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第4話『えぇ。構いませんよ。その時が来たら』

今日は楽しい楽しいハジメ君の試合の日……なのだが!


何故か私は本家の人間からの嫌がらせに等しい執拗な電話によって観戦出来なくなってしまった。


意味が分からない。


「詩織さん……」


「やっぱり駄目そうですか?」


「ごめんなさい。どうやら私でないと解決出来ない問題の様です」


「そっか……残念」


「でも。すぐに終わらせて帰ってきますから、先に応援していて下さい」


「うん。任せて」


「詩織さんも無理はしないで下さいね」


「ふふ。大丈夫ですよ。私、強いですから」


無邪気に笑う紗理奈ちゃんと綾乃ちゃんに手を振り、私は戦闘モードに移行しつつ路地裏へ入り、人の視線が切れた瞬間に跳んだ。


すぐ横にあるビルの非常階段の手すりに足を掛け、さらに上へ。


二つのビルを行き来しながら二階三階と上に登ってゆく。


そして、奥上へ上がった私は、携帯を取り出し、状況を確認した。


「もしもし?」


【あっ、詩織ちゃん? 本当にごめんね。まさか、こんな事になるなんて】


「いえ。姉様は悪くありませんよ。ただ、早急に事態を解決したいので状況を教えて下さい」


【ごめんね。本当にごめんね。目標は封印石を破壊して、東の方に逃走。今追跡している子の話だと、後一時間くらいで首都に着くと思う】


「五百年以上眠ってた割には元気な狐ですね。分かりました。途中で処理します」


【お願い! でも、無理はしないでね】


「無理? 誰に言ってるんですか。姉様」


私は電話を切り、意識を集中させながら空いっぱいに力を薄く放ち、目標を探し出す。


少し離れた場所で、黒い意思を纏った力の気配が西からこちらに向かって飛んできているのを感じ、ビルの上を飛び移りながら、自らの体に力を溜めていった。


そして、移動速度をさらに加速させ右足に力を集中させて、呑気に空を飛んでいる狐目掛けて飛び上がり、十分に加速を得た体で右足を狐目掛けて振り下ろした。


十分な威力はあった様で、狐は体を横から折り曲げながら、やや離れた場所にあった山に吹き飛ばされる。


私は更なる追撃を与えるべく、狐の元に降り立つのだった。


しかし、思っていたよりもデカい狐と、周辺被害を見て、眉間に皺を寄せつつ面倒な事になったなと酒井に電話をするのだった。


【はい! 酒井です! お嬢様!? 無事ですか!? 凄い衝撃音が!】


「……あー。ごめん。それ、私」


【はぁ!? え!? あ、申し訳ございません。いや、あの。どうやら先ほどの爆発はお嬢様が、はい、はい。そうです】


「あー。という訳だから、後の処理はお願いね」


私は小言が帰ってくる前にさっさと電話を切り、土煙の中立ち上がろうとしている狐の頭を踏みつけて、地面に押し付けた。


「動くな」


『この、ワタクシの高貴な、頭にっ! 下賎な人間の小娘がっ!』


「騒がしい狐だね。まぁ、貴女が狐業界で高貴かどうか知らないけど、私ら人間にとっては等しく獣なんだ。それに、アンタの汚れ切った魂じゃあ毛皮にしても臭くて汚いし、使い物にならないから、そのまま土に還りなよ」


『舐めるなよ! 小娘!! ワタクシは、世界の全てをワタクシの物に!』


「もう貴女の時代は終わったんだよ。さ、お前の死骸を処理する準備も出来たみたいだし。終わろうか」


私は周辺に分家の後処理部隊が準備完了したのを確認し、狐の頭から足をどけて、一歩下がった。


瞬間、狐は獣らしく吠え、歯ぎしりをしながら私に向かって口を開き突っ込んでくる。


何のフェイントもない、見え見えの攻撃だ。


こんな雑魚に大人数集めて、てんやわんやとは。かつて東の守護を託された一族、東篠院の名が泣くよ。


でも、まぁ仕方ないか。


この世界はどんどん神秘が失われているし、見えぬモノへの敬意も恐れも消えていっている。


やがて私たちの様な人間も妖も居場所を失くしてしまうだろう。


でもそれは世界の必然だ。


天上に住まう神が消えたように、やがて世界は傲慢な者たちで満たされ、世界から希望は消え、破滅する。


それが人類の選んだ道ならば、私は何も言う事はない。


ただ、それだけだ。


『我を畏れよ!! 人間!!』


「言ったでしょ。貴女の時代はもう……終わったんだ、ってさ」


私は狐の突進をかわしつつ、その首に札を貼った。


そして、直後に右手を握り、爆発させる。


大量の黒い血を口から、首から吐き出しながら狐は地面に倒れた。


かつて世界を騒がせた大妖怪も、時代が進み、神秘が失われればこんなものだ。


狐の目には悔しさと、虚しさが混ざった様な感情が込められていた様に思う。


いっそこの狐が畏れられていた時代に消える事が出来たなら、満足できただろうに。


こんな感情の無い、想いのない機械ばかりの時代で、一匹の獣の様に処理されなくてはいけないとは、いっそ哀れであった。


だが、まぁ、それは私も同じか。


ヒソヒソと私の力に怯え、聞こえていないとでも思っているのか恐怖を乗せた言葉が周囲を飛び交っている。


いつもの事だ。


「通して~。通してぇ~」


「こ、こちらは危険です! 神楽様!」


「もう! 通してったら。当主命令ですよっ!」


「は、はい……! おい! 道を開けろ! 神楽様が通る。ただし、傷一つ付けるな!」


私は大騒ぎの中、ようやく到着した我が親愛なる姉君に視線を向ける。


そして一歩踏み出すと、いつもの事だが、警戒した様に私と姉の間に何人かの護衛が入り、緊張した様子を私を見るのだった。


別に取って食いやしないってのに。


「姉様。後の事は任せても良いですか?」


「えっと~。はいっ! 大丈夫そうね。流石は詩織ちゃん。良い仕事するね」


「いえ」


「かっ、神楽様!! 余り近づかれては!」


「大丈夫よぉ。詩織ちゃんが居るんだし」


「いえ。そうではなく、汚れます」


「もう。貴方達っていつもそうね。まぁ良いわ。じゃあ詩織ちゃん。後の事はこっちでやっておくから」


「ありがとうございます」


「ううん。わざわざ休日にごめんなさい。今度は一緒にご飯でも行きましょ」


「それは難しいんじゃないですか?」


私は姉君の周りで顔を強張らせている奴らにサッと視線を走らせて、嗤う。


コイツ等が箱入りのお姫様を外に出したがるとも思えないし。


「そうかな? まぁ、頑張れば休日くらい作れるよ! じゃ、その時は、案内してね」


「えぇ。構いませんよ。その時が来たら」


私が姉君と話をしていると嫌がる連中も多く、これ以上は煩わしいので私もさっさと去る事にした。


もう試合には間に合わないが、試合後にショッピングに行こうと紗理奈ちゃん達と話をしていたし。まずはそっちに合流かなと思って私は地面を蹴り、再び町に戻るのだった。


そして、紗理奈ちゃん達と甘いものを食べながら試合内容を聞き、さらに動画を残してくれているというのでありがたく、頂戴する事にしたのであった。


やはり持つべきは友である。


何の役にも立たない家の人間が何人居ようと、この気遣いは出来ないだろう。


せめてもの感謝のしるしとして、私は食べたパンケーキの代金を御馳走する事にするのだった。


まぁ、これでも金は有り余ってるし、この程度は大した出費でも無い。


こんな事で、この二人との関係が維持できるのなら安い物だ。


私は気分が良くなり、紗理奈ちゃんが佐々木君と、綾乃ちゃんが古谷君と結ばれる為に必要な事を一緒になって考えるのだった。




そして、二人と別れた後、私は家に帰りいつもの様にハジメ君の様子を見る為にパソコンの電源をつけた。


ハジメ君に渡してあるお札からは何の警告も来ていないし、異常はないとそう思っていたのだが。


「な、なんじゃあ、こりゃあ!!」


そこに映っていた光景を見て、私は目を見開いた。


何故なら、昼間に私が討滅した筈の狐がハジメ君と一緒にお風呂に入っていたからだ。


ハジメ君の鍛えられた美しい手で、体の隅々まで洗って貰い、気持ちよさそうな顔をしている。


私は激怒した。


急いで、着替え、あの不埒な女狐を今度こそチリ一つ残さず消滅させる為に、走るのだった。

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