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第2話『……これは、少々困った事になりましたね』

私はいつものお淑やかなお嬢様の仮面を被って、ハジメ君の話す話を熱心に聞いていた。


しかし、穏やかに笑っている顔の裏側では今、激しい怒りが渦巻いており、やらかした酒井への暴言で溢れている。


「それは、困りましたね。では私も協力させてください。まずは千歳紗理奈さんの居場所を調べる所から始めましょう」


「そんな事が出来るんですか!?」


「はい。ふふっ、式は色々と便利なんです。お姉さんの格好いい所、見せちゃいますね」


「ありがとうございます。それと、東篠院さんはずっと格好いいですよ」


は? 死んだが。


はにかんだ笑顔のハジメ君が可愛すぎて頭おかしくなるわ。君も分かる? マジ? 分かるの? じゃあ消すわ。私、同担拒否だから。


ハジメ君を好きなのは私だけで良いし。ハジメ君が好きなのも私だけで良い。


私以外の女がハジメ君に話しかけるだけで、視線向けるだけで世界を滅ぼしたくなるわ。


男の子? 男の子は良いよ。男の子同士の友情って良いモンね。


女の私じゃ満たせない物もあるよネ! そう私は理解のある女。独占欲を拗らせて監禁とかしないから。


まぁとは言っても、誰かと一緒に居た時間の倍は私と過ごして欲しいけど。


でもでもでも。ハジメ君の自由を奪う様な事は出来ないから。やっぱりハジメ君と話すなんていう大罪を犯した相手を消すべきだよネ!


うーん。旦那様の事を想う。なんて出来た嫁なんだろう。私は! 天才!


という訳で、何故か行方不明になったという千歳紗理奈さんを探して式を飛ばす。


しかしその過程でとんでもない物を私は見つけてしまうのだった。


「……これは、少々困った事になりましたね」


「どうしたんですか!?」


「千歳紗理奈さんを攫った不届き者達を見つけたのですが、どうやら少々危険な所へ向かっている様です」


「危険な所……?」


「以前、鈴木さんをお連れした場所の様な場所。真実危険な心霊スポットという場所ですね」


驚愕に目を見開くハジメ君に私は心を痛めながら、式を使い、遠隔で千歳さんだけ守る様に私の力を送り込む。


簡易的な物だが、まぁ鬼神クラスが出てこない限り、千歳さんは安全だろう。


ただし、千歳さんは、だ。


今呑気に千歳さんを乗せながら危険な場所なんだとヘラヘラ笑っている男も、女も等しく呪いの海に落ちる事になる。


危機感を抱けない人間は哀れだなと思う。


しかし、このままではどの道、千歳さんは帰る術を失う訳で。


私はハジメ君の好感度稼ぎも含めて、少々焦った様な顔を作りながら、急いで車で追いかけましょうと言うのだった。




千歳さん達を乗せた車は順調に山奥にある廃寺に向かっており、自ら悪霊共の養分になりにビュンビュンと車を飛ばしていた。


私はと言えば、助手席にハジメ君を乗せ、後部座席には青い顔をした佐々木君。そして自分のせいだと泣いている藤崎さん。さらにそんな藤崎さんを慰める古谷君のセットを乗せていた。


どうでも良いけど。この後千歳さん乗せるんだけど、乗れる? 場所空いてる? 狭くない?


まぁ仲良しこよしのメンバーだし、あまり気にしないのかもしれないけど。


「紗理奈ちゃんに何かあったら、私、私……、私がもっと色々な人と付き合おうなんて言ったから」


「藤崎さんの責任じゃないよ。それにまだ何かがあった訳じゃない。だから、大丈夫だ」


「佐々木。藤崎さん。大丈夫だ。東篠院さんも大丈夫だって言ってるし。信じよう」


「……はい。お願いします。どうか紗理奈を」


「私にお任せください。とにかく急ぎましょう」


正直な所リアルタイムで千歳さんを監視しているが、まだ何も起こっていない。


連れ去ったと言っても、別に千歳さんをどうこうしてやろうとは思っていない様で、単純に怖がらせて分からせてやる的な事なのだろう。


まぁ、分からせしようとしたら自分たちが分からせられるんですけど(笑)


命がけで渾身のギャグを飛ばすとは、中々見上げた連中である。


面白いので助けてやっても良いが、まぁハジメ君次第かな。


ハジメ君が八つ裂きにしろというのなら私はやるよ。


ハジメ君の為なら私、どんな辛い事でも我慢出来ちゃう!!


「ところで鈴木さん。どうやら、彼らはあそこに見えている山奥の廃寺へと向かっている様ですが、千歳さんを連れて行った彼らについてはどうしましょうか」


「どうする……というのは」


「あの場所は危険な場所です。踏み入れば、まともな状態では帰る事が出来なくなります」


私以外の全員が息をのんだのが分かった。


車内に緊張した空気が流れる。


しかし、ハジメ君の意見はそんな中にあっても冷静だった。


「もし、東篠院さんにとって負担では無いのなら、助けられますか?」


「……分かりました。お任せください」


「本当に、良いんですか?」


「えぇ。私は無敵のお姉さん退魔師ですから」


「東篠院さん! ありがとうございます!」


フッ。ハジメ君が助けて欲しいって言うのなら、私は助けるよ。


別に彼らもハジメ君に何かした訳じゃないからね。むしろハジメ君とのドライブデートの切っ掛けをくれたのだから感謝すらしているくらいだ。


だから特別に助けてやろう。


と、私は式を増やし、先行する車に乗っている連中全員を包む様に力を送り込むのだった。


まぁ、朝飯前だけど。でもハジメ君がより私に感謝してくれる様に少しばかり苦しそうな顔をした。


力を使い過ぎてしまいましたか。みたいな事を言いながら。


するとどうだろう!? ハジメ君が私に優しい言葉を掛けてくれるでは無いか!!


これだな!?


まぁ実際海からコップ一杯分くらいの水を使った程度でしかないけど、ハジメ君が喜んでくれたならこのコップ一杯に黄金と等しいだけの価値があるよ!!




そして私は適度に車を飛ばしつつ、目的となる廃寺に到着した。


既に一台の車が止まっており、中には誰も乗っていない。


現在彼らは廃寺に居るのだから、車に誰かが居る訳も無いのだが、まぁ様式美という奴だ。


「こ、これ! 紗理奈のバッグ……! 紗理奈!!」


私が車の中を覗いている間に何かを見つけたらしい藤崎さんが廃寺に向かって全力で走り出した。


衝撃である。


無力な人間がこんな危険地帯で実力者から離れるなんて。自殺行為だろう。


しかし、そこは天才の私。


藤崎さんが発狂し、排泄物を垂れ流す存在になってしまわぬ様に即座に彼女を守るべく力を使った。


うーん、優しすぎる。


どう? ハジメ君。惚れちゃったよね?


「マズイぞ古谷! 追わないと!」


「分かってる!!」


あ。見てませんか。そうですか。


私は悲しい気持ちを抱きながら、彼らの後ろに付いて、廃寺へ向かう。


その際に彼らにも防衛用に力を注いでいくが、正直過剰だったかなと思わなくもない。


だって、周りに居る悪霊共がどいつもこいつも全く近寄ってこないのだ。


これじゃ私が居ても感謝されないでは無いか!!


力、弱めようかな……。


いやいや、待て待て。衝動に任せて行動すると後悔しか生まない。それはよく思い知ってきた人生だったはずだ。


私は自分の役目を思い返し、いつかハジメ君が私の事を大好きちゅっちゅっになってくれる様に信じて走るのだった。


廃寺の敷地内に入った瞬間、藤崎さんの悲鳴が響き渡った。


そしてそれと同時に藤崎さんに声を掛ける面々が。


まぁ式で状況は分かっていたけれど、酷いなこれは。


「な、なにあれ」


「黒い、人間か……?」


「人間というよりは怨念の塊の様な物ですね。相当に危険です」


まぁ一般人基準だと。


現在状況としては、廃寺の奥辺りにある木の傍で固まりながら震えている人々と、転んで意識を失った千歳さんが廃寺の道の中央に仰向けで寝ている。


そして、彼らの近くには黒い巨大な人の様な形をした何かが蠢いており、今にも彼らに襲い掛かりそうな状況であった。


まぁ襲い掛かる事は出来ないのだけれど。


それを知らない皆はわーきゃー大騒ぎである。


しかし、この状況、どうした物かなと私は考え、周囲を見渡した。


別にこのまま何日放っておいたとしても彼らはどうにもならない。精々が喉を痛める程度だ。


だが、それでは私がここに来た意味がない。


どうにかして、私が格好良くなる方法は……ピコピコピコチーン!


思い、ついた!!


「鈴木さん。ここは二手に分かれましょう。皆さんはこのお札を持って、彼らの元へ。私は千歳さんの所へ向かいます」


「でも!」


「藤崎さん。お気持ちは分りますが、千歳さんの方がより危険です。幸い彼らと皆さんが居れば陽の気が集まりますし、お札で増幅すれば逃げ出す事くらいは可能でしょう。それで車の所まで急いでください。私も後から千歳さんと一緒に追います」


「東篠院さんは、大丈夫……なんですか?」


「少々危険ですが、大丈夫。必ず帰りますよ。千歳さんを連れてね。どうか信じて下さい」


私はそう言いながら、ハジメ君に微笑んだ。


そしてハジメ君は何かを堪えるような顔をした後、皆の手を引っ張って、木の陰で震えている連中の所へ向かう。


私はと言えば、札を黒い化け物にぶつけ、意識をこちらに無理矢理向けさせると、千歳さんに向かって走った。


黒い何かは恐慌状態となっており、必死に私に向かって手を振り下ろす。


それ自体は薄く壁を張って防いでいるのだが、汚い。汚すぎる。


帰ったらお風呂に入ろ。と思いながら、私は鈴木さん達が廃寺の外へ走っていくのを見て、右手に力を集中し薙ぎ払った。


黒く汚い雨は降っているが、同時に雲が裂け空から明るい日の光が差し込んでくる。


ま。こんなものか。


「……めがみ、さま?」


「おや、目が覚めましたか。では帰りましょう」


「……あり、が、とう」


力なくお礼を言った後、目を閉じる千歳さんを見て、私は微かに笑みを浮かべながら彼女を背負い、走り出すのだった。

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