幌馬車での旅
幌馬車はゴトゴトと音をたてて進み、馬はパカッ、パカッとヒズメを道へ、打ち付け進んでいく。
そんな旅ももう3日目になると、【海辺の街オアハジ】へ、すぐにでも到着するだろうと、期待は高まってくる。
あの日……、僕らはパーティーの結成をしたのだから、食事でもという雰囲気になった。
朝ごはんは食べた記憶があるが、昼ご飯は食べていない。
いくら人付き合いの苦手な僕でも、食事には行くだろう。
ギルドの隣は酒場だが、美味しいさには定評があり皆、基本食べて帰る。
だから、僕らもそれを見習って、あいている席を探し座る。
酒場の、木で作られた椅子に座り、木で作られた机の前に座り、通る店員を掴まえて注文をする。
とても簡単な工程だ。しかしその日は違ったようで……、ギルドのベテラン事務員さんが登場してしまった。
「あれ? ジョンさんなぜここに?」
ジョンさんは古株のギルド職員だ。悩む案件は最終的にジョンさんが呼ばれる。
こっちの酒場に彼は居て、食事を食べるために座るのではなく、冒険者の僕らの前に立てば、アレックスでもなくても「あれ?」と言うだろう。
彼は黒いベスト、黒いズボンの事務員と酒場で、使用可能な男性用の制服で、後ろにあった椅子を引っ張り、通路側に無理やり座った。
「食事前にすまんな」
彼はそう言い書類を取り出した。ドサ、ドサ、ドンと、机の上に積み重ねられる。
酒場側の店員さんは、僕らに注目しながらも通り過ぎてしまう。
「こっちが海辺の街オアハジまでの地図で、こっちが通行許可書。これが配達すべき、村の名前と、配達すべきアイテムだ」
「えっ……あぁ……そうですか」
僕にはそれしか言うべきことは無い。
「で、うちのパーティーに運んで貰いたいと」
アレックス察知能力高すぎで、ニンフは感心なさげで、ダークエルフさんはジョンさんに愛想笑いを浮かべていた。
「これはいつまでに届けるべき品物ですか?」
僕は行儀悪いだろうが、机に肘をついて、顔を触りながら聞く。
そうしないと全然落ち着いていられなかった。
その間も、美味しそうなパフェが、ダークエルフさんのお腹の音と共に通り過ぎ、他のテーブルのもとへと行ってしまう。
「今すぐだ、孤立する村の人々に、贅沢品を悠長に待つって概念は存在しないに等しい。いつでも必要なものを、品薄でまだか、まだかと待っている」
「どうするマーストン? 困っている村を救うのは大事だ、それに交通の便を考えると馬車賃だけで、結構金が必要だ。なら、これを受けると歩いて行くより時間の短縮になり、えっと……賃金は?」
アレックスはジョンさんの方を見る。
「おーい! 出来たか?」
彼はそう厨房に声をかけた。
「はいー!」
ウェイターが持って来たのは、大きな鞄だった。絨毯で出来ていて、がま口になっている。
「今日の晩飯のサンドイッチと、肉とかだな、お前たち受けなくても、事務員の晩飯になる。後、道中が3日、1日おまけして4日分の、食べごろが切れそうな非常食が入っている」
「凄い……」
旅において考えを巡らさねばならないものが、すべてカバーされている。
「僕は行くべきだと思います」
「だが、いいのかレイソンたちのこと?」
「あ……、そういえば、ですが困り具合から考えると、やはり重要なのはダークエルフさんです。備考に理由が記載されているとはいえ、いつまでも身分証の名前が空のままにしておくわけにもいきませんからね」
「では、行くか!!」
「はい、行きましょう!」
そう元気いっぱいに、イグニオス・ザーラの町を飛び出したが……。
多くの村で、温かい歓迎を受けて、「是非、お泊りください」や「薬が切れそうで、心配してたところだったのです。お茶でも、是非に」と言われても、「次の村の困っている方々のもとへ、向かわなければなりません」と断って来た。
凄く人々のためになるけれど……、道中暇すぎて、ニンフはハムレットのオフィーリアの様に、幌馬車の椅子の上で、金色の髪を椅子いっぱいにひろげ手を組み眠り呆けている。
「あれが雲だ」
「はい、雲ですね」
アレックスとダークエルフさんの声。
「あれが山だ。ここら辺は低い山が多いからな、そんなに山らしい、山がないが」
「でも、次は海でしょう? 嬉しいです」
御者席で、アレックスさんも暇である間は、ダークエルフさんに言葉を教えてくれている。
そして僕はというと今日、街へ辿り着けない事を考え、念のため夜、馬車を走らせるため寝ておくべきだと考えてはいる。
しかし暑さからか、なかなか眠ることが出来ないままだった。
風が幌馬車の中へ入って来て、かぐわしい匂いが漂って来る。どこかで牛の排出物を肥料にしようとしているのだろう。
その時、ニンフが体を起こして眠い目をこすりながら、起きあがり歩いて行く。
そして馬車の後方板から足を出そうとした。
「ニンフ何やっているの!?」
彼女を後ろからだき、お腹へ手をまわして、幌馬車の奥へと引き入れた。
「アレックス少し止めてくれないか!」
馬車は僕らをガークン!と、揺らし止まる。
「マーストン! 右の林を誰か走って行ったぞ!!」
馬車から顔を出すと、林が騒めき、バサバサ、バキバキッと音をたてている。
多くの何かが、林の中を走っているようだ。
そして最後、やけに大きな犬、もしくはオオカミが、舌を出しながら、林の中から顔を覗かせこちらを伺う。
こちらが馬車、そして多くの目が自分を見ていること確認すると、水へ潜る大きな魚のように、優雅に林に身を沈めていった。
「どうする!? 明らかにあのオオカミの群れに追われているぞ!」
「オオカミは人を襲わないのでは?!」
「…………あれはオオカミではないかもしれない……。明らかに大きすぎる……」
「では、行きましょう!! オオカミでもあの調子なら、その誰が力尽きれば、アウトだ!」
馬車はふたたび動きだす。
「ニンフ、いいかいここに隠れているんだ。まさかオオカミでも…………」
幌馬車の高さは、オオカミは飛び越えられるのか? 正直微妙なところだった。
「アレックス、久しぶりに回復と強化系以外の召喚魔法をつかうよ! うまくいったら誰かを掴まえて逃げよう!」
「OK! OK! わかった! 人影が見えてきたら止めるぞ!」
馬車から風で落とされないように、顔を出して覗く。
馬車はあまり早い速さは出していないが、オオカミも持久戦を狙ってか、すでにオオカミの最後尾に喰らいつくことは出来たらしい。
【風の精霊の加護!】
光とともに、風の加護がかけられた。そして次!
「雫は地上へと落ちる」
右手には、イメージ通りにコイン程の、水の球体が浮かびあがる。
精霊の国へ続く門は、長いブランクがあっても開いてくれたようだ。水を掴み込み、呪文を続ける。
「源から現れた水が本流となり、支流が加わる。さらに雨を受け、川は満ちる」
「おい!! 居たぞ!!!! あそこだーー!」
アレックスの声が僕の耳に届いた…………。
「そして濁流となってすべてを滅せよ!!!!」
指の間から流れ落ちていた水が、大きな濁流となって流れ出す。
そして走る男の後ろに、迫るオオカミたちと森の木々を、怒涛の流れによって、後方へと次々に押し流していく!
そこで、景色が暗転。
僕は馬車の上で、その流れを見ていた。
はぁ――――、久しぶりに精霊の目を使うと、頭がクラクラする。
親指で頬を支え、残りの四本の指で頭を押さえた。
そんな僕の目の前に、ニンフさんがやって来て、薬草を口の前に持って来てくれた。
それを僕はモグモグと食べる。
僕が魔法を使っている間に、ダークエルフさんも乗り込んだのだろう。
心配そうに僕のことを見ている。
以前は、精霊の目を使うと大惨事で、薬草の匂いでも大惨事で、薬草で触られたことでも大惨事を引き起こしていたことを、覚えていてくれたのだろう。
(ありがたいが、僕はもう忘れたい……)
「おぉ……い、大丈夫か?」
アレックスの声だ。顔をだすと息も絶え絶えな中年の男に、肩を貸しながらやってくる。
「大丈夫ですか?」
「はぁ……なんとか……、いつもは安全な道なのですが、ひどい目にあいました……」
「水飲みます? 非常食もありますが?」
「いや、結構ここら辺に住んでいて、近くの海辺の街オアハジへ、少し買い出しへ行くだけだったので、水は自分の分があります」
「どうやら魔物が紛れ込んでいたようだ。切ったら霧散したよ」
「本当かね。ギルドに報告せねばならないな……」
「じゃー送ろうか?」
だが、彼は考えこむ。
「すまない。引き返して家族を、オアハジへ連れて行きたい。他にも魔物のいる場合、家に入り込まらいとも限らない」
彼は沈痛な面持ちで、そう言うと、額の汗をぬぐった。
「大丈夫ですよ」
「そうそう、家族は心配だもんな! で、近くに家は?」
「近くにはいないが……街のまわりには、点々と家は建っている」
「それについては、一旦、貴方がた家族が、避難したのちギルドに話を持って行った方が早いですよ」
「わかった、そうしよう。道を案内する」
そうしてアレックスと、彼が御者席に乗り込んだらしく、幌馬車は動きだしたのだった。
続く
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