地上への帰還
大空洞での戦いの勝利の後は、レイソンの隣の席でお茶会だった。
「レイソン……、うーん、あれだったら僕は席を移ろうか?」
「好きにすればいい。勝利者はそれだけの特権があるし、敗者は勝利者にそれだけの敬意を払うものだ」
そう彼は足を組み、机に肘をつき答える。
「その通りでございますね」
執事がやって来て、ティーカップに入れられた、紅茶色には少々薄い飲み物を僕の前に置く。
ティーカップからは、白い湯気が立ちのぼり、カモミールに近い良い香りが、僕の鼻腔を通っていく。
ティーカップの持ち手をつまみ、口元へ運ぶとハーブの複雑な味わいが香って来る。
「いい香りだ」
「ハーブティーでございます。心、いえ、ヒートアップした魔力回路を落ち着かせる配合にいたしました」
「ありがとうございます」
「勿体ないお言葉です」
そう彼は、日頃では見る事のできない、落ち着いた様子で言い、頭を下げ立ち去る。
彼の回復力に驚くが、やせ我慢かもしれない。
そうならば、それだができるだけの胆力にまた、敬意を評したいと思える。
それはさておき……僕らの会話中、言い方が悪いが、村でみる動物たちが見せる様な、無遠慮な視線がクリスティーヌと、ニンフの間に座るアゾトから注がれていた。
あの絡みつく様な視線、もちろん執事の彼も気付いていたはずだ。
果たして、僕は彼の娘さんを預けるに値する、パーティーのリーダーと言えるのか? その答えは未だにわからない。
温かなそれを口へ運べば、丁度良い温度、少しだけ尖りのある味わいが、僕の味覚は感じとり、そして胸の中で微かなあたたさへと変わる。
「美味しい……」
「勝利の味は格別か?」
レイソンの声。
「おにいちゃん!」
クリシラの声。
「おめでとうございます。マーストン、これで迷宮での、彼による事件もなくなりますね」
そしてケイトの声に目線を向けると、彼女は静かに笑ってた。
「そうですね。勝利の味は何よりも素晴らしく、事件の解決は心を落ち着かせ、そして旧友とこうしてお茶を飲むのもまた、嬉しいものです」
「じいちゃんかよ」
「おにいちゃんはそんなじいちゃんに、ありがとうを言わないと借りを作ったままでいいの?」
「まぁー、それはそうですよね」
そう、僕らの視線はレイソンへ集まった。
彼はぶっちょうずらで、こちらを見る。
そして覚悟を決めたのだろう……。組んでいた足をおろし、こちらへ向き直る。
「世界樹の葉のリーダーマーストン、この度は助かった。助かった」
正直言うと、僕は勝った! そう思った。
そしてその気持ちが顔に出て来たのだろう……、彼のぶっちょう面に、額の皺が加わった。
「俺にお礼を言われて嬉しいか? それだけで、喜んでいて安い奴だなお前も」
「いえいえ、レイソン、自分を安く見過ぎですよ。貴方のお礼は、けして安くない。そして……僕にとって始まりと言える」
「何のだ? お前は俺に謝って貰いたいのか? すまなかったてな?」
僕はパーン!って手を打つ。
僕に、他のテーブルからも視線が集まる。
決してお行儀のいい行為ではないが、そうしてしまった。
後悔もない。
「それはいいですね。それを次の目標としましょう」
「お前……」
彼は苛立っている。知っている。僕もそういう風に話している。
「貴方のするように、少し貴方を脅し、僕は話しをします。僕は新しい世界を手に入れました。僕は変わりレイソン、君の前にふたたび立ちました。対等が貴方の場合、そうしなければ手に入らないら、そういう交渉方法でいくまでです」
「はぁ? お前は何を言っているんだ?」
彼に、だいぶ痛い人物を見る様にな目で見られている。
恥ずかしい事を言っている、自覚はある。
わけわからない事を言っている、自覚もある。
ただ――。
ちょっと嬉しくて、止まらなかった。
「冒険者になって初めてのパーティー、そのメンバーに置いて行かれれば、そう少し性格が曲がるんですよ!」
「あっ、ごめんねーマーストン」
「あの時は、ごめんなさい、マーストン」
「いや、お前は前から、結構そんな性格だった!」
「じゃー諦めてください」
……って僕は何を言っているんだ?
「じゃーこのへんで、僕は仲間のもとに戻ります」
「「はーい」」
「何しに来たんだ? お前は?」
「友好を深めに」
全くもって、レイソンの言う通りだった。
でも、僕は嬉しさで、口角をあげて彼を少しみただけだった。
まず、ティーカップを持ってホワイト、アゾト、クリスティーヌ、ニンフと言う観戦組と思われる席へと移動し、それを置いた。
ふたたび椅子を取りに戻ろうと振り返ると、執事が椅子を持って来てくれていた。
「ありがとうございます」
そう言って椅子を受けとる時、同じく観戦組だったラドルさんがアレックスの横で座っているのが見えた。
「やーおめでとう。君たちは戦闘においてパーティーなら、執事と同等以上の働きがあるとわかって我は嬉しいよ。クリスティーヌの動きも、浅いながらもちゃんとしていた。問題の人間との摩擦も、こちらへ来た人選を考えると問題ない」
アゾトは雄弁に、演説するかの様にそう語る。
「と、言いますと?」
「クリスティーヌを、君たちと共に行く事を許そう。だから、これからは執事を迷宮に送り出す手助けもしない。そう100年くらいは……そう言葉を、付け加えるがね」
「「をぉ――!」」
これで、クエストの無事完了と言える。
「これでたちに定められた、クエストが完了できます」
「あぁ、君たちはよく頑張ったよ!」
「そうですか……ありがとうございます。そういうわけで、ホワイト、このクエストが完了すればホワイトに決めた。クリスティーヌの身元を、保証しょうしていただけますか?」
僕はホワイトを見た。
ホワイトは突然向けられた矛先に、少しだけ何かを含んだ表情でこちらを見る。
「この場所で、それを言うのはずるくないかい?」
「いえ、クリスティーヌのお父様です。これ以上の個人がわかる証を、人の無知故に僕は知りません」
「さすが、こずるい」
「エルフが、追いやられた理由がよくわかるよ」
そう、魔族とエルフの最強、ってぶるいの2人は僕に対してそう、評価したようだ。
仲良さそうで、なんだか釈然としないが……。
そして2人を代表する種族と一緒に居れば、いずれ弱い種族はそうなる。そう僕は思うのだけど……。
「いいだろう。保障ならいくらでもするぞ。私の愛したエルフの事を、知っている事のすべてを語ろう」
「でも、君には最凶、最悪のエルフが、執事をしているじゃないか?」
「それは下手をすれば、エルフを殺しに行く悪童を、預かっている事についてか? それともそうなった事情のエルフの過ちを、我より聞きたいって事なのか? エルフの物言いは、裏があって純粋な魔族の我にはわからぬ」
ホワイトの、アゾトの顔を見る表情は、珍しく、苦み走った顔をしている。
「それは、君の執事に語って聞かせるといいよ。僕はエルフからほぼ関わりのないところにいるからね。だが、いいだろう。人間の君たちがそこまでやった。おまけにあるエルフに、お灸をすえるところまで、いってくれた。劇としては……まぁ脚本家がどうかしてくれるだろう。合格点だ。だから、後はよろしく……ラドル」
「かしこまりました」
その時、頭の上から声がした。
振りかえれば、ラドルさんが僕の後ろに立っていた。
「宜しくお願いします……」
僕は少し驚き、それだけ言った。
気配がしなかった……。
「では、では、クリスティーヌ、しばらくのさよならだ。困ったら、私のもとへいつでも戻ってくるでいい……。待っているよ」
「お父さん、お元気で」
18歳に見えるクリスティーヌと、まだ、20代にしか見えないアゾト、人間には計り知れない関係だった。
「ほかには、我に話したいことは?」
「君の執事を……」
そこまでホワイトが話した時、僕らは地上に立っていた。
しばらくなのに、懐かしい風景……。
「うっ……行こう!」
そうホワイトが言う前に、皆、街に向け歩きだしていた。
僕の前では、クリスティーヌとニンフが仲良く、手をつないで歩いている。
続く
見ていただきありがとうござます。
またどこかで!




