよ、といつもそう言われている。不思議そうに問いかけた優奈に、むしろフーカは不思議そうな顔で答えた。
「いいけど?」
「もしかして、全部フーカちゃんのおうちのものなの?」
木も花も、もしかたらこの花畑がある土地、全部。
「そうだよ」
当たり前のことを言うかのように、フーカはさらりと答えた。そして付け加えた。
「あたしのもの」
「こんなに広い場所が? すごいね!」
「だって、ここは……ううん、なんでもない」
家についてしばらくして優奈は気がついた。フーカは家に一人で暮らしているようだった。お母さんやお父さんが帰ってこないので聞いてみたら、そう教えてくれた。一人より二人の方が楽しいはずだ。フーカも「優奈ちゃんが一緒にいてくれて楽しい」と笑顔で言ってくれた。
「近くに他に遊ぶ子っていないのかな?」
フーカの家に来る時に思ったが、フーカの家の周りに他の家はなかった。
「いないよ。それに……」
口を閉ざす。フーカはカップの中のハーブティーを揺らした。
「優奈ちゃんがいい。優しい子だもん」
会うのは初めてなのに優奈のことをよく知っているような言い方をする。なんだか疑問が残って優奈が口を開こうとした時、フーカが先に呟いた。
「花にもね、心があるの」
フーカの目が真っ直ぐ向いている。
「まだ咲いていたい花が、他の人の手によって自分勝手にとられてしまうと、花は咲き続けられなくなって枯れてしまう」
──優奈にあげようと思って。
前に森に行った時、雪の中で咲いていた黄色い花を、お父さんがとろうとしていた。花からしてみたら、まだ咲きたいのに人の勝手でとられてしまうのは嫌だろう。
「『あの時』の花はまだだれかにとられたくないみたいだったの。そんな時とられるのを優奈ちゃんは止めてくれた。気持ちがわかってくれたみたいで……嬉しかった。だからあたし、優しい優奈ちゃんとお友達になりたいと思ったの」
思わず「あっ」と声が出た。
もう一度頭の中に、雪の中に咲いた黄色い花が浮かぶ。そしてあの黄色い花びらはフーカのワンピースの色と重なった。
「まさか、あの時の花がフーカちゃんだったりして?」
「花自体があたしではないよ。『あの花を作った』のがあたし。この花畑をつくったのも、あたし。『創造主』ってことかな。あの花はあたしが作り出したたくさんあるものの一つ」
フーカは花があたしというわけではないよと言わんばかりに首を横に振った。
ちょっとよくわからなくて困っていると、フーカが窺うように言ってきた。
「びっくりしたかな? ……こんな子と遊んで嫌?」
「そんなことない、嫌じゃないよ! とっても楽しい!」
不思議な子と友達になれたみたいで、優奈の鼓動は高鳴っていた。
時間を忘れてずっと遊んでいた。そんなふうに遊んでどのくらいの時間が経っただろう。優奈は気がついた。
「そろそろ帰らなくちゃ! お母さんたちが待ってるし、冬って暗くなるのが早いって言われるし!」
「また明日も遊ぼうよ、一緒に遊びたいな!」
「うん! 学校が終わってから来るよ!」
「光の粉が目印だよ」
帰り道まで送って行くよ。フーカに言われ、家の扉を開けると、優奈は不思議なことに気がついた。風景が違う。来た時はフルーツのなる木が生えている、川の流れる花畑だったはずだ。
しかし目の前には小川のほとりに黄色い花が満開に咲き乱れている。オレンジのめしべとおしべに黄色の花びらをした花──かつて雪の中で見た花と同じような花──が、一面に広がって辺りを埋め尽くして、まるでじゅうたんのようになっていた。フーカのスカートの色と同じだった。思わず眩しいと感じて目を閉じかけた。優奈の反応を見たフーカが嬉しそうにクスクスと声を出す。
「きれいでしょ?」
驚く優奈を横目ににこりと笑う。
「この花が一番好きな花なの。ワンピースにするくらいさ。あたし、この景色が一番好き。だから優奈ちゃんに見せたかったの。わざと『出る場所』を変えたんだよ」
花畑が光に照らされて輝いている。花自体が光っているわけではないだろう……と、優奈はあるものに気がついた。
「ねえ、何か光ってる花がない?」
握り拳くらいはある他の黄色い花の二回りは大きく、茎も葉もしっかりと上に向いている花。他の花を寄せ付けないようにしながら、一本だけ、家の前に生えていたのでよくわかった。光の粉をまとっているみたいに花も茎も葉も輝きを放っている。
なんのことか気がついてフーカは光り輝く花を見た。
「あれ? あれは……その……」
言葉に詰まっているフーカ。いつのまにか笑顔が苦笑いに変わる。
「お友達の優奈ちゃんにはこれだけ教えてあげるよ。とても大事な花なの」
そう言うフーカの声はとても静かだった。
「例えばだけど、あれで花冠を作っちゃ……」
フーカに作ってもらった花冠を触る。あれが冠になれば光輝いて見えるだろう……。
「だめ。絶対とっちゃだめっ。あれだけは、だめ」
ピシャリと厳しめの口調で言うフーカの言葉には力があった。優奈はただ「わかった」とだけ返すしかなくなってしまった。
「その代わりと言ってはなんだけど」
フーカは足元にあった黄色い小さな花を手折って優奈に差し出した。
「これあげるよ」
「う……うん、ありがとう」
フーカから小さな花を渡される。
フーカは森に向かって歩き出している。優奈も歩き出した。森に入り、木についた光の粉が見えたところで後の道順はわかった。
「ここからずっと真っ直ぐ行くと帰れるよ」
「うん、明日も来るよ!」
手を振って、バイバイ。優奈は木についた光る粉が示す道を歩いていく。そして初めてフーカと出会った林道の入り口に出た。ここまで来たら家はもう目の前だ。
空を見上げて気がつく。すっかり暗くなっているのかと思っていたのに、たくさん遊んだはずなのに、まだ空は青い。太陽は、フーカに出会う前と同じ位置のままだった。
そして、フーカからもらった花冠も、花のブローチも、小さな黄色い花も、ふと見ると、茶色く枯れて触るとすぐに花びらがばらばらに落ちてしまった。
「そんな場所あるはずないよ! こんな寒い冬に、花畑? 今、外は雪がいっぱい積もってるんだよ? 夢でも見てるんでしょ!」
次の日、学校でクラスの友達にフーカと秘密の場所のことを自慢しようと思っていたら、案の定そんなことを言われてしまった。
「ほんとにすごくきれいな場所なんだって! 花はたくさん咲いてるし、川も宝石みたいに透明だし、風も春みたいに暖かいし! 食べ物もおいしいの! そこに暮らしているフーカって子は……」
「ないない、信じらんない」
バカにしたような笑いとともに首を横に振られてしまう。
「本当だもん!」
「嘘じゃない証拠でもあるの?」
うっと言葉に詰まる。
「持って帰ってきた花冠や花とかは、もう全部茶色く枯れていて、触ったらパサパサに崩れちゃったけど……」
見る影も無くなって悲しかったのを思い出す。誰にも見られる前に捨てるしかなくなったのだった。風に吹かれて粉のように散っていたものもある。
「ほら! やっぱりおかしい! 優奈ちゃんが嘘つきだなんて思わなかった!」
「ちょ、ちょっと! そんなこと」
他の子に「いこっ」と誘って自分の元から離れていく友達。一人残される優奈。
なんですぐに枯れちゃったんだろう。森を出る前はきれいに咲いてたのに。
でもどうにかして枯れずに持ってくる方法を考えて、クラスの子にもお母さんやお父さんにも伝えたい。
考えて、あっと思いついた。
花畑に咲いている花より、もっともっときれいに咲いていて、すぐに枯れなさそうな花があるではないか。それを持ってこればいいんだ。
見せればみんな信じてくれるに決まってる。こんなすごい花がある自慢の森がお父さんの森だなんて羨ましいな、びっくりするに決まってる。
ダメって言われたけれど、あの光り輝く黄色の花なら……。
優奈は心に決めた。
学校が終わりランドセルを置いてから、森の入り口でフーカを見つけた。フーカは家に招いてお茶やケーキを用意してくれたあと、「今日は昨日の帰りに通った黄色の花で花冠を作ろうよ」と誘ってくれた。家を出るとまた黄色の花畑に出る。そこに光る花もある。
さっそく花冠を作り始めるフーカは楽しそうだった。でももしこの花冠をもらったところで、帰る頃には昨日みたいにまた枯れてしまうのかなと思うと、優奈はなんとも言えない悲しい気持ちになった。
「あのさ、ずっと気になっていたことがあるんだけど」
「どうしたの?」
フーカは何も不思議なことなんてない調子で答えた。
「ここの花、私の家に帰る頃にはもう枯れちゃったの」
花冠を編むフーカの小さい手が一瞬止まる。
「せっかく作ってくれた花冠もブローチもぜーんぶだめになっちゃって」
いろんな色が入ったかわいい花冠はお母さんに一番最初に見せたかった。ブローチも、まるで大人がつけているみたいでお父さんに自慢したかった。その日のうちどころか、帰って玄関の前で、全部枯れ果てていた。
「なんで花が枯れちゃうの? お花ってもっと長持ちするよね?」
「それは……」
フーカは口ごもる。何も言わずにいる。
「今日、すごくきれいなこの場所のことを話したら『証拠』がないから友達に信じてもらえなかった」
本当のことなのに、嘘つきだなんて言われてしまった。
「お花、枯れちゃって家に飾ることもできないの」
フーカは結局何も言わない。何かを知っているようなのに何も教えてくれない。
「何か知ってる?」
「たぶん、空気が違うから……」
ポツリとつぶやいた。
「ここから帰るとね、来た時と同じ時間だったの。なんで?」
太陽の場所も時計の針もほとんど一緒だった。何時間も遊んだ感覚があるのに、お母さんから「どこで長い時間遊んできたの!」と怒られることもなかった。
「たぶん、時間の流れ方が違うから……」
「……どういうこと?」
「世界が違う。それ以上は教えられない」
教えられないって?
思わず優奈は立ち上がった。
「フーカちゃんって秘密ばっかり! なら、これだけは教えてよ。あの光る黄色い花はどうしてとっちゃだめなの?」
優奈は思わず光る花を指差した。フーカはビクッと体を震わせた。
「それは……あたしの花だから……あたしの。だから、だめ」
あたしの花と言った。繰り返して。
「何それ! この場所の花ってみんなフーカちゃんのものなんでしょ? 言ってたよね、持ち主も作ったのもフーカちゃんなんでしょ? 他のは持って帰ってもいいのに、どうしてあれはだめなの?」
光り輝く花。こんなにきれいな花は見たことがない。持って帰ったら、クラスの友達にこの場所のことも、フーカのことも信じてもらえるかもしれない。
信じてくれなかった友達の顔を思い出した。嘘つき呼ばわりされてしまったのも思い出した。その時に感じた悔しい気持ちも悲しい気持ちもまた湧き上がってくる。
あれなら持って帰ったとしてもすぐに枯れないだろう。
フーカからだめと言われてしまった。自分の花で自分のものだからと。
花が大事?
でもこの場所にはたくさんの花で溢れてる。一つくらい大きな花をとってもいいじゃないか? 持って帰ってもいいんじゃないか? 気づかれないんじゃないかな?
「実はその花にはわけがあって……えっとね」
「もういい! 帰る!」
帰る方向は光の目印がある左側だ。光る花を右手に見ながら、いつも歩いていた。優奈はちゃんと帰る方向がわかっている。
でも、帰ると言いながら優奈は右に向かった。光り輝く黄色の花のある方へ。そして優奈は急いで、フーカに追いつかれないように、足を大きく前に出して、走っていく。
あの一番きれいで大きくて光り輝く花があれば、きっと帰った後でも枯れずに残ってくれるはず……!
「優奈ちゃん! 何してるの!」
気がついたフーカが後を追いかけてくるものの、その頃にはもう花は優奈の目の前だった。あと少しのところで優奈は花の前でつまずいてしまった。でも指先には花の茎がある。指の力を込める。花の太い茎が曲がった。
「あたしの命とその光る花の命は繋がってるの! 優しい優奈ちゃんは、そんなことしないはずだよね!」
後ろからそんな声が聞こえたような気がした。
一番光ってきれいな花を手折ろうとする。
「だめ! それをとると、あたしがつくったこの世界ごと消え……!」
消えた。
目の前の光り輝く花も、黄色の花の花畑も、フーカの声も、フーカの姿も。思わず目を瞑ったのか目の前が真っ暗になる。そしてもう一度目を開けると森の中に一人で座り込んでいることに気がついた。
足元には、茎が折れて茶色く枯れ果てた花が一つ。
林道に戻り家に帰るための目印はなくなっていて、ただただ道に迷うばかりとなり、夜になってようやく森から抜け出した。
次の日から、フーカはどこにも立っていなかった。森を歩いてみても目印が見つからなかった。優奈はそれ以外あの場所へ行く手がかりを知らない。
優奈がどんなに森の奥深くに行こうとも、花に溢れたあの場所には二度と行けなかった。
フーカにも二度と会えなかった。
終
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