連絡先は自分で掴み盗れ
入学式の翌日からは、早速通常授業が始まった。
授業のレベルが高すぎて理解できない、というようなことにならないか心配だったが、その内容は俺が通っていた高校と同じくらいだった。
先生の教え方が上手いおかげで、理解しやすいまである。
「拙者たちもスペシャリストといえど、学力に関しては高いとは限らないので、内容が難しくないのは必然でござる」
「なるほど」
今は、昼休みの時間。
机を動かして、三首と対面で弁当を食べる準備をする。
「誠一さん、三首さん、私も一緒に食べていいですか?」
「いいけど……盗むなよ?」
「しませんよ」
静枷が弁当と椅子を持ってきたので、少し配置を変えて、三人で食べられるようにした。
「じゃ、いただきます」
「「いただきます」」
手を合わせて挨拶をし、弁当のふたを開いた。
今日のメニューはスタンダードにハンバーグ弁当だ。
「……誠一さんと三首さん、お弁当が一緒ですね」
「両方俺が作ったからな」
三首は薄味の保存食しか作れなかったので、料理の担当は俺になった。
護衛してくれている分、それくらいはしてあげたい。
「へー、上手なものですね」
「結構一人暮らし歴長いからな」
「というと?」
「両親が海外で働いてるから、家には基本俺しかいないんだ。そのお陰で、家事は大体できる」
「さすが主殿でござる」
「適当なヨイショやめろ。……まあ、多分その一人暮らしとかで、いなくなっても誰にも影響が無いから、こんな所に来ることになったんだろうなぁ」
「……主殿って、時々ものすごく卑屈になるでござるよね」
「こんな所って――私は、誠一さんに会えて、良かったと思ってますよ」
身長が低い静枷が、上目遣いで見つめてくる。
垂れた目と、小動物的な印象も相まって、とても可愛らしいのだが――。
「そう言うなら、まず財布を盗るのをやめようか」
「あ、すみません」
いつの間にかポケットから消えていた財布と、ついでに黒い布が静枷の袖から出てきた。
「これ……俺の靴下じゃねえか! どうやって盗ったんだよ!?」
「ヤダ汚い。手、洗ってきますね」
「取ったのお前だろ!」
俺の靴下を嫌そうに指先でつまんだ静枷と、それを履き直した俺は、仲良く手を洗いに行ってから、昼食を再開した。
「静枷の弁当は……自分で作ったのか?」
彼女の弁当は、コロッケ、タコさんウィンナー、出し巻き卵と、テンプレ的な品目が並んでいる。
なかなか上手い……が、俺の方が上手だな。多分。
と、心の中で悲しいマウントを取っていると、意外な答えが返って来た。
「これは先生が作ってくれたんです」
「先生が?」
驚いて、教壇の方を見てみると、確かに先生も静枷と同じような弁当を食べていた。
「先生は弁当のサービスまで行っているのでござるか?」
「多分してないと思いますよ。私は先生と同室なので、特別に作ってもらったんです」
「先生と同室とかあるんだ」
「私が盗ってきたものを返却する必要があるので……」
「最近、夜に無くした物を返してくれるサンタさんがいるという噂があるのでござるが……」
「それ先生です」
静枷が盗み過ぎて、先生が季節外れのサンタになっとる。
「ホント改めろよ、そのクセ」
「精進します」
言いながら袖から出てきた俺のスマホを、ジト目で睨みながら受け取った。
その時、丁度メールの通知があったので、一応目を通しておくため、ロックを解除する。
「ですが、それは意図的に盗ったんですよ?」
「は?」
『登録しておきました』
メッセージの送り主の名前は――内盗静枷。
コイツ、人のスマホを盗んで、勝手に自分の連絡先を追加しやがった。
ロックは……静枷なら解除できそうだな。
「三首さんとも繋ぎたいんですけど……持ってないんですよね」
「なんで知ってるのでござるか……」
「体中まさぐったので」
「静枷って、気弱な見た目なのに結構強引だよな……」
「二人との繋がりを、絶やしたくないからですよ」
静枷は、恥ずかしいことを堂々と言いながら、弁当の主役であるタコさんウィンナーを口に入れた。
「盗った本人が言うのもアレですけど、普通はスマホを盗られて勝手に触られたら、絶縁されてもおかしくないですよ」
「本当にアレだな」
「怒ったりしないんですか?」
「最終的に返してくれているので。けど、また下着を盗んだら絶縁するでござる」
「もう呆れの域にいってるんだよな……」
「普通はそうはならないんですって」
いつの間にか、超至近距離に静枷の顔が迫っていた。
「アナタ、本当に一般人なんですか?」
息がかかり、鼻と鼻が触れ合うような距離で、瞳を覗き込んでくる。
静枷の目は、深紫のおどろおどろしいものであり、引き込まれて、落ちていくような錯覚を覚えた。
盗みの天才に全てを見透かされているみたいで、俺は……目を、逸らしてしまった。
「……一般人だよ。何の才能も、能力もない」
「そうですか」
静枷は、あっさりと引き下がって弁当の片づけを始めた。
「主殿……自分を卑下し過ぎでござるよ。何か特技とかないのでござるか?」
「特技なー。あ、耳はちょっとだけ自信あるぞ」
「耳?」
俺は、後ろを向いて目を瞑った。
「手を叩いてくれ。どっちが叩いたか当ててやる」
「はあ」
右後ろから、パチっと音が鳴った。
「この控え目な音は、静枷だな」
「え、合ってます」
「……方向から割り出したのではないでござるか?」
「なら場所を変えてみてくれ」
真後ろから、もう一拍。
この、静粛とした拍手は……。
「三首だな」
「では、これは?」
「静枷」
「これは?」
「もっかい静香」
「じゃあこれは!?」
「どっちでもない……多分先生」
「正解です」
その後も、場所も強さもバラバラな数十回の拍手の主を、全て当て続けた。
「……なんでござるか、その特技」
「浮かんでくるんだよね。手を叩いた人の顔が」
「なんかちょっと……気持ち悪いです」
「それはちょっと違くない!?」




