魔道具箱
リオンに連れられて花凛は街の大通りへと向かった。石畳で出来た大通りはたくさんの獣人で溢れかえっていた。まるでゲームのような雰囲気に花凛は、あちらこちらに視線を彷徨わせながら、目を輝かせる。
「すごい!」
猫耳の人。犬耳の人。頭に長い耳を生やした兎っぽい人もいれば、鱗を持つ蛇のような人もいる。
「本当に、いろんな獣人がいるんだ……」
落ち着きなく見回す花凛に、リオンが隣で微笑んだ。
「珍しい?」
「うん! だって、私の世界には獣人なんていなかったから」
「……そうだね」
リオンは頷きながら、花凛の歩く速度に合わせてゆっくりと歩いていた。
「今日は、まず冒険者として必要なものを揃えようか」
「うん!」
花凛が元気よく返事をすると、リオンは少し嬉しそうに目を細めた。
向かったのは、大通りに面する高級そうな店だった。
看板には剣と盾のようなものが描かれている。
「ここは?」
「冒険者向けの道具を扱っている店だよ。武器や防具のほか、薬や魔法道具なんかもある。品質は俺のお墨付きだよ」
「魔法道具……!」
一番聴いて欲しかった品質の話ではなく、魔道具という単語に目を輝かせた花凛に、リオンは少し苦笑した。
「花凛、落ち着いて」
「だって、魔法道具だよ? 落ち着けないよ!」
「はいはい、そうだね」
リオンは苦笑を微笑に変えると店のドアを開けた。開けてくれた扉を潜って、花凛は店の中へ入った。
店内には剣や鎧、様々な道具が見やすいように陳列されていた。
剣や短剣、丈夫そうな革の防具に、色とりどりの瓶に入った液体。見たことのない道具もあって、あれが魔道具なのかな、と花凛は店内を忙しく見渡した。
「すごい……何から見ればいいんだろう……」
「まずは魔道具箱かな」
「アイテムボックス!」
ゲームや小説でよく見た単語に花凛のテンションは上がる。
「そう。冒険に必要なものを入れるためのものだよ」
そう言いながらリオンは左手を見せた。その手首には金色の腕輪が付けられている。花凛はその腕輪を見ながら首を傾げた。
「これが俺の魔道具箱。真ん中の石が魔法石になってるんだ」
「そうなんだ! 便利だね」
花凛はマジマジと腕輪につけられた魔法石と呼ばれた石を見る。石というよりは宝石と呼べそうな半円球の魔法石は、リオンの目と同じ黄色とも緑とも見える不思議な色合いをしていた。
「花凛ちゃんは、どんなデザインが良いとかある?」
「デザインが色々あるんだ……私、そういうの選ぶの苦手だからなぁ……」
キラキラした宝石は綺麗だと思う。けれど、綺麗だと思うだけで、花凛は宝飾品の類を欲しいと思ったことはなく、選んできたこともなかった。
「……じゃあ、俺も同じデザインで良い?」
「そういうのも出来るんだ? リオン君がいいなら、それでお願い!」
コクコクと頷いた花凛にリオンは嬉しそうに笑う。
「次は防具だね」
「防具かぁ……リオン君のオススメはある?」
「花凛ちゃんなら神術使い用の防具が軽くて良いと思う」
「……そうだね、いきなり剣とか使える自信はないし」
「じゃあ、こっちかな」
リオンに連れられて服が飾られている方へ向かう。花凛からは、ただの可愛い服に見えるのに、全て神術使い用の防具らしい。
「どれも基本的な防御の術はかかってるから、好きな服を選んでみて?」
「好きな……服……」
大きな店だけあって、品揃えは良い。けれど、宝飾品と同じく、服にあまり興味がない花凛には、選べないくらいの量だった。
「特に好みがないなら、俺が選んで良い?」
「……その方が助かるかも」
リオンが、また嬉しそうに笑って、サッと2着の服を選ぶ。紺色のワンピースタイプの服と白いシャツにブラウンのズボンタイプの服だった。
「花凛ちゃんなら赤とか鮮やかな色も似合うと思うんだけど。……でも、こっちの方が好きでしょ?」
「うん! 凄く着やすそう!」
「じゃあ、サイズを合わせてもらおう?」
リオンがサッと女性店員を呼ぶと、花凛たちは彼女に連れられて店の奥へ通された。そこには応接室があって、リオンは備え付けられたソファに座った。花凛はさらに奥の小部屋に通されて、体のサイズを測られる。
体のあちこちを測られて少し疲れた様子で小部屋から出てきた花凛に、リオンはふわりと微笑んだ。
「お疲れ様、花凛ちゃん。アイテムボックスも服も明日には出来るみたいだよ」
「明日……」
今日はもう疲れていたから、ちょうど良かったと思いながら花凛は頷く。
「晩御飯でも食べて帰って、明日はダンジョンに潜ってみようか」
「うん! ……あ、お代は明日でいいのかな?」
猫神様がお金もくれると言っていたけれど、花凛の手元に今はない。その事実に、少し焦った花凛にリオンは笑いながら首を振った。
「もう俺が払ったから大丈夫」
「え……? ……ありがとう。帰ったら猫神様から貰ったお金から払うね」
「必要ないよ。俺からプレゼントさせて?」
リオンの言葉にビックリしながら花凛は首を横に振る。
「え、でも、悪いよ……」
「花凛ちゃんは、俺の命の恩人なんだ。これくらいはさせてよ?」
「でも……」
「……じゃあ、また一つ、お願い聴いてくれる?」
あくまでリオンがお金を払うことは譲ってくれない様子で、彼はニコニコと笑っていた。
「……私に出来ることなら」
「良かった」
リオンが立ち上がって、花凛の側にやって来る。そして左手の腕輪から、柔らかな布で出来た黒いチョーカーを取り出して、花凛の首につけた。チョーカーには、またリオンの瞳と同じ不思議な色合いの宝石がついている。
「防御の術が付いてる首巻きなんだ。これを肌身離さず、付けて欲しい」
「……余計に支払い、増えてない?」
「余計じゃないし、増えないよ。これは俺の私物だから。君の居た世界と、ここじゃ治安が違う。ホントなら、もっと色々付けて欲しいけど、今はとりあえず首巻きしか用意できなかったから、とりあえずコレは付けてて欲しいんだ」
確かに安全な日本と、この多種多様な獣人が暮らす世界では治安に差が生まれるだろう。花凛が、その説得に頷くと、リオンはまた嬉しそうに笑った。
「さてと。じゃあ、ご飯に行こっか。花凛ちゃんと一緒に行きたい店が、たくさんあるんだ。今日は、何が食べたい気分?」
「うーん……お肉、かなぁ」
「了解。じゃあ、行こう」
自然とリオンに手を繋がれて、花凛はドキリとしながら、店を出たのだった。




