第1話:神を殺す右腕(2/4)――「境界線の蹂躙」
1. 演算の暴力
実習生の放ったプラズマの奔流が、レイジの眼前で黒い霧に霧散する。それは「消火」ではなく、熱源そのものの存在定義をシステムから「剥離」させる異質な現象だった。
「演算エラー……? 補正が効かない! クソッ、一斉射だ!」
実習生3名が腕のデバイスを同期させる。彼らの背後に展開されるのは、中位ランクの標準術式**『火雷の陣』**。幾何学的な紅い回路が虚空に浮き、超高圧の電撃と炎が収束する。
「レイジ、よせ! 生身で第II階梯の合成演算を受ける気か!」
神代の制止をよそに、レイジは右拳を固く握りしめた。彼の視界では、世界が「数式」で構成されたグリッドに見えている。だが、彼はその数式を解かない。ただ、**「不愉快だ」**という感情一点にすべての熱量を叩きつける。
2. 「無銘」の咆哮
レイジの右腕、肘から先の黒い痣が、まるで脈動する心臓のように赤黒く発光した。
「――ぶっ壊れろ」
彼が地を蹴った瞬間、ナノマシンが上げるはずの駆動音は一切しなかった。代わりに響いたのは、空間そのものが軋み、悲鳴を上げるような**「破砕音」**。
レイジの拳が『火雷の陣』の中心に直撃する。本来、物理的な接触が不可能なエネルギー体であるはずの陣が、ガラス細工のように粉々に砕け散った。爆風が実習生たちを吹き飛ばし、スラムの錆びた地面に巨大なクレーターを穿つ。
「バカな……。術式を……概念ごと殴り壊しただと……?」
3. 青い稲妻の介入
砂塵が舞う中、実習生の一人が震える手で通報プロトコルを起動しようとしたその時。
上空から、一筋の蒼い閃光が奔った。
「――見苦しいわね。Cランクごときが、掃き溜めで後れを取るなんて」
着地と同時に発生した衝撃波が、レイジと実習生たちの間を断絶する。そこに立っていたのは、蒼い制服を完璧に着こなした少女、蒼井 ヒカリだった。彼女の周囲では、大気中のナノマシンが超高速振動し、青白い放電現象を引き起こしている。
「特区国立演算戦技高等学院、Aクラス5位。蒼井 ヒカリよ」
彼女の瞳は、レイジの右腕を冷徹に射抜いていた。
「あなたのその『力』……。システム上には存在しない、極めて不快なバグ(ノイズ)ね。ここで私が、綺麗にデリートしてあげる」
4. 速度の絶対境界
ヒカリが指先をレイジに向ける。
「第III階梯・加速演算――『蒼雷・一閃』」
次の瞬間、レイジの動体視力すら置き去りにする「速度」が襲いかかる。ヒカリの身体は文字通り稲妻と化し、一瞬でレイジの懐へと潜り込んだ




