新しいパーティーの結成
馬車は結構、長い道のりを越え、マーストンのホームグラウンドであるスイジースの町へと辿り着いた。
御者席に、馬車を操るアレックスと共にマーストンは座り、美味し料理屋についての話や、装備の話しなどをしていた。
マーストンとの共通の話題を選び、話しを淀みなく会話を弾ませる事のできるアレックス。
アレックスは最初、マーストンの所属していた『正義の鉄鎚』の他のメンバーの話をしたが、その後はもうその話について触れることはなかった。
そして町へ入ると、「この馬車は、ギルドから借りた物なんだ。俺がマーストンを探しに行く事を、カレンに伝えると、いろいろ察してくれ、馬車の準備までして貰った。だからー、うーん、よくも悪くも彼女は今回の事を知っている。相談事があれば気兼ねなくするといい。ギルト職員の彼らはある程度は、答えてくれるはずだ」
そう、少々困っているかのような顔で、アレックスは彼に思っている事を伝えた。
「あ……、そうなんですね」
アレックスの言葉には、やはりマーストンが仲間に置いて行かれた事実が隠れていた。それ以外の現実を、アレックスは知っているのだろう。優しく笑う顔を見て、そう確信した彼は前へと向き直り、静かにそう答えた。
そんな二人を乗せて馬車はこじんまりとした町の、そんな町の大通りを進み、ギルドの前までやって来た。
馬車はギルドの横の細い砂利道へと入り、そこで草むしりをしている麦わら帽子の老人は、彼らに向かい挨拶をし、そしてアレックスへと話しかけた。
「アレックス、召喚士の方は見つかったようだな」
「ああ、【妖精の迷いの森】へ続く道に本当に居たよ。単独行動の難しい、魔法使いを置き去りにするとは、けしからん話だ」
馬車は止まり、アレックスはそう返事をした。
話しやすい人柄の彼だが、結構口の軽い人物なのか? とマーストンの頭の隅でよぎる。
その時彼は、見つめるマーストンの瞳に気づいていたようで、マーストンへ向きなりフッ、という感じの笑顔を向けた。
まるで、心の中を覗いたような、アレックスの笑みに、彼はどぎまぎとした。
しかし、当人のアレックスは、「じゃ」と、老人との話を切り上げ、馬車置き場への道を行くのだった。
◇◇
馬車を降り、ギルドの扉の前へ立つ。
赤い髪の戦士アレックスが先頭に立ち、扉を押さえて脇へ避けた。
その前を小さな金の髪の少女(に見える)ニンフと、黒髪の美しいだいたいパジャマ姿のダークエルフさんが入ってきた時点で――。
「いらっしゃーいませ」と、トレーを持ったウェイトレスの笑顔が固まった。
そしてマーストンとアレックスが続く頃には、毎日、屈強な冒険者を相手にしている彼らは、普通に仕事を始める様になる。
「おはようございます。マーストン、アレックスと続くと、なんか……、冒険者ぽくない、お上品さですね……」
そう言った、彼女はすぐに厨房に呼ばれて、焼き立ての香ばしいパンの匂いのするサンドイッチを運んでいる。
彼女を目の端で眺めながら、衝立の向こうのギルドの受付へいくと、やはりマーストンたちは目を引く存在のようで、何人かの冒険者と目が合った。
その中で、アレックスに目を向けると、彼は知人らしい隣の人にそっと寄り添い、挨拶をする。そして世間話をする流れがとてもスムーズに進む。
マーストンは彼の横で、それを黙って眺めていた。
しかしマーストンは、すぐにニンフとダークエルフさんの方へ向きなおり、ここはどういうところか、静かにしていなければだめですよ。そう伝えながら、順番を待つ。
窓の外では夕日の茜色が、空をそめ、夜から始まる酒場のリキュールの香りが人の流れにのって、こちらの待合場所へと流れてくる。
「大変だったんですね」
マーストンの知らない、『正義の鉄鎚』のレイソンとたちの会話、それを踏まえてのアレックスの起こした行動、そして彼と出会った時の、マーストンの様子が子気味の良い物語となって、アレックスの口から語れ、マーストンは他人事のようにただ聞いていた。
マーストンは耳を傾けながら、感傷に似た気持ちの中を漂っていた。彼らの名誉のために止める事もなかった。
彼自身が、彼に起こったことをあまりよく知らない。
だから、彼は『正義の鉄鎚』の今回の出来事のストーリーテラーとしてアレックスという第三者を選んだ……のかもしてない。
だから、アレックスの隣りの見知らぬ彼女の言葉に、しばらくマーストンは、自身に言われた事に気づかずにいた。
「えっ、ああ……僕の発言について、パーティーの内の諍いは、最近よくあったことですから、なるべくしてなった。それだけかもしれません……」
それを聞いた彼女の、眉と眉の間に繊細な皺ができる。
「命を懸けるこういを行っているのだから、言い争うことも少なからずあるとは思います。けれど、町の外に置いて行かれるのは、やはり別だと思うんです。しかも【妖精の迷いの森】です。大元の妖精を倒したからと言って、そこで安心すべきではない。初心者でなければわかるはずです」
「それは……、確かに。でも、アレックスさんのおかげで助かりました」
彼女の瞳には、怒りの炎が揺れていた。レイソンが行ったことがそういう事と、再認識すると、やはり心に空洞になるような、寂しさがよぎった。そこへ現れ、助けてくれたアレックスに目を向け、心を無理やり埋めるようにそう言った。
「アレックスとなら素敵な冒険ができますわ。あっ、呼ばれたようです。失礼します」
そう言って、見知らぬ彼女は他のパーティーメンバーとともに受付へと向かう。
見知らぬ彼らの楽しそうな背中を眺めると、命を懸けた、真剣勝負の冒険への旅路の果てに、ここへ辿り着いたのだろう。そう漠然とそう思いながら、マーストンは目を離すことができない様に彼らを眺めた。
その視線は、間を横切る冒険者によって切られる。気付けば、少しの間にギルドの待合室は混み合っていた。
人間には夜は、一寸先を見通すことも難しい。しかし蠢く魔物の多くは、夜目が利き、夜だけ現れる厄介な敵まで現れる。
そのため皆、夜を避けるのが一般的だった。皆、夕方の今ほどの時間になると、一斉にクエストを終えて帰って来ているのだ。
「じゃあ、君はマーストンの従妹とか?」
ニンフは首をフルフルと振ると、ふたたび足を左右に動かし、彼女はその動きを何となく見ているようだ。
「じゃあ君たちの関係って……」
鎧の前で、腕を組み、頭を傾けたアレックスは、マーストンと人間にしか見えないニンフの関係について考えている。
ニンフにまで友好関係を築こうとする姿は、やはり人当たりの良い冒険者にしか見えない。
そんな彼が人目のある、ここでレイソンたちの話をすることに、少しひっかかりを感じる……。
精霊という事を知らないニンフはともかくとして、レイソン達がクエスト最中に眠りこけてしまった仲間を置いて帰った事実は、今後の彼らの活動に影を落とすだろう。
下手をすると、他のパーティーで合同で行うクエストで、相手も事欠くことになってしまう。
そんな事にも考えの及ばない人物では、アレックスはない様に見えた。
「アレックスさん……今のギルドは人目もあります。僕が置いておかれた話を、しないで欲しいんです。僕は彼らを晒しものにまでするつもりはないんです」
マーストンは声を忍ばせて、アレッスに伝える。
「なぜ? 情報共有だよ。俺も置いていかれるのは、ごめんこうむりたいからね」
「そうですが……」
「次置いて行かれるのは、ニンフかもしれないよ」
「それは…………ニンフは勝手に帰るだろうけど、……それ……たぶん……許せません」
アレックスはそんなマーストンを見て少し、困ったように笑う。
「ほら、君呼ばれたよ。ついていっていいか?」
「……はい、是非に」
彼らは席を立ち、マーストンを呼んだカレンのもとへと行く。
「やぁーカレン、さっきはありがとう。やっぱり居たよ、とぼとぼと歩いて帰るようだった」
「まぁ……それは……。わかりました。ギルドからの制裁は出来ません。それをお望みなら、その道筋をお教えする事はもちろんできますが……」
そうカレンは言い、マーストンを見つめる。彼は少し冷や汗が出る思いを感じていた。
「僕らの仲たがいの結果、それは良くないものだという事はわかります。けれど、僕はそこまでしたいのではなくて……、話してくれれば、僕は抜ける事を拒みはしませんでした。どっちみち悲しい結末なら、今日、彼が来てくれたので、その為の糧であったと考えたいです。僕は、たぶん……彼らの日々を、今回の事で僕の中で汚したくないんです」
「そうなんですね。なら私から一度、レイソン様たちにお話ししますね。今回の事、ギルド、その在り方から見ても危険な行為なので、そこはご了承ください」
「ねっ、俺が君のために怒っても、それは正当なことってことさー。彼らが、正義を大切にするように、俺は俺のやり方で俺のまわりを住みよくしたい」
「それは、それでギルドとしてあまり、了承できない行為なのですが……」
マーストンは彼らを庇う。しかしその自分自身で発した言葉にやや、嘘が混じっているとは思っていた。それについて自己に問いかける事は今ではないようだ。そうなんとなく思う。
そして彼の視線の先では、悪戯を語るように、彼の気持ちの真相を知っているように、アレックスはマーストン笑顔を向ける。
そしてアレックスの言葉を聞き、やはりカレンもマーストン同様に困った顔をすることになっていた。
「しかし危険と隣り合わせの中を生きる冒険者には、人権は少し捻じ曲げられる。ダンジョンの中だけの法があり、それを守れないと人間はわりと簡単に死ぬからな、時には私刑も大切だよ」
そう軽やかに彼は言う、正義を重んずる人の様で、わからない人だ。
しかし彼は、アレックスのいう事に何にも言わなかったが、マーストンもそれはある意味真実だと知っていた。
しかしそれが古巣と言っていいレイソン達、そして彼自身の在り方を考え直すべきだと、いう意味の言葉でもあると思い、少なからず彼の心も痛んだ。
確かに、そうかもしれない。しかし踏ん切りがつかないのは、彼自身も置いて行かれた理由を、想像でしか知らないことが原因だろう。そう思考は、堂々巡りを繰り返している。
「では、改めて、マーストン様、ギルドクエストお疲れさまでした。報酬はこちらになります。お受け取りなりますか?」
「はい、お願いします」
「はい、かしこまりました。手続きの記載しながらで、恐縮ですが……マーストン様の所属していたパーティーが解散になりました」
ふぅッ、鼻から笑いが漏れる。マーストンの離脱の手続きを待たずして、彼らはパーティーを解散してしまったようだ。
パーティーに思い入れがなければ、その方が手続きは断然早い。
カレンは解散したさいに、返却されるパーティーの保険の代金などの返却について、説明してくれる。
置いて行かれ、考える時間はあったのだから、新たな出来事に耐性は出来ているはずだろう。そう思いもするが、まだ時間は必要なようで、彼女の言葉のほとんどが耳に入らない。
新しい知識の確認については、確認が必要だろう。
「では、今後のことについてどうなされますか?」
不意に、その言葉が飛び込んできた。
確認すべきことは多くある。彼らについて考えている場合ではなかった。
「その前に、クエストについて追加報告を【妖精の迷いの森】の妖精の住処と思われる場所に、ダークエルフの彼女が、物置の部屋に押し込められていて、救助しました」
それを受け、カレンは知識の海の中へ沈んでいるような視線で、ダークエルフさんを見た。
「あのお話しても大丈夫ですか?」
そう彼女はマーストンに聞く。少しまずいな、と彼は思った。彼女の管理は彼に委ねられている。
「ええ、是非に」
「初めまして、言葉を交わす事をお許しください。ダークエルフ様」
ダークエルフさんの前に居た、ニンフはその場からどき僕の前に立つ。
ダークエルフさんと対峙したカレンは、胸に手をやり、頭をさげ、礼儀正しく挨拶をした。
しかしダークエルフさんは、ビクッとしたのち、「あの、あの……」と言ったと思ったら、マーストンの後ろに隠れてしまう。
そしてゆっくり顔をだし、「こんにちは、よろしくね」と、彼女は言った。
一同も一部始終、その様子を見ていた中、カレンの視線がマーストンへ戻った。
「彼女は人間の言葉の理解は、幼い子どもくらいでしょうか。エルフ、独自の言葉なら話せる可能性があるかもしれませんが……そういうことに僕は明るくないので……」
「では、身分証明書や身元がわかるものなどは?」
「彼女の部屋は空き部屋同然でした。名前は……すみません、聞いてません。名前を聞いてしまうと……僕が面倒をみなければならなくなりそうで……」
――僕は最後の方、ダークエルフさんに聞こえないように言ったが、聞こえてしまっただろう、きっと。
「わかります。一般の冒険者さんには難しい問題です。それはこの町のギルドも同じで、ここで、彼女に出来るのは最低限の保証のみになってしまいます」
「それは……」
「ヒュームとエルフも、地下の大空洞を攻略することにおいては、足並みを揃えることは決まっている。けど、それ自体も最近で、互いに友好関係を持つまでは至っていない。俺たちを短い時を生きる野蛮な略奪者の域から、まだ彼らの認知としては、抜け出ていないらしい。エルフ達の認識ではで、……ダークエルフの方は個体数が少ないのでなんとも……。だから、1エルフ、しかもダークエルフさんの処遇はどうなるのか……」
そうアレックスが言葉を挟んだ。
「だが、実際ダークエルフさんも、僕も困っているわけで……」
「そうです! そんなお困りは、是非、海辺の街オアハジのギルドを頼ることをお勧めします!」
「オアハジ……」
「あそこは海辺の街なだけあり、エルフの領事館もある。暇なエルフが、話を聞いてくれる程度らしいけどね」
「ええ、エルフの方々誰かがからの許可が出たって、承認が必要なのです」
二人に畳みかけられると、それも必要なのかな? と思い……、振り返ると澄んだ水色の瞳でエルフさんが彼を見ている。
「君は、僕と行きたいかい?」
「はい」
ダークエルフさんは、甘さでいうと蜂蜜、バターたっぷりなホットケーキという風に、にっこり笑った。
――僕は思わず顔を、両手の親指と人差し指で三角形を作り、鼻と口を隠す。
「では、行きましょう。ダークエルフさん。それから未来はわかりませんが、次の地へ移るいい機会です」
かっこつけてそう言ってみたが、彼女の笑顔にときめきをほんの少しだけ感じた………、気もするし、覚悟を決めたことを、自分に言い聞かせていただけの気もする。
推し量る事が難しい感情だった。
そして袖がひっぱられて、ニンフを見る。
スカートの両端を持ち上げ、彼女もにっこりと笑っている。
「わぁ!?」
マーストンがニンフの両脇を抱えて持ち上げたら、アレックスが驚き声をあげた。
――そしてどうやら僕は、間違えたらしい。ニンフは下ろすと、僕のお腹を両手でトントン叩いた。
「あれ? 違ったらしい」
「どうしてあれで、あってると思ったんだ」
「でも、ちょっと驚いた顔や、広がった髪は可愛いかったので、彼女の希望には沿ってたと思うのですが」
「うーん、まあいいか。次は、俺の番か……」
いつからそんな決まりが……。
彼は受付を隔てるついたて、手をドォーン!とし、隣のパーティーを「「わあっ!?」」と驚かせる。
そしてカレンは「わぁー」と言った。
「あっ、すまん」
そう言って謝罪するが、手はそのまま。
「俺もオアハジへ行く! そしてお前たち守ってやる! だから俺とパーティーを組め!」
辺りは騒然とざわめき、多くの人々がこちらを見る。
普段、魔物と戦う冒険者だ、目をそらす選択なんてあるはずない。
そしてニンフはマーストンの後ろから出て来て、彼の前に立った。
――完全に、アレックのことを気に入っている……。
姉弟のように育った、僕としては嬉しいような、寂しいような、複雑な気持ちだ。
「えっと……アレックさん、こちらこそ宜しくお願いします。メンバーが偏っていたのでお願いしょうと思っていたところでした」
「おぉ、それはありがたい。見物人が多ければ、とりあえずOKするって作戦は、必要なかったようだな」
「短い冒険者歴の中には、魔物の群れに囲まれかけたこともありますので、それよりは全然ましではあります」
そしてマーストンは受付に向き直る。
「では、カレンさん、仮でいいのでダークエルフさんに、仮の冒険者証を出していただけますか? そして僕たち3人パーティーでお願いします」
「はい、承知しました。皆さん最低ランクのDランクなら問題ありませんが、やはり著しくランクと、ステータス差がある場合は、同じようにクエストをこなしても、ランクが一緒に上がることはないのでお気をつけください。そしてニンフは、これまで通りマーストン様の付属ということになります」
「はい、宜しくお願いします」
彼女が作り出す羽根ペンを受け取り、動くままに任せて、まっさらになったカードに記入していく。それと合わせる様に、彼女の横の羽根ペンも紙の上に文字を書き込んでいく。
「なーマーストン、ニンフは人ではないのか?」
「そうですねー。彼女は僕の祖父と契約していた精霊です」
「では、おじいさんの形見のようなものなんだな」
――彼はそう言うがギルドで、僕をさらったとか言いにくい。
「僕と仲良くなりたかったらしく知り合いました。しかしいろいろそのままではいけないってことで、祖父の精霊に……」
うんうん! 彼女は大きく何度もうなずく。
しかし、事実は少し違うでしょう?
「えっ、じゃーもしかして!?」
「そうですが、私利私欲はだめですよ」
「あの……ギルドのカードも出来上がったようですし、以上で宜しいでしょうか?」
「「はいありがとうございました」」
ギルドの手続きは終わった。
次は、オハアジにどうやって行くかだ。
続く
見ていただきありがとうございます。
またどこかで!




