表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/63

海を見るまで

 御者席から、悲痛な男性の声は幾度も聞こえて来る。


「馬は、もう少し早く走れないのか?」

「ミズエラやマルロネに何かあったら……」


 そんな言葉が繰り返し、繰り返し聞こえる。


 馬車は5分もたっていないのに……。


 ニンフは足を投げ出し座り、ダークエルフさんはそんな彼女を抱きしめている。


 そして例、牛糞の肥料の所まで来ると、馬車は男性の言うがまま、来る時には見えなかった道を、大きく曲がり、少し高台の場所へと馬車を揺らしながら登って行く。


 一段上の土地へと行き着くと、ふたたび馬車は、グゥーーーーンとカーブし、僕らを遠心力で押し集めながら止まった。


 その最中、真新しい小さなブランコが視線の中を横切った。


「あああぁ――――!」

 男性の悲痛な声が響く、降りると大きく扉が、食い破られていた。


「おっさん! この家、少し壊れることになるぞ! いいか?」

「お願いします! お願いします! なんとしても妻と娘だけは!」


「わかった。マーストン行こう! おっさん!」


「はい……」

 彼は疲労困憊という感じで、返事をする。


「御者経験あるなら、馬の手綱を握っといて! もし……新手が少しでも見えたら逃げてくれ! 馬をやられたら誰も助からないし、ギルドに知らせないと、本当にやばい!」


「ああぁ……わかった。気を付けて……」

 彼はしょげてはいるが、馬車席へと向かって行く。って、ニンフも、ダークエルフさんも降りて来てるし!?


「君たちなぜ、降りてきたの!」


 ニンフが、ダークエルフさんを小さく指さす。


「私、頑張る」

 彼女はそう祈るように、僕らに声をかける。


「どうする?」

「行きましょう。考えている時間はありません」


「わ――――おぉん!」

 オオカミの遠吠えがする。返事はないようだ。先ほど退治された仲間を呼んでいるのか?


 足を踏ん張りまわりも見ても、もう一段上の土地にも動くものの気配は皆無だった。


 それにしても家の中だと召喚の手札が限られて、戦い難いことになりそうだ。

 覚えている黒魔法もそうはない。


 ドカァーッ!


「開いた」


 アレックスが扉の鍵の部分を、剣で叩き割った。

 それでも彼の手に持つ刀は、折られもせず、曲がりもせず、刃こぼれもないようだ。


 ドアを蹴りあげ、開ける。


 そこへ、狙いすました様に、アレックスの首元目掛け、鋭い牙のある口が飛んできた!!


 剣の横面がきらめき、それを叩き落とす! 

 そしてそのまま間髪入れず、オオカミへと剣を突き刺す!


 よくわからないが、剣といい、その腕前といい、ここに居ていい剣士ではない。 

 そんな正しさしかないような結論へと、僕の答えは至って行く。


 アレックスは何者なのか?



 だが、そんな気持ちもニンフから傘が、僕とダークエルフさんに手渡されたことで、思考のどこか遠くへ押し入れられる。


 (さすが、ニンフ! 一番幼く見えるけれども頼もしい!)


 でも、その後もフライパンや、フライパンの蓋などを、次々くれようとするので、手当たり次第なのかもしれない。


 それより、2階で何か、ドーンやバーンと、ぶつかる音。

 そしてシュタタタと、何かが走り回る音が、玄関へ入った時は時から響いている。


 その音に気づいているだろうアレックスは、2階へ向かうと、合図をする。


「いる……」

 そしてその声に緊張がうかがえる。


 彼らにつづき、僕は2階へ上がって行く。

 警戒し、すべての意識を2階へ向けて、注意深く聞き入った。


 ――その時! 床を滑る足音、ぶつかり何かが壊れる音!


 2階?


「………………」


 いや、1階からだ!?



 その音と共に、こちらへ向け弾みをつけて、オオカミの顔が僕に迫って来る!!!


「うあぁ!?」


 誰かが僕の背中を引き、ダークエルフさんが前へと躍り出て、傘を、魔物の脳天に叩きこんでいた。

 オオカミはボールの様に弾み、後ろの机と共に、後ろへと滑りさがった。


穿(うが)て、土の牙よ!」

 なんとかたれ直し、僕は黒魔法を唱えた。魔法で、土の塊をオオカミへと降らせる。


 ドォドドド!!


 と、音を立て、オオカミの体が煙の様に飛散した。


 …………そして床に少し穴が……。


 2階から子どもの鳴き声が響いた時、アレックスの声がその近くから聞こえて来た。

 元気で、落ち着いた声に、力が抜けほっとした。


「おーい大丈夫か? 凄げ音がしたけどー」

「1匹倒しましたー! 床に穴が開いてしまいましたが……」


「ふっ、死ぬよりはいいだろう」


 彼は、5歳くらいの女の子を抱いた女性と、一緒に降りて来た。


「皆さん、ありがとうございます」

「ありかぁどうぉー」


 そこから彼女をそのまま連れて、僕たちは来た道を慎重に引き返す。

 玄関までがやけに長く感じる。


「幌馬車も、彼も無事のようだ! おれは彼と交代する。マーストンは後ろを見張ってくれ」


「わかりました」


「では、行くぞ!」

「「はい!」」


 先ほどの室内での様子が嘘のように、花の咲く小さな鉢植え、蝶々、そして花の甘い香り、庭先は平和そのものだった。


「御者席を変わって、後ろへ、早く!」


「ミズエラ!、マルロネ……よくぞ無事で……」 

「貴方…………」

「うわぁ――ん」


 彼らは、お互いの無事を祝うように寄り添い合う。


「怪我しないように、ゆっくりでいいので、歩みは止めないでください」




 そして僕が、最後に乗り込んだ……。


「全員、乗り込んだ! ありがとう出発してくれ」

 そして先頭に立っていた彼は、アレックスにそう伝えた。


 

 馬車が動きだす。風景が流れるように進みだすと、どこかに隠れていたのだろう。

 オオカミが、本能に逆らえなかったのか走って追って来た。


 僕が立ち上がると、疲れてうなだれている人々が一斉に僕を見た。


「まさか、まだ居たのか…………」


「そうみたいですね。魔法がまだ、使えそうなので行って来ます……」



 立ち上がり位置につく。左手を、ぐぅ、ぱぁ、ぐぅ、ぱぁ、と繰り返す。そして左手を開いた状態にした。


「紅蓮の炎が生まれい出る」


 地獄の炎が、左手の中に現れ、それをトランプ横に広げる手つきで、5つの炎を練り上げる。次の言葉とともに……。


「5つに分かれ敵を滅ぼせ!」


 オオカミは右へ左へとステップを踏み逃げたが、1つの炎がその体を捉えると、残りの炎も次々と当たって彼の心と足をくじく。


「キャイン」という声を最後に、オオカミだったものは飛散した。


 僕は椅子に戻って座り込む。薬草を食べているし、後、2回くらい精霊なら呼べるかな? って感じだった。


(やっぱり召喚魔法の方が体に合うようだ。)


 隣に座っていたニンフは、にっこり笑い薬草を手渡してくれようと、僕の前に出す。


 さっきまで何も持っていなかったよね? と、思いながらも「いただきます」と葉っぱをむしゃむしゃと食む。


 恐怖と疲れからか寝てしまったお子さんと、そのお母さんの横で、男性が僕を見つめている。


「旨いのかね?」

「美味しくないです。栄養があるのか、体力、魔力の回復が早くなる薬草です」


「安全なのかね?」

「一応安全とは思いますが、僕たち冒険者は、死と隣り合わせです。今、生きられないと、明日も死んでますからね……」


「なら、やめておくよ。私は妻と子どものために、生きなければならないからね。君たちも……いや、私はダーイル、妻のミズエラに娘のマルロネ。私たちは君たちのおかげで助かったありがとう」


「いえいえ、御者席にいるのがアレックスで、僕がマーストン、こっちがニンフに、彼女は……名前が定まっておらず、ダークエルフさんって今は呼ばれています。しばらく海辺の街に住むことになるので、よろしくお願いします」


「こちらこそ、ようこそ、海辺の街オアハジへ、そろそろ見えて来るはずですよ」


 彼が言う通り、いつの間にか右手の林が切れて、空の青を溶かしたような、青い水平線があった。


 あれが海、海は太陽の光を反射させ、キラキラと星より眩しく光る。


 それを横ぎる船の白い線。


 磯の香りと言われる匂いが、僕らを包みこむ。


「おーい! 街が見えて来たぞ!!」


 こうして僕たちは危険な目にあったが、なんとか無事に海辺の街オアハジへと辿り着くことが出来そうだ。


 続く

 

見ていただきありがとうございます。


またどこかで!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ