彼はどこか、見知らぬ空の下
長い間、見ていただきありがとうございました!
また、どこかで……。
では、最終話、よろしくお願いいたします
地下世界、大空洞から帰還したマーストンたちは、起き出して間もない街へとたどり着く。
いつもより少し遅れたのかもしれない。
家畜や日用品などを乗せた幌馬車が、僕たちの隣りを通り過ぎていく。
改めてお礼を言う前に、ホワイトの姿は消えてしまった。
ギルドの見える大通りだが、うっかり人混みに紛れた形ではないだろう。
その事に気付いた時、甘いパンの香りが漂って来ていた。僅かな間だったが、懐かしいとさえ思えるギルド、その扉を開けてマーストンは入っていく。
「「いらっしゃいませ!」」
「おっ!?」
おっ?
「お前も無事に帰って来たな? 世界樹の葉、かんぱーい!」
「リーダー、恥ずかしい。誰にでも声かけないでよ!」
ジョッキを持った、厳つい男に、同席の後衛職だろう小柄な女性が声をかける。
「いやいや、大幅な予想とオッズを裏切って帰って来たんだ! そんな勇敢にかんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
昼食にはまだ早い、そんな時間に浴びるほど飲んでいる屈強な男たちと、魔力に長けた者たちの歓迎は面食らうものだった。
危険な戦いと知りつつ、僕らはギルドを出たが、冒険者たちの情報のまわりの早さに驚きもした。
だか、素直に「ありがとうございます」と、お礼を述べる。
改めて生還した喜びを、人の声によってふたたび感じとる事ができたからだ。
そして僕はレストランの横を通り、奥へ進む。レストランの厨房前を通り、受付側のエリアへと顔を出す。
さすがにこちらは、これから冒険へと向かうのだろう。
「おっ?」
そう声は上がるが、「お疲れー!」って声もかけられただけだった。
それとは別に、ライバルを見る射貫く様な視線も感じた。
これが……ギルドの冒険者たちの記憶に残るという事、それについて、重みを初めて感じ取った。
それと同時に心の底で、小鍋にグツグツと、静かにアドレナリンの分泌を感じた。
「ただいま、帰りました」
受付前のベンチに座ると、ギルド前の入口で、僕らの帰還を確認していたのだろうラドルさんが入って来た。
「「お帰りなさいー」」
ギルドの受付が声を揃え、仲間たちが受けつの裏方側へと向かおうとするラドルさんを出迎えた。
その時、チトセは冒険者の応対をしていた。
その視線はラドルを追っていた。とてもわかりやすい。
その彼女の姿に、前に立つ冒険者の女性陣が、顔を見合せてリーダーに耳打ちすると、聞いた彼は2回ほど静かにうなずく。
「ありがとう、だいたいわかった。説明は、ここら辺で切り上げていいよ」
「えっ、もう少し説明がこざいますが……?」
チトセは書類を手に取り、差し出そうとした。
それを彼は、やや彼女から奪う様に取る。
「ここに書かれている事を、理解すればいいんだろう? 任せといてよ」
そう言うと、彼女に背を向けて、その場から立ち去ろうとする。
「ありがとうこざいましたー」
「無事に、帰ってきて良かったね」
「はい!」
そう言う別の冒険者の声に、チトセは笑顔でこたえた。
なるほど、チトセを見て、僕らを出迎えた、先ほどの冒険者の様子について理解した。
そんなチトセは、【席を外します】の立て札を斜めに置き、事務所の中へと飛び込む。
「ラドルさんお帰りなさい! あの……ギルドマスターに頼まれて、部屋に入りました。そして食料庫の中の足の早い物について、片付けました」
「あ……、俺がギルドマスターに頼んだから、チトセ、すまなかった、世話かけさせて」
「全然、大丈夫です。それで……あのー……、それで、お弁当を作って来たんです。食べま……せんか?」
「……いただきます」
チトセの勢いで開けて行った。事務所の扉の隙間から、その声は聞こえてきていた。
しかしそこから先は、中から誰かが扉を『パタン』閉めてしまった。
「甘酸っぱ……」
「俺、結構チトセいいなと、思ってたんだ」
「俺もー……」
残され、聞く事になった側の冒険者の感想は様々で、僕はちょっと前の事を思い出す。
「何で、朝から中の国の、油ギトギト系の料理何ですか?」
「我は、子どもたちには、腹一杯食べさせてあげたい」
「それは……それは、では、これからは飲茶とかどうですか? 色とりどりで、見映えもいいですよ」
「そうか……では、次回はそれにしよう」
そうアザトとラドルさんが、城の調理場で、執事が中華鍋の中身をクルクルさせている横で話していた。
そしてラドルさんが、椅子に座る時――。
「何年後の話しなんだか……」
そう朝の城の内側での、ランニングを終えた彼は呟いていた。
しかし親身になってくれるチトセの料理なら、きっと最高なのだろう。
◇
ガチャ――。
事務所側の扉が三分の一ほど開き、チトセが顔を出し、ベンチ側の冒険者が、一斉に顔をあげた。
「【世界樹の葉】の皆さんお入り下さい」
「「えー……」」
一番響き渡ったのは、セルティーの声だった。
◇◇
以前座った、ソファにみんなで一緒に座る。
今回は四角の背もたれの無いソファが人数分、確保できる様に置かれている。
彼らの前に立ったのはギルドマスターであるスザク、その横にはチトセが立つている
そしてソファの後ろで、ラドルさんがお弁当を食べていた。
……とても可愛いお弁当箱だった。
あれにラドルさんはお弁当を詰めているのだろうか?
「おほん、迷宮に出没するエルフについて、対処ご苦労だった。その過程で、『魔界』、大空洞内部については、今もその場にて活動中のランク明記されてない、SSの冒険者同様に他言無用で頼む。それを踏まえてる事を条件として、【世界樹の葉】のパーティーメンバー並びに、セラティー君、君たちの今回の業績、及び、功績が、Aランク以上であったと考え、君たちをSランク昇級する! ランクに恥じない、行動と節度を望む。後、ダークエルフの彼女については、チトセが昇格作業と並んで手続きをする。君たち、素晴らしい成果だった。おめでとう。以上だ」
「「ありがとうございます!」」
そう僕らの前に立ち、威圧しながら、スザークは言った。
僕らも立ち上がり、それに答えると、彼はみんなと握手していく。
そしてギルドマスターは、席を外して……。
「ラドル、旨いかぁー」
「あっち行ってください。今はプライベイトなので」
「お前、仕事場に来て、プライベートはないだろう?」
僕らの後ろから、そんな声が聞こえた。
「もう、ギルドマスター……」
チトセもやはり僕らの後ろに目を向け、そう呟いた。
そして彼女は笑顔になる。
「ギルド職員のラドルから確認が取れましたので、これからギルドカードの書き換えを行います。世界樹の葉の皆様、改めてましておめでとうございます! クリスティーヌ様におきましては、仮ではなく、新たな市民としての保証をホワイト様からの了解が取れましたのでその旨を記載させていただきます。おめでとうございます。 ギルドカードの身分証明も正式なものになります。以上、ご質問などございますか?」
「ありがとうございます。質問については、ありません」
「はい。了解いたしました。ギルドカードを訂正いたします」
そう言うと、チトセは魔法のペンを作り出し、それをクリスティーヌは受け取り、カードへと向けた。
その後ろへパーティー一同並んでいく。
「なぁーマーストン」
「どうしました? アレックス」
「ニンフの召喚が、マーストンが主としての契約へと書き換えられつつある。きっと冒険者にならなくても、君とニンフの契約は完了するだろう。ならどうする? マーストンの夢を追うのか?」
ならどうする? 彼らしい聞き方だと思った。
もうニンフ、クリスティーヌについても問題ないだろう。
このまま冒険者をしても、死ぬかもしれない。
何より、僕には教師になる夢がある。
ニンフ、セラティーも痛いほど僕を見つめる。
「Sランクは僕を信頼してくれて、僕に付けられ……、うーん、そうですね。正直に言いましょう。僕は冒険者を続けようと思っています。父や母が、子どもの僕を置いてまで向かった世界、大空洞に触れてみて……興奮しました。だから、僕は、僕のために冒険を続けたい。そして僕の手の中にある力、それでどこまでいけるか確かめたい。刹那的な考えです。軽率な考えです。でも、本当にそうでしょうか? その答えが冒険の中にしかないのなら、僕はその道を進みたい。だから、これからもよろしくお願いします。アレックス、そして皆さん」
「よし、お願いされてやる。もっと広い世界を見てみよう」
「私の故郷にも来て!」
そうニンフは言った。
「それは……」
「なんでよ!?」
「そこに行く意味について考えると、何故、幼い僕を連れて行ったのか? その意味の不可解さを考えると、漠然と、行ってはいけないという結論に辿り着くんです」
彼がそういうと、彼女はスカートの上にこぶしを握り、考え込むように下を向いた。
妖精、精霊との関わりは、思わぬところで落とし穴がある。
そこへ、落ちるわけにはいかなった。
「だけど、冒険者であるならば、いつか辿り着くかもしません。そこまでいかなくても、ニンフの故郷について知るかもしれない。それまでも、これからも僕と一緒にいてくれないでしょうか? ニンフ」
僕は背中を丸め、彼女の視線に合わせてそう言った。
彼女は透明感のあるブラウンの瞳で、僕を見た。
「当然の事を言わないで!」
「私も……、これからも一緒でいいですか?」
いつの間にか、手続きが完了していたクリスティーヌ。
「もちろんよ!」
「ボクもー!」
クリスティーヌに抱きつくニンフに、上からおいかぶさるセラティー。
「セラティー様も、世界樹の葉の正式加入の手続きで、大丈夫ですか?」
「「歓迎!」」
「歓迎します」
「いいの? セラティー?」
「もちろんだよ、マーストン。ライバルに先を行かれるのは嫌だからね」
「やっぱり反対!」
ニンフがいきなり、ふくれっ面になる。
「えっ? ニンフどうしたの?」
「ニンフ、どうして? って君たちがなんか仲が悪いのは昔からか……」
クリスティーヌが彼女の瞳を覗き込んでいると、セラティーが腕組みをしているニンフへと耳打ちする。
「そんなわけない。いいわ、勝負よ!」
「ニンフは、そう言ってくれると思ってた。ありがとう」
そう言うと、彼女は笑顔でチトセから新しいペンを受け取ると、サラサラとペンでギルドカードへと記入して行く。
それは一瞬で、その後も次々マーストンたちはそれに続いた。
「ありがとうございましたー」と、チトセから事務所から送り出され、彼女は扉を閉めた。
そして僕らは再び、ギルドの人々からみつめられながら、その場を後にする。
そして彼らは、ギルドの扉から街へ飛び出した!
◇◇◇
彼らは、これからも次々と新しい扉から新たな冒険へ向かうだろう。
しかし彼らは今は、冒険から帰還してお疲れ気味だ。
時は、昼へなろうとしている。
人が行き交う、海の香のする街の空は、きれいな水色のグラデーション。
「とりあえず、市場でなんか買って帰りましょうか!」
「甘いものがいい」
「うんうん」
「とりあえず、ブルーノさんの家に顔をださないか?」
「もう、ボクは疲れたんだけど―。魔力を早く回復したい!」
彼らは、市場の方へ歩きだす。
そして次は、どこかの空の下へと、冒険へ出かけるだろう。
終わり




