■ 第1話:神を殺す右腕(1/4)
1. 境界線のジャンク屋
第24重層特別区(セクター24)。別名、アビス。
上層からの廃熱で常に陽炎が揺れるこのスラムで、**九十九 黎士**は、山積みにされた演算廃棄物の山に手を突っ込んでいた。
「おいレイジ、またそんな古臭い基板を拾ってきて……。そんなの、今のナノマシン規格じゃ動かねえぞ」
背後で声をかけたのは、酒瓶を片手にふらつく中年男、**神代 黎**だ。アカデミーの教師という肩書きとは裏腹に、その瞳には虚無が張り付いている。
「関係ねえよ。数式で動かねえなら、気合で動かす。それが俺の流儀だ」
レイジが拾い上げたのは、旧時代のバイクのエンジンパーツだった。彼の右腕、肘から先を覆う不気味な黒い痣が、一瞬だけ脈動する。
2. 招かれざる「実習」
その時、スラムの重苦しい空気を切り裂くように、上空から数条の光が降り注いだ。
「適合率確認。ターゲット、セクター24の未登録市民――コード:バグ」
機械的なアナウンスと共に着地したのは、白銀の装甲服に身を包んだアカデミーの生徒たち。中位ランクの「バグ・ハンター」の実習生だ。彼らにとって、この街の住人を排除するのは、スコアを稼ぐための作業に過ぎない。
「……またか。あいつら、俺たちのことをデータ上のゴミだと思ってやがる」
レイジの目が、鋭く細められた。実習生の一人が冷酷に右手をかざす。ナノマシンがパケット展開され、大気中の酸素が瞬時にプラズマ化、レイジの自宅代わりのジャンク小屋を焼き払おうとする。
3. 「理不尽」への反撃
「逃げろ、レイジ! 今のランクじゃ太刀打ちできねえ!」
神代が叫ぶが、レイジは動かない。いや、前へ踏み出した。
「演算精度? 適合率? ……知るかよ。俺の右腕が、そいつを『美しくねえ』って言ってんだ」
レイジの右腕に走る黒い痣が、物理法則を無視した黒い霧を噴出させる。
オラクル・システムが算出した「プラズマによる燃焼」という確定した未来を、その黒い霧が物理的に**「食い破った」**。
「なっ……演算がキャンセルされた!? 成功率100%のはずだぞ!」
驚愕する実習生。彼らの背後、遥か上層のスカイ・テラスから、その様子を冷ややかに見下ろす瞳があった。
学園序列1位――白鷺 迅。
「……見つけたぞ。システムを汚す、不規則性の種火」




