表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

4 今もなお、この胸に残る温もりは




Γママー、サンタさん今日くるかなぁ?」


 温かな光が満ちているマンションのリビングで、5歳になる娘が私の腕の中で絵本を読みながら、そう問いかけてきた。




 あれから、20年は経っただろうか。


 私の運命は、あの冬の夜を境に変わった。ぼんやりとしか覚えていないが、私は悲惨な環境から救い出され、養父母に育てられた。二人とも優しく、精一杯の愛情を私に注いでくれた。おかげで私は不自由なく育ち、仕事を得、今は愛する夫と娘とで家族を築いている。その可愛い娘の無邪気な問いかけに、私は微笑みながら答えを返した。


「ええ、きっと来るわ。紗矢がいい子にしてたらね」






 ドクン。


 そう答えた時、私の胸の奥で、なぜか言葉にできない不思議な疼きが走った。


Γ大丈夫だもん!紗矢はいい子にしてるし、サンタさんに来てくれるようにお祈りだってしてるもん!」






 ドクン。


 なんだろう?

 何かを忘れているような……

 それもすごく大事な事を……


「……ねえ、ママ?サンタさんお祈りしたら来るよね?」






 ドクン。


 その問いに、考えるより先に口が動いた。


「――違うわ。『声に出して、叫ぶのよ』……?」





 ……???


 ちょっと待って。

 今のは、何!?


 私は自分でも驚いて、言葉を止めた。

 そんなの……誰にも教わってないのに。 だって養父母はいつも「サンタさんはいい子にして、お願いしていたらきっとお空からくるよ」と言っていたのに。






「えーさけぶの?『助けてー!』って?」


 娘の笑いながら言う声が、やけにはっきりと部屋に響いた。



 その瞬間。吹雪のようなノイズと共に、すりガラスの向こう側にいるような「帽子をかぶった黒い影」が一瞬だけ蘇る。


 怖くはない。

 なぜか、ちっとも怖くない黒い影。

 むしろ、その影は凍てつくような世界で唯一、私を「人間」として扱ってくれたほの温かさを感じて――。






「……ママ?」


「ごめんごめん。なんでもないわ。さあ、もう寝なきゃ。早く寝ないとサンタさん、通り過ぎちゃうよ?」


「それやだぁー!紗矢、もうねるー!」


 寝室に慌てて駆け込む娘を見ながら、私はソファーに絵本を置き、リビングの明かりを落とした。







 娘を寝かしつけた後、私はふと思い立ち、棚の奥にしまっていた小物入れを開け、小さなお守り袋を取り出した。そこには、幼い頃からなぜか大切に持っている、古ぼけた飴玉の包み紙が一つだけ入っている。


 中身はとっくにない、ただのゴミ。 けれど、ずっと捨てられなかった。それは、不安に襲われたとき、これを握ると何故か安心感に包まれたから。


 私は手の中の包み紙をそっと握りしめた。もしかしたら、これが「黒い影の人」と何か関係あるのかもしれない。





 そして、もう一つ。

 絵本で見たのか、TVで見たのかわからないけれど、ずっと忘れられないフレーズがある。






 私は寝室に眠る娘の頭を撫でながら、そのフレーズをそっと呟いてみた。



「……『合言葉は、サンタクロース』よ」



 言ったところで、何も起こらない。

 けれど、何故か胸の奥が温かく、そして少しだけ淋しさが込み上げてくる。


 どこかで私は、きっとこの言葉に救われたんだろう。それを思い出せないのが、残念でならない。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ