町までの道を行く
草原の中の、あぜ道を彼ら歩いて行く。
どれくらい歩いただろう? マーストンは後方を振り向けば『妖精の迷い森』が大きな岩に阻まれ見るとが出来ない。
遠くに見える山々からやって来る風が、彼の横を通りに抜け、ダークエルフさんの黒く長い髪を揺らす。
そんな彼女は、ニンフと一緒に楽し気に歩いている。
そして彼らの目の前には、杭と、それをつなぐ板が張り巡らされた柵が現れて、永遠と思えるほど続いて行く。
なおも、あぜ道を歩いて行けば、それは僕らの行く道さえもふさいでしまっていた。
――そしても……この道は、それほどまでに馬車も通らないのだろうか? 開け閉めがめんどくさいだろうに……。
「それにしてもこの道を塞ぐ柵には、何回見ても関心感心させられますね」
そう言っている僕の前で、ニンフはバネを使っている柵の扉を押して、戻る姿を眺めている。
「ふふふ」
ダークエルフさんがそれを見て笑っている。
――ニンフが何故かおねぇさん役を始め、僕らのそばに居てくれるけど……。ダークエルフさんと仲良くしてくれて助かった。そして僕の行動が、どれだけ見切り発車だったかわかった。
「行こう。ふたりとも」
そうやって歩き出すと、すぐに羊の姿を眺めることができるようになる。
そして珍しかった風景は、日向ぼっこをしながら、草を食む羊たちを数え切れなくなるほど見ていくと、この羊をどういう風に飼育しているのか? って疑問にかわるが、誰も答えを出すことのないまま、やっぱり羊の多くいる風景が続いて行く。
のんびりした空気と、豊かな自然の風景。
彼は優しい瞳で羊たちを眺めるが、羊にニンフが近づくと、警戒してニンフの手をとり彼女を羊から離した。
そんな様子を、囚われていたダークエルフさんは風で流れる髪を、手でとめながらやっぱり優しい顔をして見ていた、が! 2人と去った後、残った羊がガッンと後ろ足で地面を蹴りあげた。
羊のロックオンは、ニンフとマーストン定まっているようだ!?
「キャー!」
そう言って彼女は叫び、マーストンたちのもとへと、疾風のように走って行く!
ニンフの空いている手を取り、羊の存在に気づいたマーストンと一緒に逃げた。
声は聞こえなくてもニンフが笑い、そしてマーストンとダークエルフさんは、笑いながら羊から走って逃げ去った。
彼らから逃げられた羊はポッンと、そんな様子を見ていたが、ゆっくりと仲間の元へと帰っていった。
◇◇◇◇◇
そしてどれくらい歩いたのか、羊の柵の中に彼らは、まだいた。
「可愛い」
そう言ってニンフたちは、道を大きく外れ、羊たちを梯子して渡り歩いている。
そしてさすが、彼女たちはニンフとダークエルフ、僕のようにこっちを警戒し、大きな羊をやんわり避ける作業に追われることはなく、華麗にさけられるようになっていた。
この調子だと、ダークエルフさんから出る謎の電撃により、丸焼きになる羊はいなさそうだ。
――だが、町に行けばそうはいかないはず、どうしようかな……。
そう考えていると、ニンフがこちらへ走って戻ってくる。その後に続きダークエルフさんも。
「走らないでいいよー、どうしたの?」
そう言うと、ニンフが進行方向を指さした。
彼女の長い金髪と、胸に結ばれている藍色のリボンが、草原を散歩する風にあおられふわっと風になびいた。
その風の向かった先、僕らの進行方向から、馬車がガタゴトと音をたてながらやって来る。
ほし草を乗せるような、日よけの幌がない荷馬車。
――御者は座るの赤い髪の青年の様で、……あの髪どこかで……?
その青年は、白いシャツを着ていたが、隣の座席に置かれら銀色に光る鎧は……。
「おーい、マーストン」
そうマーストンの名前を呼ぶ、見知らぬ赤髪の青年。
しかしどこかで……。
歳は、僕と変わらないように見えるが、どうだろう?
背広の袖と背中を掴んで、ニンフは僕の後ろに隠れてしまった。
ヒーヒーン! 馬は僕の前で前足を浮かし、ガタッと音をたてて馬車は止まる。
彼は鎧側にいる、僕らのもとへ下りてくるようだ。
彼を警戒してか、ニンフは僕の背後から離れてしまうが、馬のいななきで、マーストンが振り返ると、ニンフが馬の近くに立っていた。
「ニンフー、馬がびっくりするから触ってはだめだよー」
しかし彼の注意する声に、彼女はさも『わかっているわ』と、いう様にうなずくが、わかっているかもしれないが、距離は変わる事は無かった。
そしてそれを降りて来た、戦士の彼も心配するようにマーストンの隣で、一緒に見ている。
その時、ダークエルフさんがニンフの手を引き、馬から少し離れた場所に連れていってくれた。そしてニンフの顔を見て頬む、なのでニンフもにっこりと笑った。
――その様子を見て、少しだけ…………、ニンフが祖父と契約したばかりの、右も左もわからなった頃、僕と兄妹のようだった時の彼女を思い出した。
あの頃は、僕も彼女も精神年齢が子どもで、お互い補っていたが、ダークエルフさんは今、1人になってしまうと……きっと……心細いだろ。
◇
「大丈夫そうだな」
「ごめん、なんか君の馬を気に入ってしまったみたいで」
――銀の鎧で戦士だろうという事はわかる。
記憶にないが、たぶんギルドなのだろうが、ギルドでは作戦会議、次のギルドクエストについて話し合っていることが多い。
まわりを見る余裕はあまく、……ここは、わからないものは、わからないと素直に言うしかないだろう。
「その顔は、俺が誰か覚えてないようだな。悲しいぜぇ。俺はお前の事をづっと見てたのにな」
そう言って彼は僕の心臓を、げんこつでノックする。
「あ……それはすまない。君の顔はどこかで見たことはある。君は戦士なら、たぶん……ギルドだろうけど」
「まぁ、そうだろうなー。俺は回復の出来る奴の顔と名前は覚えたが、お前のパーティーメンバーは皆目だからな」
「あぁ……」
以前から、ヒーラー不足は深刻らしいけど、それで僕を見ていたのなら、僕自身もそこまで彼をそこまで覚える事はなかっただろう。少しだけ胸をなでおろした。
何せ、今までは『正義の鉄槌』内の事だけでも、手一杯だったから。
「まぁ……可愛いお嬢さんたちの次だな、お前は。几帳面に回復を寄越しそうだが、やはり、女の子に回復された方が、なんというか夢がある」
――僕がもう過去になってしまった、彼らの事を思い出し、少し表情を曇らせたため誤解があったのか、彼はそんな事をはなした。
それが逆に、パーティーメンバーでなくても、気をつかって貰った事について、なんか微妙にしんみりとしてしまった。
そんな僕の前に、現れた彼女たちを何気なしに見た。
そこには、お姉さんぽい顔をしているニンフが、ダークエルフの隣で立っていた。
そして灰色のワンピースを風に揺らしながら、ニンフはやっぱり、馬たちをすごく見ていた。
――……手には、いつのまにか薬草が! 油断も隙も無い。
そしてダークエルフさんは、僕がニンフを見ているのを見て、彼女もニンフを見た。笑いかけるように口角を上げていたが、そのまま笑顔が固まった。白いパジャマの様な服を着た彼女は、今度は手を口元へ当てて戸惑っている。
うーん……、彼女なら大丈夫だろう、見守ってみよう。
「まぁ、僕は純粋なヒーラーってわけじゃないから、他にヒーラーいるなら、そちらの冒険者を僕も強くお勧めする。僕自身も女性であるってことに拘らないが、ヒーラーのいるパーティーへ加入し存分に、魔法を使ってみたいと思うからね」
「だが、世の中そんなに甘くないようだ。ギルドに一週間もいる事になった。根が生えるまで、後、少しだからお前を迎えに来たマーストン、俺はアレックスだ!」
彼はそう言って真っすぐに手を差し出し、僕たちは握手する。
「あぁ、よろしくアレックス。マーストンです」
「じゃー俺たち仲間だな! 一緒にパーティーを組もう、マーストン! あそこのベンチはこりごりなんだ。けつが痛くなる!」
「けつ……」
「ペチッ」
あ…………ニンフだった。ニンフが、背伸びして僕より少しばかり背の低い、アレックスの頬に苦い薬草を押し当ててた。その横で安心したようなダークエルフさんがいる。
――しかしいったい、いつの間にここへ?
彼は頬にあるニンフの薬草を受け取り、不思議そうに表と裏をひっくり返してみた。
「いいのか? これは精霊の薬草じゃないのか?」
――はい…………、その精霊が、目の前のニンフです。
「どうぞ。ニンフは食べて貰いたいそうですよ」
「そうか――、お嬢さんは金持ちなんだな……。非常用で買おうを思ったが、1万ダニマは、手が出せなかった」
「1万!?」
僕が驚く中、アレックスは薬草と初遭遇で、黙々とあの苦い薬草を食べている。
それはそれで驚いた。
「あまり出回ってない上に、乾燥させると効果が半減するからな、出回るとすぐ売りきれるからかもしれないが……」
「そんな高価なものだなんて……。あっ、はい、これ口直しの蜂蜜入りの水です」
それを彼は手で遮る。
「いや、いい。本物であれば味を覚えておきたい。時々、偽物を売りつけるやつがいるからな」
漢気……、あのとんでもなく苦い薬草を初見で、食べきったばかりか、口直しの蜂蜜水をいらないなんて……。
僕が驚くなか、ニンフが荷馬車の後ろにまわり、ちょこんと座り、風を受けてなびく髪を手で押さえている。
「じゃーまず出発だな」
「ですが……」
「大丈夫だ。初めからパーティーに、入ってくれるとは思っていない。まぁ、暇な時は手伝ってもらいたいがな」
そう言って僕の背中を軽く叩き、馬車の横へと誘導する。彼は僕がパーティーを抜けてたことを知っていた。彼らはその事を触れ回っているのだろうか?
やはり気が重くなった、だが、それと関係なくアレックスはいい人間なのかもしれない? 精霊の感を信じていいかもしれない。
薬草が大きく評価されて、単純に嬉しかった可能性もあるけど?
今は次へと進みたい、ここのまま、落ち込むのではなくアレックスとも、パーティーを組んでいくと考えた方が、健全だ。
そんな気持ちのマーストンが見つめる中、御者席にベルトでとめてあった、鎧を後ろの荷台の箱の中へアレックスは入れた。
そしてダークエルフさんも、ニンフの横にちょこんと座って、馬車という新しいものに進んで乗っている。僕だけがその場にとどまるわけにはいかないだろう。
「あの、固定のパーティーについて約束は出来ませんが、ありがとうございます迎えに来てくれて、冒険の、ギルドクエストのパーティーへ是非行きましょう!」
「本当か!? よろしくな!!」
「はい、よろしくおねがいします」
「じゃー行くぞぉ! では出発!」
「「はい」」
手綱が打たれ、馬たちが歩き出す。
あぜ道の道の悪いせいで、荷馬車は左右、上下に揺れ動くが、今のところダークエルフさんの様子に変わったところはないようだ。
振動を逃がし、エルフらしい気品ある様子で、ゆったりとしながら乗っている。
「ニンフ、すまない。ダークエルフさんを見ていてあげて」
『任せて!』という感じに、頭をコクコク動かすニンフに、「「ありがとう」」って言う、ダークエルフさんと僕。
――結構まずい、ファミリー化して来てしまっている……。)
「立ち入ったことを聞くけど、彼女たちは君のパーティーメンバー?……ってことはないか、君のパーティーメンバーなら、今朝会った。結局のところ、君はうー……ん、戦力外要員であるらしい。彼らの中ではね。だから、俺はその機に乗じて馳せ参じた」
「ある程度わかっていたことです。ですが、パーティーから抜けるにしても彼らと話し合わなければ、僕と合わない人間は多くいると思いますが、なぜこんな結果に……違うな……。うーん、彼らが話せば、話が通じます。だから、二言、三言話してみますよ。納得できない。もしくは理解した。そのどちらかの気持ちから、始めてみようかと思ってます」
「うん! 俺には理解できないね。 無理そうなら、無理でいいじゃねぇか。だが、お前は回復が出来るから、お前についていってやるぜ!」
そこまで言うと、彼は身を寄せて来た。
「それにダークエルフの彼女は、こんな田舎では招かれざる客だ。彼女が暮らすためには、もう少し都会へ行くべきだ。それには戦士の助けがいるはずだ」
そこまで言うと、もとの位置へ戻り、前だけを見て馬車を走らせる。
どうやら、考える時間を僕にくれたらしい。
馬車はのんびり、草原の中を走って行く。
続く
見ていただきありがとうございます!
またどこかで。




