戦いの前に
アゾトの城の近くに、対決の場所が定められた。
結局、魔界へ泊まった彼らは、今は城の屋上から執事と【世界樹の葉】の戦いを見守る事となる。
そこには白いパラソル付きの丸い机、貴族の庭にありそうな椅子も、いくつか置かれている。
昨夜、自分の部屋の食材が気になっていたラドルも、それについて頼んでいた同僚をにすべて任せ、朝の今、現在ではこの戦いについて記載するために、細かい魔力の調整を行っている。
地上の決戦の場で、執事とアレックスが相対している。
その後ろに、他のメンバーを見る事は無い。まわりの深い森の中にいるようだ。
「楽しみだなー。これで人間側の彼らが勝つと、僕の劇はきっと上手くいく。もし……、そうでなくとも、やはり脚色は必要だ。もちろん、やってくれるよね?」
そう、楽し気に紅茶を飲むホワイトに、笑顔を向けるラドル。
「申し訳ありません。こういう戦闘の場にギルド職員が立ち会った場合、それはギルドランクの昇級試験と同意義だとお考えください」
「彼らは今、Bランク、なら次はAランクかな? 少々、無理難題の相手なんじゃないの?」
「いえ、今回Sランクへの進級を考えております」
「うちの娘がいるのならSではなく、SS、もしくは超スゲーのSじゃないかな?」
アゾト、彼はつい先ほどまで、眼下に見える戦いの場に居て、彼の娘のダークエルフのお嬢さんの心配をして、手を握り、離さず居たはず……いつの間に? そうラドルは考えたがそれは無意味の事だ。
彼の行動は人間では、この大空洞に密かに潜伏している僅かな格別なSランクの冒険者にしかわからない。
「超スゲーのS、クックッカッコ悪い」
そんなアゾトを、ホワイトはそんな風に言って煽るし……、もう帰りたい。
こんなおじいちゃんたちの世話より、栄養が完璧なダイエット食について考える方が千倍ましだ。
「ですので、出来ましたら、お二方に解説していただけないでしょうか? 人間の私には、今回の戦いを理解できない部分もございます。そうすればホワイト様、中途半端な戦いでは人々の感動はよべません。一般人では理解できない、そこまで演じてこそ舞台は完成するのです。アゾト様、クリスティーヌ様と、その仲間の雄姿が正確に伝わってこそ、けちのつけようのない昇級の結果がでるのです。お二方、よろしくお願いいたします」
ラドルは、立ち上がり深く頭を下げた。
「仕方がないなー」
「わかった。娘のためならやってもいいよ」
ちょろい、エルフも魔族もこんなに弱点丸出しで大丈夫なのだろうか?
力がある分、思考力が低下しているのか?
そう思った時、ホワイトも、アゾトも心底冷え切った目でこちらを見た。
動いていたはずの、魔法のペンが止まり、カンカンと音をたてて地面へと落ちる。
「どうした? 心が乱れて、魔力が途切れたか?」
落ちた拾ったペンを手渡すアゾトの赤い瞳は、弱い小動物を侮る者の顔をしている。
脆弱なものをいたぶるのは、彼のプライドが許さない、だが……歯向かう、愚かな弱い小動物は虫唾が走る、って顔だ。
それが今、自分に本能的にそれがわかる。
水槽の中の鑑賞するための魚の様に、自分は、彼が手を借りて、この大空洞で生きていられる。
その力を抜かれたならば、次の瞬間、息はないのかもしれない。
なら、今から眼下で戦うあの青年たちは……?
今まで、人間の基準で考えすぎていたのでは?
「ありがとうございます」
ラドルはアゾトからペンを受け取り、ペンの自動筆記を再開される。
すべてがわかっているはずの、ホワイトは何も言わず、動かず、今から戦う青年たちを見ている。
ホワイト、エルフの彼は、【世界樹の葉】を長い時の中で、残すべき冒険者と見ているのだろうか?
◇◇◇
そして――。
戦いの幕は上がる。
「執事の得物は鞭、それに対してアレックス様は剣、執事はレイソン様の腹部へ大ダメージを食らわせるだけの殺傷能力がありました。そしてこの舞台の広さ、多くの戦士が戦い、人々が入り乱れる軍隊戦と違い、執事の鞭の長さが活きると思われます」
そうラドルさんが語る。
「それを言うなら、【世界樹の葉】の連中は小賢しいよ。戦士の彼? アレックスだけ表舞台に立たせ、相手の隙をつく作戦だ」
「ははは、上の世界の上級クラスでも、まだそんな戦い方なのか?」
「どうなの!?」
ホワイト様の言葉を受け、アゾトが答えると、すぐさまこちらに話しを振って来た。
二人とも、先ほどの殺気など欠片もない。
本当に……長命種って奴は。
二人ともラドルの言葉を持つのか、心を読んでいるのか、ラドルの方を見ているが、ラドルはラドルでこのロートル、2人に飲まれるわけにいかない。
「おふたりとも、我々もただの、命の短い短命種出ない事をお見せしますよ」
「「それは知っている。人間はいつの時代も小賢しいからね」」
ラドルは、両側からエルフと、魔族の声を聞く事になる。
本当にこのロートルども……。
そう彼は、笑顔を崩さず考えた。
そして視線を地上へと移す。
◇◇
「もう、遺書についてご記入はお済になりましたか?」
「いや、必要なら待とうか?」
「グッぅ……、減らず口たたけるのは今だけですよ……」
「それは、最後までここへ立つていて確かめるよ」
アレックスと執事はそう会話を交わし、お互いが後ろへ向きなり、離れた位置まで歩いて行く。
「戦いの際には、そこまで挑発にな乗らないか……」
そうアレックスが呟く。
そして2人は、城の最上階を見上げる。
戦いの開幕は、この城の主アゾトが寄越すはずだ。
その時、城の最上階から悲鳴? 叫び声とともに、白いものが、はためきながら落ちて来る。
執事は、それを見ながら頭痛がした。
それは先ほど、庭園から運んだパラソル付きのテーブル。
そしてまわりに降ってくるものは、ティーカップのセット。
どれも、この大空洞でなかなか手に入らない物ばかりだ。
「アゾト様……」
執事の目は怒りに燃える。
戦いは今日終わっても、執事の仕事は明日も続く。
娘のクリスティーヌの可愛さのために、真剣勝負の戦いを……。
「はぁ……」
彼にとっては、この戦いも、愛しい娘にあった思い出の余興に過ぎないのか……。
そう思い、ガードを無視して、テーブルとティーカップを救った。
だが、目の前のヒュームの戦士からの攻撃は来なかった。
「何故? 攻撃しなかったのですか? 戦いの場所で正々堂々なんてやっていると死にますよ」
そう負け惜しみを執事は言う。
「自らの仕事をするために、がら空きとなった人間を攻撃する人間に、俺は友達を預けない。今回はダークの事に重きをおいただけだ。あんたもそれが見たくて、戦うんだろう?」
「本当に、貴方たちは人間の癖に生意気ですね!!!」
◇◇
「執事から仕掛けた!?」
ラドルの声が響く。その声を、今は床に置かれた魔法の自動ペンが書き込んでいる。
その次の瞬間、アレックス様の前を無数の岩が覆った。
「あれはノーム! それも相当な手慣れだな。執事の初手の鞭を見切るとは!」
アゾトが城から落ちそうな勢いで、テラスの壁に手をかける。
次の瞬間には、覆った岩からアレックスが現れーー。
「炎の刃!」
炎を纏う剣技を、執事にぶつけられるが、ギリギリ避けられる。
「アレックス様の、出て来る方向をよんでいた?」
「あぁ……言っただろう? 大空洞に住む人間なら、人の気配を嗅ぎ分けられるって」
しかし、彼が言い終わらない内に、後方からアレックス目掛け魔法が飛んでくる。
その次の瞬間、執事は魔法の詠唱があった場所目掛け、「風の刃よ、切り刻め!」と、竜巻の魔法を撃ちこむ。
屋上で、一瞬、音が消えた。
「当たってない。致命傷になる前に、デコイが身代わりとなって、負傷者はこちらへ隔離される事になっている。だが、あの戦士の青年も、あの魔法をうった者の音も嗅覚、視覚もあやふやになった。こっちの世界にいる人間はそれが出来るのは知っている。だが、彼らがそれが出来る様には見えなかった……。まだ、弱いウサギの群れかと……」
「ウサギはウサギで戦い方があるのです」
そうラドルは告げた。抜け目のないエルフ、ホワイトはどうだかわからないが、ヒーラーとジョブは長い年月をかけて、その魔法について試行錯誤を繰り返し、それもまた見破られてきた。
ヒュームから遠く離れて過ごしてきた。
彼らにそれを見破るのは今は難しい。
だが、その時間は僅か30分の可能性さえある。
だらだらしていては負ける未来は必ず、訪れてしまうだろう。
続く
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